迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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18 ウェイクアップ・リトル・マナ◇-2

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◇◇◇◇◇◇◇◇

『お願い……!』

 その時、首にぶら下げた、母親の形見が輝いた。

《──》

 ほんの一瞬、誰かの声がした。

 白い光の柱が天高く登る。

 周囲に虹のような輝きが満ちる。

「──!」

 ……魔術は成った。願いは光となって私の目の前に現れた。

「◾︎◾︎◾︎◾︎……?」

 怪物が、こちらを向いて戸惑うように動きを止める。

 瞬間、私を中心にして、足元から岩礁のようなものが隆起して橋が揺れた。

「あっ、わっ……」

「◾︎◾︎◾︎◾︎──ッ」

 怪物はそれに足を取られ、膝をつく。

「マナ様っ!……いや、これならっ!」

 その一瞬の隙にオードが、怪物の身体を駆け上がった。

「オード!」

「大丈夫だ!これで──」

 オードがその背中に手を掛けた時。

 ──私の足元は崩れた。

「あっ……」

 立っている事が出来ず、体勢を崩した私は、背中から落ちた。

 落下する瓦礫、視界の彼方に去って行く橋の姿。

 激しい風が音を鳴らして耳に響く。

 橋がどのくらいの高さなのかも分からない。

 もう、体に力も入らない。

 私がこれまでいた宮殿が"空"に浮かんでいるのが見えた。

 自分がそんな場所にいたなんて、ちっとも知らなかった。

 世界にあるものは全て、あるべき姿に戻ろうとする。

 石は空にあるべきものじゃない、だから地面へ向かって落ちる。

 私も落ちて、あるべき場所へ行くのだろう。

 私はずっと、ただの石ころだった。

 空は曇って真っ白に覆われている。

 それでも、私が見れなかったモノの一つではある。

 地面に叩きつけられるまで、どれほどの時間が残ってるか分からないけれど、もしこれが最後なら。

 真っ直ぐ手を伸ばし、手をかざす。

『……届かない…な…』

 流れて行く空気を手の平に感じた。

 海を見る事は叶わなかったけれど。

 魔術はあった。私は間違ってなかった。

 馬鹿なことをしたかもしれないけれど、オードはきっと助かった。

 それでも、たった一瞬の夢でも、悪くなかったと笑ってやろう。

 そんな、負け惜しみを……

「────!!」

「っ!?」

 凄まじい勢いで黒い何かが横切った。

 オードが戦っていた白黒の怪物だ。

『……そんな、オード……』

 あと少し雲を眺めていたかったけれど、もう時間切れらしい。

 目を閉じる。

 アレに噛み砕かれるのも、地面に落ちるのも変わらない。

 さあ、夢から覚める時が──。

「マナ様!!手を!!」

「えっ……?」

 私の手を掴む誰か。

 誰かは私を引き寄せて抱き留めた。

 硬い男の人の感触。

「待たせた」

「ど、どうして……」

「俺はマナ様の騎士だからな」

 顔を上げた私の目に映るのは、風に舞う黒髪、紅蓮の瞳。

「…………遅い…死ぬ…思う」

「済まなかった。だがもう問題無い」

「どうして……?」

「下を見てみろ」

 オードに言われるがまま、自分が落ちるはずだった先を見る。

「あ──」

 遥か遠くその先に霞む山々、足元に広がる広大な都市、空を行く船。

 壁のない景色。

 彼方まで広がる丸い地平線、そのどれも私が話でだけ知っていたモノ。

「……これは……外…世界」

 それは手を広げても、どこまでも続いていた。
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