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第5章崩れゆく世界
74番犬の主
しおりを挟む「奴隷だと?」
自衛官達が苦戦したケルベロス。
それをいとも簡単に討伐した少年を見て彼等は驚いていた。
何しろその少年の職業が【奴隷】だと言うのだから、信じられないだろう。
◆◇◆◇◆◇◆
「それは本当なのか?……」
顔をしかめる自衛官達。
俺が【奴隷】だって正直に話したらさ。
自衛官達は口を開けて驚いていたよ。嘘だろ?って表情だった。
でもしょうがないだろうけどね。奴隷は最弱。これが常識なんだから。
驚きを隠せない自衛官が何度も確認してきたほどだ。
「ほ……本当に奴隷なのか?」
「はい。そうですけど」
俺はその確認に対して笑顔で答える。何度も確認されるのは正直良い気分ではない。
けど、そんな事で一々腹を立てていてはこの先やっていけないからな。
それにまだ安心できる状況じゃないんだ。ケルベロスが数匹残っている。
実際、俺の後ろからはケルベロスの声がまだ聞こえているんだ。
先程よりも大きい唸(うな)り声。仲間を殺され、荒ぶっているのだろう。
そう思っていると自衛官の一人が後ろを指差して叫んだ。
「危ない! ケルベロスが走ってきたぞ!」
「ガルルルルルル!」
ダッダッダッダッ!!!
確かにこちらに向かってきているのだろう。
足音が聞こえる……。でもそんな事、俺にとってはどうでもいいんだ。
どうせ、噛み付かれても痛くも何ともないのだから。
「少年ッ! 避けろ!」
声を荒げる自衛官。みるみるうちに顔が険しくなっていく。
しかし俺は動かなかった。
待っていたんだ。
向こうからこちらに来るのを……そして……。
「ガルルルルルル!」
俺の耳元で呻き声が聞こえた後、ケルベロスの牙が肩に突き刺さろうとしているのが少し見えた。
(まぁこんなの効かないけどね)
俺はそのままケルベロスに肩を噛ませた。
それを見ていた自衛官は慌てて俺を助けようとしていたが、そんなの必要ない。
噛み付いた瞬間。
自衛官達にも歯が砕ける音が聞こえただろう。
パキパキッ……。
そうだ。やっぱり俺の予想通りケルベロスの歯は飴細工のように粉々に砕けた。
俺が振り向くとケルベロスはその赤い目を大きく開けたまま空中で固まっている。
「じゃあなケルベロス」
パッ……。
俺は拳でケルベロスを貫いた。貫かれたケルベロスは一瞬のうちに消える。
さっきと同じだ。いや、今回は足に力を入れてないので床に穴が空いていないな。
攻撃していて思ったんだが力を入れる必要がないらしい。
少し拳を当てるだけで化け物は消失しそうだ。
「おい……嘘だろ?……」
消え去るケルベロス。それを見ている自衛官の声だ。
目の前にいる少年にはケルベロスの牙も効かず……一瞬で化け物を葬り去っている。
そんな光景を見た自衛官は困惑の表情を浮かべていた。
小さな声で呟いているのが聞こえる。
「あれは魔法か?」
彼等は魔法だと思っているようだ。でも、すまないな。俺には魔法なんて使えない。
しかし、俺は誤解を解くよりもまず残ったケルベロスの討伐を優先させた。
あと数匹しか残っていないんだ。どこかに逃げられるよりも今片付けたい。
「後始末といくか」
コツコツコツ……。
俺はケルベロスに向かって歩き出した。
ゆっくり……ゆっくりと……要するにケルベロスに襲いかかって欲しいんだ。
そうした方が穴を増やさなくて済むしな。
力(りき)んで床を蹴ったらこのエリア自体が地下に沈みかねない。
ただでさえ穴だらけだっていうのに。
コツコツコツ……。
「どうした? かかってこないのか?」
「ガルルルルルル!」
俺は歩きながらケルベロスを挑発する。
腕を組みニヤつかせるその表情は、側(はた)から見れば異常者かもしれない。
しかし俺にとってケルベロスは最早(もはや)化け物でも何でもない。
拳(こぶし)に触れれば消えてしまう、儚(はかな)い存在なのだ。
まぁ今の俺の攻撃値は100万以上あるのだから当たり前の感情なのかもしれないが。
「ガルルルルルル!」
ダッダッダッダッダッ……。
そう思っているとついにケルベロス達が襲ってきた。
一斉にだ。
でも、能力を上げたお陰(かげ)か、化け物の動きがスローモーションに見える。
(遅い……遅すぎる……これじゃ止まっているのと同じじゃないか)
