19 / 123
第2章ダンジョンの怪物
18反撃の狼煙
しおりを挟む
「松尾さん……目を覚まして」
深淵から聞こえる優しい声。
私はこの声の主を知っている……この声は……。
――蓮の声だ。
なんで彼の声が聞こえるの?……私は死んだはず……私は死を覚悟した。
でも、まだ聞けるなら……もう少し……もう少しだけでもいい……彼の声を聞かせて……。
私は声の方へと意識を集中させていった。
自らの運命に抗うように、一筋の光を手繰り寄せるように。
すると身体の感覚が戻ってきた。
一気に疲労感が体を襲い、地面の冷たさが背中を伝わる。
「冷たい……」
私は恐る恐る目を開けて、ここがどこなのかを確認した。
無機質な岩や、松明(たいまつ)に薄暗く照らされる洞穴の天井(てんじょう)。
どうやらここはダンジョンの中のようだ。
私は、ただ地面に寝そべった状態でしばらく天井を見つめていた。
私まだ死んでいないのかな?
あっ……戦闘、まだ終わっていないのね。
〈コマンドを選択してください〉 ――――――――――――――――――――――――――
選択時間:1分
→ ●戦う
●逃げる
――――――――――――――――――――――――――
不気味な機械音と共に、彼女の目の前に表示されたのは見覚えのある『コマンド』画面だった。
まだ戦わなくちゃいけないのかしら。
……って、あれ……なんか涼しくなった?
胸の部分が冷たいんだけど。
私は胸の部分に手を乗せて、自分に何が起こっているのか確かめようとしたの。
そして触った。化け物に剥(は)がされ、裸になった上半身を。
「え!?」
(服がはだけてる……なんで?……)
あと、粘液みたいなものも胸にベッタリとついてるし、気持ち悪い。
絶望とは異なる、困惑の表情を浮かべながら私は上半身を起こした。体が怠いけど状況を確認したかったの。
それでまず始めにやった事は、近くに落ちていた制服のシャツを羽織(はお)る事。
このままだと恥ずかしいからね。
だから今、私は頰を火照(ほて)らせ顔を下に向けている。
正直いうとこの時、頭からは戦闘の事など頭から消えていたわ。
それよりも裸同然の状態で意識を失っていた、という事実が恥ずかしくて耐えられないの。
(もしかして、鮫島や蓮に裸見られたのかしら……)
恥ずかしい気持ちを押し殺しながら、私は恐る恐る横を向いたの。でも、鮫島の姿はなかった。
鮫島がいない……その事実は、私の表情を強張(こわば)らせる。
(鮫島は化け物に殺されたの?……でも、じゃあ何で私生きて)
その状況の中、私の中で最大の謎が生まれたわ。あの時、私は化け物に殺されるはずだった。
でも私は生きている。
「誰が私を庇(かば)ってくれたの?」
もし攻撃されたのなら一撃でHPが0になるだろう。必ず誰かが庇ったはずだ。
誰かが私の身代わりになったという事、それは間違いないと思う。
しばらく腕を組んでいると私はある事を思い出したの。
(そういえば、気を失っている時に蓮の声が聞こえたような気がした)
私が勢いよく振り向くと、そこには地面にグッタリと倒れた蓮の姿があった。
外傷は全くなさそうだが、地面を顔につけているためにどのような表情をしているのかが全く分からない。
なぜ蓮の声が聞こえたのか?……私は謎を解くために優しい口調で語りかけたわ。
「蓮が、私を庇(かば)ってくれたの?」
「………」
でも返答がない。それどころか体がピクリとも動いていないようだ。
だから今度はダンジョン中に響き渡るような大声で怒鳴るしかない。
私は深呼吸をした後にありったけの声量を蓮にぶつけてやったわ。このまま死なせるわけにはいかないじゃない。
「蓮! 起きろぉぉぉおお」
「………あ、松尾さん。やっと起きましたか」
地面につけた顔をゆっくりと向ける蓮を見て、私安心したわ。
少し微笑んで会話を続けたの。
「私を庇ったの?」
「はは、庇ったって言葉は大げさかな」
意識を完全に取り戻した彼は、地面からゆっくりと立ち上がり化け物の方を向いたまま私に語りかけた。
「松尾さん、細かい話は後でしましょう。もう時間がありません。MPを俺に分けてください」
「え、MP?……わ……わかったわ……」
何が何だか分からなかったけど、戸惑う私とは対照的に、蓮は目の前のコマンド画面を見つめた後に目を閉じていた。
もう意識が飛びそうだ。そんな表情のまま彼はボソッと何かを呟いていたわ。
「このターンで『呪怨(じゅおん)』を発動できなければ、俺が意識を失ってお終(しま)いかな」
「……」
「頼む……微(かす)かな希望だけでも残してくれ」
蓮から漏れ出る言葉。
彼がゆっくり目を開けるとコマンドの表示画面が変わっていたみたい。拳を握りしめて目に生気が戻っていた。
――――――――――――――――――――――――――
選択時間:5秒
→ ●物理攻撃
●呪怨(じゅおん) ※MP移譲が行われる予定の為、可能
●身を守る
●アイテム ――――――――――――――――――――――――――
「よし……」
彼は静かにそう呟くと化け物をにらんだ。
その時、蓮の目に希望の光が灯(とも)った――。
深淵から聞こえる優しい声。
私はこの声の主を知っている……この声は……。
――蓮の声だ。
なんで彼の声が聞こえるの?……私は死んだはず……私は死を覚悟した。
でも、まだ聞けるなら……もう少し……もう少しだけでもいい……彼の声を聞かせて……。
私は声の方へと意識を集中させていった。
自らの運命に抗うように、一筋の光を手繰り寄せるように。
すると身体の感覚が戻ってきた。
一気に疲労感が体を襲い、地面の冷たさが背中を伝わる。
「冷たい……」
私は恐る恐る目を開けて、ここがどこなのかを確認した。
無機質な岩や、松明(たいまつ)に薄暗く照らされる洞穴の天井(てんじょう)。
どうやらここはダンジョンの中のようだ。
私は、ただ地面に寝そべった状態でしばらく天井を見つめていた。
私まだ死んでいないのかな?
