【リメイク前】聖女は婚約破棄の上に追放されて、自由になりました。〜私は騎士と幸せを探しに行きますね〜

銀杏鹿

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第一幕

20 ウェイクアップ・リトル・マナ.2◇

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◇◇◇◇◇◇◇◇

「お願い……!」

 その時、首にぶら下げた、母親の形見が輝いた。

 そこから、白い光の柱が天高く登る。

 周囲に虹のような輝きが満ちる。

「──!」

 ……魔術は成った。願いは光となって私の目の前に現れた。

「◾︎◾︎◾︎◾︎……?」

 怪物が、こちらを向いて戸惑うように動きを止める。

 瞬間、私を中心に、岩礁のようなものが隆起して橋が揺れた。

「あっ、わっ……」

「◾︎◾︎◾︎◾︎──ッ」

 怪物はそれに足を取られ、膝をつく。

「マナ様っ!……いや、これならっ!」

 その一瞬の隙にオードが、怪物の身体を駆け上がった。

「おーど!」

「大丈夫だ!これで──」

 オードがその背中に手を掛けた時。

 ──橋は音を立てて崩れ始めた。

「あっ……」

 立っている事が出来ず、体勢を崩した私は、背中から落ちてしまった。

 橋がどのくらいの高さなのかも分からない。

 落下する瓦礫、彼方に去って行く橋の姿。

 激しい風が音を鳴らして耳に響く。

 もう、体に力も入らない。

 目に映るのは崩れる橋、私がこれまでいた宮殿が"空"に浮かんでいる。

 自分がそんな場所にいたなんて、ちっとも知らなかった。

 空は曇って真っ白に覆われている。

 それでも、私が見れなかったモノの一つではある。

 地面に叩きつけられるまで、どれほどの時間が残っているか分からないけれど、もしこれが最後なら。

 真っ直ぐ手を伸ばし、手をかざす。

「……届かない…な…」

 流れて行く空気を手の平に感じた。

 海を見る事は叶わなかったけれど。

 それでも、悪くなかったと笑ってやろう。

 なんて、負け惜しみを……

「────!!」

「っ!?」

 凄まじい勢いで黒い何かが横切った。

 オードが戦っていた白黒の怪物だ。

「……ついてない」

 あと少し雲を眺めていたかったけれど、もう時間切れらしい。

 目を閉じる。

 アレに噛み砕かれるのも、地面に落ちるのも変わらない。

 さあ、夢から覚める時が──。

「マナ様!!手を!!」

「えっ……?」

 私の手を掴む誰か。

 誰かは私を引き寄せて抱き留めた。

 硬い男の人の感触。

「待たせたな」

「ど、どうして……」

「俺はマナ様の騎士だからな」

 顔を上げた私の目に映るのは、風に舞う黒髪、赤褐色の瞳。

「…………遅い…死んだ…思った」

「済まなかった。だがもう問題無い」

「それって……?」

「下を見てみろ」

 オードに言われるがまま、自分が落ちるはずだった先を見る。

「──っ」

 私を言葉を失った。

 遥か遠くまで続く大地、その先に霞む山々、足元に広がる広大な都市、空を行く船。

 壁のない景色。

 彼方まで広がる丸い地平線、そのどれも私が話でだけ知っていたモノ。

「……これが、外の世界」

 それは手を広げても、どこまでも続いていた。

「……お気に召したようで良かった」

「で、でも、このまま…落ちる…危ない」

「気が付いてないのか?俺たちが何に乗ってるのか」

「……?え?」

 言われて漸く気がついた。

 私達は黒い何かの上に立っていた事に。

 って、さっきの白黒の怪物……!?

 白銀の粒子のような物を散らしながら、空を泳ぐように飛んでいる。

 装甲こそ纏っているけれど、今の姿は私が知っているシャチのような姿をしていた。

「と、飛んでる!なんで!?」

「乗り物だって言ったぞ」

「でも…ここ…海…じゃないよ?なんで…空…飛んでる?」

 海の生き物なのになんで、空を飛んでるんだろう。

「機海獣は、空を漂う"イムラーナ"の流れに乗ってるらしい。飛んでるんじゃなくて、その中を泳いでいるそうだ」

「イムラーナ?何それ?」

「俺達に分かるのは、それが確実に存在して、何処かへ流れているらしいという事だけだ。さあ、中に入るぞ」

 オードが足元に触れると、怪物の背中の装甲が開く。

「中って……?」

 オードに手を引かれ、その中へ入ると座席のような物が、少し離れて二つ並んでいた。

 中からは、外の様子が透明に透けて見えていた。

 風を切り、白銀の飛沫上げているヒレの装甲が見えた。

「座ってちゃんと掴まっててくれ、少し飛ばす」

「う、うん」

 オードが取手のような物を握って、引くと怪物は進路を変え、上を向いた。

「行くぞ」

 そして加速する。

 見えていた風景が遥か足元へ去って行く。

 空に浮かぶ宮殿を通り越して、さらに上へ。

 空を覆っていた雲が正面に近付き、その中へ突入する。

 少しの間真っ白になった視界から抜けると、そこには。

「これが、本物の空だ」

 そこには、本当に何も無かった。

 何も無いがあった。

 遮るモノの何一つ無い世界。

 どこまでも続いている蒼空。

 ステンドグラス越しじゃない、本物の空。

 そしてその下には。

「……雲の、海」

 白い雲の海が何処までも続いていた。

「……今はこれしか見せられないが」

「ううん…ありがとう」

 私は多分、この景色を忘れないだろう。
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