コマ送りのように動くケルベロスの攻撃を避けて。
俺は歩きながら拳を当てていった。力を込めて貫く必要なんてない。
パッ……。パッ……。パッ。
拳に触れるたび……ケルベロスが消えていく……。
最初からそこには何もなかったかのように、俺が歩いた跡には何も残らない。
そして………。
コツ………。
俺が立ち止まる時にはケルベロスは一匹たりとも残っていなかった。
(もう終わりか)
俺はどこか物足りなさを感じつつも体を回転させる。
自衛官達の元へ戻るために。
振り向くと自衛官は各々、独り言を呟いていた。
その一つを聞いてみると、どうやら彼等には俺の動きが見えなかったらしい。
「何が起きていた? あの少年が歩くと化け物が一瞬で消える」
自衛官達は口を開けまた固まっていた。
状況を理解できていない……。そういったように見える。しかし俺も状況が理解できていないんだ。
驚いているところ悪いが自衛官達に質問させてもらったよ。
何であなた達がここに来たのかって。
「すみません。ちょっといいですか?」
「質問かな?」
「はい。何で突入してきたんですか? 俺は石黒大将から、二人でここを制圧するって聞いてましたけど」
「え……? 私達はそんな事聞いてないぞ……」
首を傾げる自衛官。いや、首を傾げたいのはこっちだよ。
何で連絡がうまくいってないんだ……。
俺が呆れた顔でボーッとしていると一つの疑問が湧いてきた。
あっ……そういえば……。
「石黒大将はどこにいるんですか? 銃撃を始める前に注意してたの俺だけだったじゃないですか」
「あぁ……大将なら、ほら。あそこにいるけど」
自衛官が指をさすのは、改札口近くの柱だ。でも、そこに石黒大将はいない……ん?……。
いや……柱のネズミ色より少し明るい箇所がある。
俺が柱を眺めていると自衛官がその方向に向かって大声で叫んだ。
「大将~! こっち終わったんで、早くきてください!」
「分かった! 今いくぞ!」
柱から聞こえる大将の声。もしかして石黒大将のスキルって柱になるスキルなのか?
俺は腕を組んでジッと見ていた。
だが、もちろんそんなスキルは無い。
しばらくすると分かったよ。石黒大将は盾を構えていたんだ。
自らの体を覆い隠すほどの巨大な盾。
その盾の色彩が柱のそれと酷似していたため、俺は気づく事が出来なかった。
石黒大将は。その盾のサイズを小さくして掌(てのひら)に収めると、こちらに向かって歩いてきた。
その顔は、少し不機嫌そうだ。
「お主ら! いきなり銃撃を開始するな! 儂が防具を装備していない事を知っとるじゃろう!」
「いやいや。大将が盾を持っている事も知っているので。それよりも何で勝手にこの出口に入ったんですか? 俺達何も聞かされてないですよ」
それを聞いた石黒は仕方なぁ、といった表情でため息をついた。
「もしお主らに言ったら付いてくるじゃろう。一人で制圧するなんて危険すぎる、とか言ってな」
「まぁ……それはそうですけど」
コツ……。
石黒大将はこちらに辿り着くと突入してきた自衛官に指示を出している。
「無線を使って地上に連絡してくれんか? 制圧完了と」
「イエッサー!」
敬礼をして無線で連絡を始める、自衛官。
はぁ……やっとだ。
やっと落ち着ける……。そう思うと俺は床に座り込んだ。
いくらステータスの値が高くとも、精神的に披露する事は免れない。
何も考えずに改札口の方を見ていた。
すると……。
足音が聞こえてくる。
コツ……コツ……。
今度は複数じゃない……単体だ。
またケルベロスか?……この場にいる誰もがそう思ったと感じる。
しかし、違ったんだ。
改札口から出てきたのは小学6年生くらいの少女。荷物を持たず、赤いワンピース姿でフラフラと歩いてきた。
それを確認すると俺は後ろを振り向いて自衛官達に呼びかけたんだ。
「あの! 女の子がいます!」ってさ。
後は自衛官に任せよう。そう思って再び改札口の方向を向いた。
すると……。
「お兄ちゃん……」
「え?」
気づくと。
――女の子が目の前にいた。
びっくりしたよ。
さっきまで遠くにいたはずの女の子が目の前にいるんだから。
しかも変な事を言ってくるんだ。
「何で? 何で私のペットを殺したの?」
ってさ。
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