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「すまない……きみがあまりにも可愛いことを言うから、抑えがきかなかった」
「は……あ……アー、レン……」
閉じそうになる瞼を必死で開き、気を失いそうになるのに首を振って抗った。
「いや……眠りたくない……」
「眠らせないよ。まだナディアが足りないんだ」
口移しで水を飲まされると、次第に乱れていた息が整ってきた。
そうしている間に、私はアーレンの髪を指で梳き、秀麗な顔、逞しい首、肩、腕、胸板、割れた腹筋へと順番に手で触れていった。
ああ、やっぱりアーレンはきれいだ。
どうした?と私を覗き込む蕩けるような金色の瞳は、深い愛情を伝えてくる。
誰よりも強く、美しいアーレン。
両手でアーレンの頬を包んだ。
「ね……翼に、触らせて?」
そうお願いすると、ふわりと黒い靄のようなものが現れ、すぐに黒い羽と翼へと変わった。
漆黒の羽に覆われた肩、腕、胸、腹。
大きな鷲のような形の、鋭いかぎ爪のある足。
それから、二対の翼。
とてもきれい。なにもかも、完璧な造形だ。
「どっちのアーレンも大好きよ。愛してるわ」
撫でまわして頬ずりをしてキスをして、柔らかな感触を堪能していると、寝台の上に胡坐をかいたアーレンと向き合う形で膝の上に座らされた。
深いキスで口腔内を貪られながら翼で抱きしめられて、すぐに夢見心地になった。
優しく温かな闇の中で、金色の瞳が月のように輝いている。
大好き。全部、大好き。なにもかも、全部全部、私のもの。
私は導かれるままに、自分から腰を落としてアーレンを受け入れた。
さっきまで激しく穿たれていた奥の弱いところを今度は押し上げられる形になり、はくはくと口を動かし呼吸をするのもやっとな私を、アーレンはゆっくりと揺さぶり始めた。
既に敏感になっている胎内は歓喜に震えながらアーレンを締めつける。
緩い動きではなかなか絶頂に達するまでいかないが、その分だけ互いをより深く感じることができるようだった。
「はぁっ、あ……アーレン、気持ち、いい?」
「気持ちいいよ。このまま溶けてしまいそうだ……ナディアも、もっと気持ちよくなろうな」
「ああっ!そこ……やっ、あ、ああっ」
「気持ちいだろう?」
「き、もちい、い……アー、レン……大好き……」
「俺のナディア。愛してるよ。俺のすべてはきみのものだ」
放したくない。離れたくない。行かないでほしい。
涙がアーレンの漆黒の羽を濡らしていく。
私たちは愛情を確かめあい何度もキスをして、夜が更けるまで求めあった。
「アルベルトとノーランだ。元は俺の部下だった。信頼していい」
翌朝の昼前に、なんとか歩けるようになった私は、ルークさんのお店で護衛となる二人の騎士を紹介された。
「アルベルトと申します。奥方様にお会いできて光栄に存じます」
「ノーランと申します。命にかえてもお守りいたします」
質素な服で普通の町民に扮しているとはいえ、立派な体格の騎士に跪かれるのはとても居心地が悪い。
「ええと、よろしくお願いします。私のことは、ここではアリアと呼んでください」
「承知しております。通常は、そこにいるルークと同じようなふるまいをしますので、ご安心を」
この二人もアーレンと同じようにルークさんの戦友ということで、しばらくルークさんのお店を手伝いながらエケルトに観光がてら滞在するという設定なのだそうだ。
「ルーク。面倒をかけるが、よろしく頼む」
「承知しております。アリアちゃんのことは、俺たちがしっかり守りますので心配いりません」
ルークさんは全ての事情を知らされている。
巻きこんでしまって申し訳ないと思うが、ルークさんがいてくれるのはとても心強い。
「それでは、行ってくる。ナディアを頼んだぞ」
「は。御武運を」
ルークさんと騎士二人が敬礼をする。
涙が滲みそうになるのを必死で堪える私を、アーレンは固く抱きしめた。
「必ず帰ってくる。いい子で待っていてくれ」
「うん……待ってるから……早く、帰ってきてね」
「ああ。俺がつけた痕が消える前には帰ってくるよ」
私の服の下に隠れる位置には、無数の赤いキスマークがつけられている。
ブラウスの襟で隠れるギリギリのところにまであるので、一番上のボタンを外すこともできない。
相変わらずの執着の表れだと思っていたが、こういう目的でもあったらしい。
私を映した金色の瞳を優しく細めて頬にキスをして、それから振り切るようにアーレンは去って行った。
外で見送りをするわけにもいかず、私は唇を噛みしめてアーレンが出て行った扉を見つめていた。
こうやって愛する人が戦地に赴くのを見送るのは二度目だ。
一度目の時、サミーとは二度と会えないということを覚悟して、今生の別れだと思って泣きながら見送った。
そして二度目の今は、そんなことは思っていない。
アーレンは、必ず私のところに帰ってきてくれると信じている。
私の渾身の祈りを籠めた剣帯が、きっとアーレンを守ってくれるから。
どうか、無事で。
