上 下
4 / 7

04 五兄弟会議 その1

しおりを挟む
「それでは今日の5兄弟会議を始める!」

 長男のシティラが円卓に集った兄弟達に向かって宣言する。

「点呼!シティラ!はい!長男です!」

 自分で自分を呼んで元気よく返事をするシティラ。

「よし、次はバルバ!」

「次男バルバ、自分はここに!」

 赤髪に黄金の瞳、筋骨隆々の青年バルバが応答し、筋肉に力を入れてシャツを破る。

「今日も筋肉が冴えているな。だが何故服を破った」

「我々は王子。服は着るか、着られるか、違いますか兄上」

「なるほど、一理ある。風邪をひくなよ。次、ヴィザヤ」

 バルバに換えのシャツを渡すシティラ。

「三男ヴィザヤ!今日も普通に元気です!」

 茶髪に赤い瞳の青年ヴィザヤが答える。

「流石は我が兄弟で最も普通な男、普通に返事ができるなんて、普通だな」

「ありがとうございます!」

「次だ!ラグナ!」

「……兄上。今日は絶好の乗馬日和だと思わないか?」

 薄紫の長髪に、蒼い瞳の美青年が白馬の上から微笑む。

「そうだなラグナ、だが会議室は馬で来るような場所じゃないんだ、戻して来なさい」

「そうかな。馬はどこにだって行けるさ。見てごらん、こんなに楽しそうじゃないか?そうだろうエクウス」

「ブルルッ」

 顔を近づけたラグナはエクウスの鼻水を浴びる。

「はははっ!やめろって、水が滴ってしまうだろう?俺をこれ以上美しくしてどうするつもりだい?」

「よし、いつも通りだな、次、ハサハ」

「五男の僕はいませーん、今日も鬱でーす」

 金髪に緑の瞳、顔はラグナとよく似た双子のハサハがやる気なさそうに言う。

「憂鬱なので、寝てていいですかー?」

「今日は非常に大事な話だ、寝ててもいいから、聞いてくれ」

「知ってるよ、今日の議題。そしてその結果も。全部占ってあるからさー、だからさー、テキトーにやっててよ」

「まあ、いつも通りか。さて今日集まってもらったのは他でもない。王選……お嫁さん探しについてだ!」

◇◇◇◇◇◇◇◇

「兄上!自分、この間の候補には捕食されるかと思いました!人間を食べない花嫁を探すべきです!」

 身震いするバルバ。

「凄い大きなラミアさんだったね」

 同意するヴィザヤ。

「僕は相談室の魔女の推薦を真に受けたのが悪いまーす、僕の占いを信用するべきでーす」

 突っ伏しながら言うハサハ。

「それはどうかな。食べられる方の気持ちを知ることができたじゃないか……なぁエクウス、そうだろう?」

「ブルルッ」

「ふむ、私の長男的セレクトに問題があったとは思えないのだが……」

 考え込むシティラ。

「ラミアさんの前は火の精霊だったね、普通に火傷したよ」

 包帯を見せるヴィザヤ。

「その前はイカ大王の御息女でした!彼女も自分を捕食しようと!」

 青い顔で震えるバルバ。

「悲しいことだ……エクウスはケンタウルスのお姫様がお気に入りだったのに……俺とはウマが合わないらしいんだ……」

「ラグナは先ず自分のことを考えてくれ、長男は心配だ」

「笑ってくれ……俺は親友の恋路を邪魔してしまった……蹴られるべきだろう、馬にね!」

 薄紫の長髪を靡かせ、ドヤ顔のラグナ。

「ラグナ……その、なんか上手いこと言ったな!流石はラグナだ!」

 何か言って欲しそうな顔を見たシティラはそう言って肯定する。

「兄上……もしかして上手いと馬を掛けたのかい?」

「え?何を?」

「はは!馬は駆けるものさっ!好きに駆けていいんだ!そうだろう兄上!」

「あ、ああ」

「あとさー、無機物もやめてよねー、せめて生き物じゃないと色々困るじゃんさー」

「モノリスとかは、もうやめよう。無機物とは頑張っても分かり合えない。大丈夫だ、長男は学習した」

「じゃあ、次はどうするんですか兄上」

 ヴィザヤが普通に尋ねる。

「……相談室の魔女から、ついに人間の候補を教えてもらった」

「自分、本当に人間かどうか心配です」

「俺は普通でいいと思うけど」

「いいじゃないか、人間も。俺たちも同じ人間なんだ、仲良くなれるはずさ」

「僕は最初から知ってるけどねー」

「これが相手の情報だ、島の王国であちらの王子と婚約していたが、破談になったらしい。私には破談になる理由が理解出来ないが」

 シティラが肖像画と彼女の功績を収めた資料を配る。

「経済の魔物……?今度こそ自分は捕食されてしまうのでは……」

「安心しろ本物の魔物ではない」

「え、この人、一人で国と同じ財力なの?普通に考えてこの人手放す?普通じゃなくない?」

「ああ、普通に異常だ」

「兄上、俺は聞きたいことがある!」

「どうしたラグナ」

「この美しい彼女は馬のどこが好きなのだろうか。足の速さだろうか……?それとも美しさか……」

「馬が好きとはどこにも書いてないぞ」

「占い通りだね、僕は異議ないよー」

「そうか、ありがとう。さて、相談室の魔女から受け取った候補はこの一人、長男が言いたいことはわかるな?」

「まさか、自分達はこの方を取り合うことになるので?」

「言う通りにすれば、そうなるなバルバ。これまでは立候補してきた方や、他国の姫君とのお見合いだったが、我々から求婚することになる、実際これ以上花嫁に相応しい相手はいないだろう」

「確かに……この財力と美貌なら、帝国に迎え入れるには、普通に良いと思うけど……取り合いか……」

「帝国……父上は何度も我々兄弟を争わせようとしてきた、今回もそうなのだろう。だが、何があろうとも争う気もなければ、王座を奪い合うつもりもない、そうだろう?異議はあるか?」

「「「「異議なし」」」」

「ありがとう、だからこそ、我々は争わずに問題を解決する道を探るべきだ、異議はあるか?」

「「「「異議なし」」」」

「だが、実際問題相手は一人しかいないわけだ。一体どうするべきか……」

「何を言うんだい?これまで俺たちはどんなものでも分かち合って来たじゃないか、花嫁も分かち合おう」

「花嫁は5等分出来ないだろう」

「はは、困ったねエクウス、どうしたら良いと思う?」

「ブルルッ」

「なるほど、そう言う考え方もあるんだね。ありがとうエクウス」

「エクウスはなんと?」

「ああ、花嫁を全員で共有しようってことさ」

「そんなことができるのか?」

「王妃が何人もいる国があるんだ、王妃一人に対して、王が何人もいても良いじゃないかって、エクウスが」

「エクウス……お前、もしや天才か……?」

「兄上、それでよろしいのですか!?自分はどうかと思いますが!」

「バルバの懸念も理解できる。だが、我々は五人で一つの兄弟、これを分てばまた悲劇が起きる」

「俺は別に構わないんだけど、普通に考えたらお相手がそれを許容するかな」

「ヴィザヤ、どういうことだ?」

「だって、夫婦になったらどうするの?」

「どうするも何も、普通に……」

「そう、普通に家族になって、跡継ぎを作らないといけない。そうしたら王子が最低でも五人産まれる。一度に五人も育てるのは大変じゃない?」

「だが我々も五人いる。子育ての不安は大丈夫なはずだ」

「兄上、自分は疑問なのですが、子供は同時に産まれるものなのですか?」

「分からん……我々は今は亡き母上が神と取引して産まれて来たらしいしな……」

「それ以前に、跡継ぎはどうやって作るのですか?自分達も神と取引を?」

「相談室の魔女は相手に任せればだいたい大丈夫としか言っていた。心配ないだろう」

「はは、俺は知っているさ、子供はコウノトリに乗って来るのさ!俺が馬に乗っているように!」

「ではコウノトリの発着地を建設せねばならないな……失礼のないようにしなければ」

「いや、兄上、普通に考えて相手に認めてもらわないとじゃない?」

「し、しまった……長男はコウノトリをどう歓待するかに執心していた…どうすれば良い……!」

「やっと僕の出番かな、兄上」

「ハサハ!何か名案があるのか?」

「占いで先のことを知れば、解決法が分かるんじゃないかなー?」

「その手があったか!頼む!」

「いくよ──ウンジャロウゲロパ、ゲホダベドベドベニャァァ!!」

「で、出た!ハサハの詠唱!」

「──見えたよ。先がどうなってるか」

「それは?」

「……僕らがどうしたのかは言えないけど、彼女には5通の手紙が届いている、王家の紋章付きだねー」

「それで?」

「そして、僕の占いで教えられるのはここまでー」

「なるほど。おそらく全員が手紙を送っていて、取り合いをしないということは……そうか、分かったぞ!」

「「「なんですか、兄上」」」

「愛、そして恋だ」

「愛?」

「恋?」

「愛馬……?」

「我らの全員のことを同じくらい好きになって貰えば良い、彼女が全員と結婚を希望するほどに!」

「な、なんと」

「だからこそ、それぞれが別に手紙を送り、求婚しているのだろう。彼女が全員を好きになれば、なんの問題もない!愛は全てを解決するはずだ!」

「なるほど、流石兄上!」

「それなら普通に良いと思うよ」

「はははっ、今すぐにでも駆け出したいな!エクウス!」

「じゃー、そういうことでー」

 こうして、五人の王子はそれぞれ手紙を認め、エヴァ・スミスへと送った。
しおりを挟む

処理中です...