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第4章過去との決別
49命乞い
しおりを挟む鮫島は俺の強さを受け入れられなかった――。
強大な力を目の当たりにしてもイカサマだと馬鹿にして愚かにも攻撃をしてきたんだ。
勿論。俺には全く効かなかったけどね。
俺が『鉄の棺桶』を壊して外に出た後、目の前にいたのはいつもと違う鮫島だった。
声を震わせてこう言っている。
「もう戦いをやめないか?」ってさ。
最初は顔をクシャクシャにしながら俺を見ているだけだった。
しかし、俺が無視していると地面に手をつけて頭まで擦り付け始めた。まるで土下座のような格好だ。
「この通りだ。頼む!」
「えっ」
当然かもしれないが土下座を目にするのは初めてだ。
ましてやあの鮫島が土下座するなんて全く信じられない。
俺は驚いたよ。思わず体を前に出して声を出すほどに。
「鮫島君。そこまでしなくていいよ」
「すまない。俺が馬鹿だった。お前がこんなに強かったなんて……」
「謝らなくてもいいよ。もともと鮫島君との戦闘はお互いに無傷のまま終わらせようと思ってたからさ」
「蓮……」
鮫島はそう言うと頭を上げて俺を見つめた。
その瞳はまるで、無垢な少年のように透き通っている。
更生したのかと思わせるようなそんな瞳だ。
鮫島の反応に、俺は嬉しくなって顔をほころばせながら会話を続けた。
「反省してる?」
「えっ……」
「俺を虐めてた事だよ。今、鮫島君が大きな力を前に恐れているようにさ。俺も怖かったんだ」
俺の言葉に言葉を詰まらせる鮫島。彼は自らの目を手で覆って反省しているようだ。
肩を震わせながら会話を続けた。
「……そうだったのか。うん。その気持ちはこっち側になって初めて分かったよ」
「じゃあ………」
「すまなかった。蓮の事を虐めてたこと謝るよ。この通りだ」
「……」
鮫島は謝罪した後も、再び床に頭をこすりつけて俺に許しを請うた。
その光景は異常だ。クラスメイト達も口に手を当てて驚いている。
あのプライドの高い鮫島が土下座をして自らの非を認めているなんて信じられないだろう。
正直、俺も信じられなかったくらいだ。
しばらく沈黙が続くと鮫島の方から口を開いた。
「蓮。さっき無傷のまま戦いを終わらせたいって言ったよな?」
「うん。そうだけど」
「俺はその方法を知っているんだ。それぞれが『逃げる』のコマンドを選べば、戦闘が終了するはず」
「……」
「だからこのターン。蓮は『逃げる』を選択してくれ。俺は蓮を信じてるから」
「……あぁ」
鮫島の目を見ると嘘をついているようには見えなかったんだ。
表情も悪魔のような笑顔から真剣なモノへと変わっている。
そんな彼を見ていると無条件に信じてあげたくなるものだ。しかし、無闇に信じる事は出来ない。
俺は目を瞑ってダンフォールさんに語りかけた。
(ダンフォールさんに聞きたい事があるんですが)
(なんじゃ少年よ)
(プレイヤー同士の戦闘って互いに『逃げる』を選択すれば強制終了されるんですか?)
(そのはずじゃ。少なくとも儂のいた世界ではそうじゃった)
(そうなんですか! ありがとうございます!!)
俺が明るい調子でダンフォールさんに返すと、彼は不機嫌そうな口調で話を続けた。
(嬉しそうじゃな)
(はい! 鮫島君が更生してくれたみたいなので)
(更生か。あっ。そう言えばいい忘れとった事がある)
(何ですか?)
(『王の裁定』が発動しておるじゃろ? あれは発動者が3ターン過ぎれば発動するで気をつけてくれ)
(って事は、つまり、このターンが俺の実質的な最後のターンというわけですか)
俺が心配そうに尋ねるとダンフォールは笑いながら答えてくれた。
(ははは。いやそう言うわけではないがな。もし王の裁定が発動されたなら儂に代わればいい)
(ん? はい)
彼との会話が終了した後に俺は後ろにある大きな首吊り台を眺めた。
もしこの魔法が発動すれば俺のHPが0になる。
でも、ダンフォールさんの言葉を聞くとそうなっても問題ないらしいが。
だったら俺は迷う事なく『逃げる』を選択した。
ありえない事だが鮫島が裏切ったとしても、俺の命は保証されるわけだからな。
俺が選択を終わらせると機械音が響き出だした。
〈プレイヤー『蓮』は『逃げる』を選択しました。プレイヤー『鮫島』は『同意』か『拒絶』のどちらかを選んでください〉
それを聞いている鮫島の顔は実に笑顔だったよ。
悪魔のような笑顔ではなく、無垢な少年のような笑顔で思わず俺も微笑んでしまうような笑顔だった。
この機械音を聞いた鮫島は言葉を続けた。
「ありがとう蓮。俺の事を信じてくれて!」
「いや、いいよ。これまでの事を反省してくれるって言うんだから」
でも、この後違和感を感じたんだ。
俺が精一杯の笑顔でそう答えると、鮫島は急に口に手を抑えて笑い出したからね。
何がおかしいのか分からないが、腹を抱えて笑っている。という表現が相応しい程に。
「ふふ。くはははははは!!!」
「どうしたの。鮫島君?」
「ほんとお前は優しいなぁ。だからいつまでも虐められるんだよぉ」
「え?……」
鮫島の表情は無垢な笑顔のままだった。
恐らく彼は本心から言っているのであろう。悪意を一切感じない。
だからこそ、始めはあいつの言っている事が理解できなかったんだ。
そんな鮫島を見ている俺の表情はどんなものだったのだろうか?
正直よく分からない。
ただ怒っていない事は確かなんだ、単にじっと鮫島を見つめていたよ。声も出さずにね。
もうそんな次元じゃ無いんだ。
そしてトドメは機械音だ。俺は思い知らされたよ。また鮫島は俺の事を裏切ったんだって。
そう。機械音は俺にこう告げたんだ。
〈プレイヤー『鮫島』は『拒絶』を選択しました。ゲームを続行してください〉
ってさ。
機械音の知らせる無情の現実。それを聞いて俺の何かが崩れた。
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