あっ……戦闘、まだ終わっていないのね。
〈コマンドを選択してください〉 ――――――――――――――――――――――――――
選択時間:1分
→ ●戦う
●逃げる
――――――――――――――――――――――――――
不気味な機械音と共に、彼女の目の前に表示されたのは見覚えのある『コマンド』画面だった。
まだ戦わなくちゃいけないのかしら。
……って、あれ……なんか涼しくなった?
胸の部分が冷たいんだけど。
私は胸の部分に手を乗せて、自分に何が起こっているのか確かめようとしたの。
そして触った。化け物に剥(は)がされ、裸になった上半身を。
「え!?」
(服がはだけてる……なんで?……)
あと、粘液みたいなものも胸にベッタリとついてるし、気持ち悪い。
絶望とは異なる、困惑の表情を浮かべながら私は上半身を起こした。体が怠いけど状況を確認したかったの。
それでまず始めにやった事は、近くに落ちていた制服のシャツを羽織(はお)る事。
このままだと恥ずかしいからね。
だから今、私は頰を火照(ほて)らせ顔を下に向けている。
正直いうとこの時、頭からは戦闘の事など頭から消えていたわ。
それよりも裸同然の状態で意識を失っていた、という事実が恥ずかしくて耐えられないの。
(もしかして、鮫島や蓮に裸見られたのかしら……)
恥ずかしい気持ちを押し殺しながら、私は恐る恐る横を向いたの。でも、鮫島の姿はなかった。
鮫島がいない……その事実は、私の表情を強張(こわば)らせる。
(鮫島は化け物に殺されたの?……でも、じゃあ何で私生きて)
その状況の中、私の中で最大の謎が生まれたわ。あの時、私は化け物に殺されるはずだった。
でも私は生きている。
「誰が私を庇(かば)ってくれたの?」
もし攻撃されたのなら一撃でHPが0になるだろう。必ず誰かが庇ったはずだ。
誰かが私の身代わりになったという事、それは間違いないと思う。
しばらく腕を組んでいると私はある事を思い出したの。
(そういえば、気を失っている時に蓮の声が聞こえたような気がした)
私が勢いよく振り向くと、そこには地面にグッタリと倒れた蓮の姿があった。
外傷は全くなさそうだが、地面を顔につけているためにどのような表情をしているのかが全く分からない。
なぜ蓮の声が聞こえたのか?……私は謎を解くために優しい口調で語りかけたわ。
「蓮が、私を庇(かば)ってくれたの?」
「………」
でも返答がない。それどころか体がピクリとも動いていないようだ。
だから今度はダンジョン中に響き渡るような大声で怒鳴るしかない。
私は深呼吸をした後にありったけの声量を蓮にぶつけてやったわ。このまま死なせるわけにはいかないじゃない。
「蓮! 起きろぉぉぉおお」
「………あ、松尾さん。やっと起きましたか」
地面につけた顔をゆっくりと向ける蓮を見て、私安心したわ。
少し微笑んで会話を続けたの。
「私を庇ったの?」
「はは、庇ったって言葉は大げさかな」
意識を完全に取り戻した彼は、地面からゆっくりと立ち上がり化け物の方を向いたまま私に語りかけた。
「松尾さん、細かい話は後でしましょう。もう時間がありません。MPを俺に分けてください」
「え、MP?……わ……わかったわ……」
何が何だか分からなかったけど、戸惑う私とは対照的に、蓮は目の前のコマンド画面を見つめた後に目を閉じていた。
もう意識が飛びそうだ。そんな表情のまま彼はボソッと何かを呟いていたわ。
「このターンで『呪怨(じゅおん)』を発動できなければ、俺が意識を失ってお終(しま)いかな」
「……」
「頼む……微(かす)かな希望だけでも残してくれ」
蓮から漏れ出る言葉。
彼がゆっくり目を開けるとコマンドの表示画面が変わっていたみたい。拳を握りしめて目に生気が戻っていた。
――――――――――――――――――――――――――
選択時間:5秒
→ ●物理攻撃
●呪怨(じゅおん) ※MP移譲が行われる予定の為、可能
●身を守る
●アイテム ――――――――――――――――――――――――――
「よし……」
彼は静かにそう呟くと化け物をにらんだ。
その時、蓮の目に希望の光が灯(とも)った――。
0
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~
軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。
そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。
クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。
一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる