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第3章覚醒の刻
32地獄からの脱出
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ここはダンジョンの最下層。戦車と人だけが存在する空間。
その空間で俺・石黒・氷華の3人が腕を組んで考え込んでいた。
そこには、敵モンスターもいなければ生々しい血の匂いも騒々しいエンジン音も無い。
ただ、洞穴を通り抜ける風の音だけが聞こえる。
あまりにも静かな空間。
自衛隊の隊員数名は外に出て固まっている3人に対して乗車を促す。
ここはダンジョン内なのだと、恐ろしい敵が巣食う化け物の住処(すみか)なのだと言わんばかりの大きな声で。
「大将! 早く戦車に乗り込んでくださいよ! ダンジョンから撤退します」
閑静な空間に響き渡る大声は石黒だけでなく他の2人にも届いたようだ。
先程現場についたばかりの氷華は俺に判断を求めてきた。帰ってきたら急に自衛隊がいるのだ。理解が出来ないのだろう。
「私達も乗った方がいいのかしら……」
「お前はまず鎧を脱げ! 頭だけでもいいから。皆んな怖がってるんだ、モンスターじゃないかって」
「あ、ごめんごめん」
【ガチャン!】
彼女が頭の裏に手を回すと大きな鉄の音と共に素顔が現れた。
重厚な鎧に隠された可愛らしい女性、それを見て1番驚いていたのは石黒だ。
人間かすらも疑問であったのに出てきたのは、モデルと見間違うような美しき女性であったから無理もない。
「本当に……人間だったのか……」
「蓮! あの失礼なおじさんはだれ!」
「あの人、自衛隊の偉い人だよ」
「え……」
氷華が恐る恐る石黒の顔を見ると、彼は起こる様子もなくニコッとした表情でこちらを見た。
「気にしなくていいのじゃよ。ささ、2人とも早く戦車に乗ってくれ」
軽率な発言をしたと青ざめる氷華に対して、石黒は優しく微笑んでくれたのだ。
いや、手招きまでして戦車に入れと案内までしてくれた。
戦いは終わったのだと実感できる光景だ。
長かった。正直、何回も死ぬかと思ったよ。
鮫島が裏切った時や、火憐が化け物に寄生された時、本当に死ぬと感じた。
でもね。
(意外に何とかなるもんなんだな……)
俺の口元は緩み、その足は戦車の方向に向かって歩き出す。
すぐそばには氷華もいるし、火憐は戦車の中で治療中みたいだ。
多少の精神的、肉体的ダメージは負ってしまったが3人とも命に別状はない。
初のダンジョン攻略にしては大成功と言える部類じゃないかな。
【ガチャッ】
戦車内に入ると俺は座り込んでしまった。すると石黒が近づいてきたボロボロな外見を見て心配してくれているのだろう。
彼も座り込んで俺と同じ視線に合わせると、ゆっくりとした口調でなぜダンジョンにいるのかを語った。
「君達はよく生きてたね」
「どういう意味ですか?」
「実は、わし達は先に突入した部隊の救出に向かっていたんじゃ。連絡の取れなくなった先鋒隊のな」
「……」
俺は石黒の話を聞いて思い出した。化け猫のステータスに記載されていた殺人カウントを。恐らく先鋒隊の方々は全滅したんだろう。
石黒は俯いて黙っている俺に気づくと少し悲しそうな表情で肩に手を置いてきた。
「ふっ。黙り込んでいるという事は、彼らがどうなっているのか予想はついておるのじゃな。儂も隊員達につけたGPSを辿って探してみても何も見つからん。ソナーを使って調査してもこの地点が最下層らしくての」
「だから、ダンジョンから脱出するんですね」
「そうじゃ、でも良かったわい。少年達を救出する事が出来たのだからな」
「はい、ありがとうございます……」
石黒の口調とは裏腹に、彼の表情は暗く寂しそうな目をしていた。
行方不明の先鋒隊の事を思うと、気持ちが暗くなってしまうのだろう。
俺はその心情を察してその後は何も声をかけなかった。
戦車内の固い床に座り込んだまま、ただじっと、ダンジョンから外に出る瞬間を待ち続けたのだ。
戦車の揺れが心地いい。後、数十分で外にたどり着くのかな?
ここは最下層だ。まだまだ時間はかかるかな、なら寝ようか。今日はもう疲れた。
俺は戦車の揺れに誘(いざな)われ眠りについた。
深い深い眠りへと……まるで次の戦闘へと備えるかのように。
しかし、その必要はないのだ。
なぜなら次に俺が目覚めるのはダンジョンの外なのだから。
「もう着いたぞ……」
ぐっすりと眠っている俺に向かって、石黒が囁(ささや)いた。
「終点じゃよ」
「……え!」
気がつくと自分達は外にいた。戦車の中にいても隙間から満月の灯りが差し込んでくる。
その事実に気づいた俺はすぐさま戦車上部の蓋を開けて空を確認した。
上を見つめる蓮の表情は徐々に崩れていき、やがて目元からは涙が溢れ出したんだ。
(本当に、本当に俺達は帰ってきたんだ。もう……無理だと思ってた)
俺は目に涙を浮かべた。その目に広がるのは煌々と輝く夜空の星空達だ。
視界には収まりきらない程の星。壮観な光景が、まるでダンジョンからの生還を祝福するように蓮達の上空に輝いている。
しかし、感動も束の間。
俺が空を見上げていると、ダンジョン内で死地を経験していない氷華が大声をあげて彼を現実に引き戻す。
「蓮! 明日の学校、寝坊しちゃうから早く帰るよ~」
「学校?……」
「明日も平日よ!」
「ははは。そうか……そうだよな」
氷華の『明日も学校』って言葉に、俺はダンジョン内での出来事は全て夢なんじゃないかって思ったよ。
でもね。夢じゃない。現実なんだと、すぐに気付く事が出来たんだ。
なんでかって?それはね。
「氷華! 家帰る前に、その鎧脱いでおけよ!」
彼女が頭以外を鎧に包んでいたからだ。
その空間で俺・石黒・氷華の3人が腕を組んで考え込んでいた。
そこには、敵モンスターもいなければ生々しい血の匂いも騒々しいエンジン音も無い。
ただ、洞穴を通り抜ける風の音だけが聞こえる。
あまりにも静かな空間。
自衛隊の隊員数名は外に出て固まっている3人に対して乗車を促す。
ここはダンジョン内なのだと、恐ろしい敵が巣食う化け物の住処(すみか)なのだと言わんばかりの大きな声で。
「大将! 早く戦車に乗り込んでくださいよ! ダンジョンから撤退します」
閑静な空間に響き渡る大声は石黒だけでなく他の2人にも届いたようだ。
先程現場についたばかりの氷華は俺に判断を求めてきた。帰ってきたら急に自衛隊がいるのだ。理解が出来ないのだろう。
「私達も乗った方がいいのかしら……」
「お前はまず鎧を脱げ! 頭だけでもいいから。皆んな怖がってるんだ、モンスターじゃないかって」
「あ、ごめんごめん」
【ガチャン!】
彼女が頭の裏に手を回すと大きな鉄の音と共に素顔が現れた。
重厚な鎧に隠された可愛らしい女性、それを見て1番驚いていたのは石黒だ。
人間かすらも疑問であったのに出てきたのは、モデルと見間違うような美しき女性であったから無理もない。
「本当に……人間だったのか……」
「蓮! あの失礼なおじさんはだれ!」
「あの人、自衛隊の偉い人だよ」
「え……」
氷華が恐る恐る石黒の顔を見ると、彼は起こる様子もなくニコッとした表情でこちらを見た。
「気にしなくていいのじゃよ。ささ、2人とも早く戦車に乗ってくれ」
軽率な発言をしたと青ざめる氷華に対して、石黒は優しく微笑んでくれたのだ。
いや、手招きまでして戦車に入れと案内までしてくれた。
戦いは終わったのだと実感できる光景だ。
長かった。正直、何回も死ぬかと思ったよ。
鮫島が裏切った時や、火憐が化け物に寄生された時、本当に死ぬと感じた。
でもね。
(意外に何とかなるもんなんだな……)
俺の口元は緩み、その足は戦車の方向に向かって歩き出す。
すぐそばには氷華もいるし、火憐は戦車の中で治療中みたいだ。
多少の精神的、肉体的ダメージは負ってしまったが3人とも命に別状はない。
初のダンジョン攻略にしては大成功と言える部類じゃないかな。
【ガチャッ】
戦車内に入ると俺は座り込んでしまった。すると石黒が近づいてきたボロボロな外見を見て心配してくれているのだろう。
彼も座り込んで俺と同じ視線に合わせると、ゆっくりとした口調でなぜダンジョンにいるのかを語った。
「君達はよく生きてたね」
「どういう意味ですか?」
「実は、わし達は先に突入した部隊の救出に向かっていたんじゃ。連絡の取れなくなった先鋒隊のな」
「……」
俺は石黒の話を聞いて思い出した。化け猫のステータスに記載されていた殺人カウントを。恐らく先鋒隊の方々は全滅したんだろう。
石黒は俯いて黙っている俺に気づくと少し悲しそうな表情で肩に手を置いてきた。
「ふっ。黙り込んでいるという事は、彼らがどうなっているのか予想はついておるのじゃな。儂も隊員達につけたGPSを辿って探してみても何も見つからん。ソナーを使って調査してもこの地点が最下層らしくての」
「だから、ダンジョンから脱出するんですね」
「そうじゃ、でも良かったわい。少年達を救出する事が出来たのだからな」
「はい、ありがとうございます……」
石黒の口調とは裏腹に、彼の表情は暗く寂しそうな目をしていた。
行方不明の先鋒隊の事を思うと、気持ちが暗くなってしまうのだろう。
俺はその心情を察してその後は何も声をかけなかった。
戦車内の固い床に座り込んだまま、ただじっと、ダンジョンから外に出る瞬間を待ち続けたのだ。
戦車の揺れが心地いい。後、数十分で外にたどり着くのかな?
ここは最下層だ。まだまだ時間はかかるかな、なら寝ようか。今日はもう疲れた。
俺は戦車の揺れに誘(いざな)われ眠りについた。
深い深い眠りへと……まるで次の戦闘へと備えるかのように。
しかし、その必要はないのだ。
なぜなら次に俺が目覚めるのはダンジョンの外なのだから。
「もう着いたぞ……」
ぐっすりと眠っている俺に向かって、石黒が囁(ささや)いた。
「終点じゃよ」
「……え!」
気がつくと自分達は外にいた。戦車の中にいても隙間から満月の灯りが差し込んでくる。
その事実に気づいた俺はすぐさま戦車上部の蓋を開けて空を確認した。
上を見つめる蓮の表情は徐々に崩れていき、やがて目元からは涙が溢れ出したんだ。
(本当に、本当に俺達は帰ってきたんだ。もう……無理だと思ってた)
俺は目に涙を浮かべた。その目に広がるのは煌々と輝く夜空の星空達だ。
視界には収まりきらない程の星。壮観な光景が、まるでダンジョンからの生還を祝福するように蓮達の上空に輝いている。
しかし、感動も束の間。
俺が空を見上げていると、ダンジョン内で死地を経験していない氷華が大声をあげて彼を現実に引き戻す。
「蓮! 明日の学校、寝坊しちゃうから早く帰るよ~」
「学校?……」
「明日も平日よ!」
「ははは。そうか……そうだよな」
氷華の『明日も学校』って言葉に、俺はダンジョン内での出来事は全て夢なんじゃないかって思ったよ。
でもね。夢じゃない。現実なんだと、すぐに気付く事が出来たんだ。
なんでかって?それはね。
「氷華! 家帰る前に、その鎧脱いでおけよ!」
彼女が頭以外を鎧に包んでいたからだ。
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