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第4章過去との決別
52削除【デリート】
しおりを挟む『王の裁定』が発動して俺のHPは0になった――。
はずだった。
しかし俺はまだ生きている。
鮫島はその現実を受け入れられない様子だ。顔を震わせながら一歩、また一歩と後ろに下がっていく。まるで幽霊でも見ているかのように。
そして、負け犬のように吠えている。
「何で……何で生きてるんだよぉ!!」
「儂が生きていると不都合な事でもあるのか? それに、お主の好きな戦闘が続けられてよいじゃろ」
「お……俺は戦闘が好きなわけじゃないんだ……」
「ほぉそれは困ったなぁ。お主には消えてもらおうと思っとるのに」
「な……何言ってるんだよ。蓮君。俺達は友達じゃねぇか」
「怖いのか?」
「こここ怖くなんかねぇよ。てかお前また喋り方おかしくなってねぇか? いい医者を紹介してやるからよ」
「ははは。いらぬ心配じゃ……では、もうそろそろ参るか……」
ダンフォールさんはそう言うと目を瞑って呟いたんだ。『呪怨』って……。
するとドス黒い霧が俺の右手を覆うように集まってきた。
前に俺が使った『呪怨』とは別の種類なのだろうか?あの時は敵全体を黒い霧で囲んで終わりだったはずだ。
それに今回は使用するMPの値が多い。
前は250消費したがダンフォールさんは今回は1000消費している。
機械音が教えてくれたんだ。
〈プレイヤー『蓮』は『呪怨』を発動いたしましたので、MPを1000を消費します〉
呪怨の発動。
もちろんこの機械音は鮫島にも聞こえているはずだ。
彼は顔を青くしながら俺に向かって話しかけてきたよ。助けてくれって。
自分勝手すぎるだろう。流石の俺も怒りの感情が湧いてきたよ。
「今回も装備を破壊するだけだよなぁ! なぁ!!!」
「おめでたい奴じゃ。前回のが最期のチャンス。今回は直接いかせてもらうぞ」
【ガッ!!!】
ダンフォールさんが勢いよく前に飛び出すと、そのまま黒いオーラを纏った右手で鮫島の頭を鷲掴みした。
鮫島はただ目を開けて固まっているだけで抵抗しない。
体が動かないのだ。
「な……なんだこれ? 体が動かねぇ」
「『呪怨』が発動されたからじゃよ。しかもこれは特別じゃ」
「なんだよ特別って」
「知らない方がよいぞ」
ダンフォールさんの声には憐れみの感情が含まれていた。彼は静かに呟いたんだ。
すまぬって……。
【ゴゴゴゴゴ!】
その瞬間轟音とともに鮫島の後ろから大きな門が出現した。
扉を支える両翼の柱は人間の骨で作られており扉は真っ黒な霧が集まって形作られている。
【ギィィィィィィ……】
扉がゆっくりと開かれるとそこには何も無い。
ただの暗闇があった。光すらない深淵の空間が。
そして、それを確認するとダンフォールさんは静かな言葉で唱えた。
「『呪怨…… 異次元への扉』発動……。亡者達よ。この者を深淵へと連れて行け」
「……」
ダンフォールさんの言葉に反応したのは鮫島ではなく機械音だった。
いつものような淡々とした口調ではなく、甲高い化け物のような声で高笑いをしている。
気持ち悪い。亡霊の叫び声みたいだったよ。
〈キャハハハハハハ!!!〉
その機械音を聞いている鮫島の顔は白くなっていく。
恐怖で声も出せずに鮫島は俺の顔を見つめて、これからどうするつもりだって訴えかけているようだ。
でも、俺にはどうなるかなんて分からない。
ダンフォールさんも無言で鮫島の頭を掴んだままだ。
異様な光景。異様な状況。それを目の前にしてクラスメイト達の中には気絶して倒れる者もいた。
まぁ俺がクラスメイトの立場なら気絶するかな。
機械音の笑い声がした後、門の中から真っ黒な長い手が大量に伸びてきたんだ。
その手が鮫島の肩、腕、足、腰などを一つ一つ掴んでいく。
この時には鮫島は涙を流していた。
これが単なる恐怖から来るモノなのか。それともこれまでの事への後悔なのかは分からない。
ただ分かる事は鮫島が門の中へ、深淵の中へとゆっくり引きずられているという事実だけだ。
門から伸びる黒い手はジリジリと、だが着実に鮫島を深淵へと引きずり込んでいる。
それを見ながらダンフォールさんは鮫島に語りかけていた。
その時にはすでに彼は鮫島の頭から右手を外していた。
しかしよく見ると、右手にあった黒い霧が全て鮫島の顔全体に移っていた。
でも鮫島はまだ諦めていないようである。まだ虚勢を張っているからだ。
「鮫島と名乗る者よ。まだ聞こえておるか?……」
「はっ! 何だよ。驚かせやがって。真っ暗になっただけじゃねぇか!」
「あぁそうだな」
「なんだよ。これはただの目隠しだろ? 早くとけよぉお!」
鮫島は大声を出しながら暴れている。顔に纏わり付いた霧を取ろうとしているのだろうか。
でももう手遅れだ。
だって、真っ黒な霧が顔全体に纏(まと)わり付いているのだから。
哀れな鮫島はゆっくりと門の中へ、深淵へと引きずり込まれ、遂に体全体が入ると門がゆっくりと閉まった。
【ギィィィ……バタンッッ】
門が完全に閉まりきった。それをダンフォールさんは確認すると自身の右手で首を搔き切るジェスチャーをした。
そしてこう言ったんだ。
「さらばだ鮫島殿よ……。削除!……」
ダンフォールさんが涼しい顔をすると、門が霧のようにパッと消えた。
鮫島は異次元の門に閉じ込められ、その門ごとこの世界から消したのだ。
もう二度と彼と会う事は無いのだろう。そう思っているとちょうど機械音が終了を告げた。
〈プレイヤー『鮫島』が消滅したため戦闘を強制終了いたします〉
〈なお、この世界から消滅した『鮫島』のデータは『消去』されます〉
つまり、これで戦闘は終了したのだ――。
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