私は再び天に祈った。
「アリアちゃん……」
遠慮がちに声をかけてきたルークさんに、私はくるりと振り返った。
「私、今日からまた仕事をしますね」
ルークさんも二人の騎士も、驚いた顔をした。
「それは、喜ぶやつも多いと思うけど……大丈夫?無理しなくてもいいんじゃないか?」
「大丈夫です。仕事をしている方が気が紛れますから」
アーレンのことが心配で、側にいられないのが寂しくて、一人で家に籠っていたら私は一日中でも泣き続けてしまう。
私がそんな不健康な生活をすることを、アーレンは望んでいない。
アーレンが帰ってきた時は、とびきりの笑顔で迎えてあげたい。
そのためにも、いつも通り仕事をして、おいしい食事をして、健康で元気な私のままでいないといけないのだ。
「大丈夫。アーレンは、絶対に帰ってきますから」
自分だけでなくその場にいる全員に言い聞かせるように呟いて、私は裁縫箱を手に取った。
「は……あ……アー、レン……」
閉じそうになる瞼を必死で開き、気を失いそうになるのに首を振って抗った。
「いや……眠りたくない……」
「眠らせないよ。まだナディアが足りないんだ」
口移しで水を飲まされると、次第に乱れていた息が整ってきた。
そうしている間に、私はアーレンの髪を指で梳き、秀麗な顔、逞しい首、肩、腕、胸板、割れた腹筋へと順番に手で触れていった。
ああ、やっぱりアーレンはきれいだ。
どうした?と私を覗き込む蕩けるような金色の瞳は、深い愛情を伝えてくる。
誰よりも強く、美しいアーレン。
両手でアーレンの頬を包んだ。
「ね……翼に、触らせて?」
そうお願いすると、ふわりと黒い靄のようなものが現れ、すぐに黒い羽と翼へと変わった。
漆黒の羽に覆われた肩、腕、胸、腹。
大きな鷲のような形の、鋭いかぎ爪のある足。
それから、二対の翼。
とてもきれい。なにもかも、完璧な造形だ。
「どっちのアーレンも大好きよ。愛してるわ」
撫でまわして頬ずりをしてキスをして、柔らかな感触を堪能していると、寝台の上に胡坐をかいたアーレンと向き合う形で膝の上に座らされた。
深いキスで口腔内を貪られながら翼で抱きしめられて、すぐに夢見心地になった。
優しく温かな闇の中で、金色の瞳が月のように輝いている。
大好き。全部、大好き。なにもかも、全部全部、私のもの。
私は導かれるままに、自分から腰を落としてアーレンを受け入れた。
さっきまで激しく穿たれていた奥の弱いところを今度は押し上げられる形になり、はくはくと口を動かし呼吸をするのもやっとな私を、アーレンはゆっくりと揺さぶり始めた。
既に敏感になっている胎内は歓喜に震えながらアーレンを締めつける。
緩い動きではなかなか絶頂に達するまでいかないが、その分だけ互いをより深く感じることができるようだった。
「はぁっ、あ……アーレン、気持ち、いい?」
「気持ちいいよ。このまま溶けてしまいそうだ……ナディアも、もっと気持ちよくなろうな」
「ああっ!そこ……やっ、あ、ああっ」
「気持ちいだろう?」
「き、もちい、い……アー、レン……大好き……」
「俺のナディア。愛してるよ。俺のすべてはきみのものだ」
放したくない。離れたくない。行かないでほしい。
涙がアーレンの漆黒の羽を濡らしていく。
私たちは愛情を確かめあい何度もキスをして、夜が更けるまで求めあった。
「アルベルトとノーランだ。元は俺の部下だった。信頼していい」
翌朝の昼前に、なんとか歩けるようになった私は、ルークさんのお店で護衛となる二人の騎士を紹介された。
「アルベルトと申します。奥方様にお会いできて光栄に存じます」
「ノーランと申します。命にかえてもお守りいたします」
質素な服で普通の町民に扮しているとはいえ、立派な体格の騎士に跪かれるのはとても居心地が悪い。
「ええと、よろしくお願いします。私のことは、ここではアリアと呼んでください」
「承知しております。通常は、そこにいるルークと同じようなふるまいをしますので、ご安心を」
この二人もアーレンと同じようにルークさんの戦友ということで、しばらくルークさんのお店を手伝いながらエケルトに観光がてら滞在するという設定なのだそうだ。
「ルーク。面倒をかけるが、よろしく頼む」
「承知しております。アリアちゃんのことは、俺たちがしっかり守りますので心配いりません」
ルークさんは全ての事情を知らされている。
巻きこんでしまって申し訳ないと思うが、ルークさんがいてくれるのはとても心強い。
「それでは、行ってくる。ナディアを頼んだぞ」
「は。御武運を」
ルークさんと騎士二人が敬礼をする。
涙が滲みそうになるのを必死で堪える私を、アーレンは固く抱きしめた。
「必ず帰ってくる。いい子で待っていてくれ」
「うん……待ってるから……早く、帰ってきてね」
「ああ。俺がつけた痕が消える前には帰ってくるよ」
私の服の下に隠れる位置には、無数の赤いキスマークがつけられている。
ブラウスの襟で隠れるギリギリのところにまであるので、一番上のボタンを外すこともできない。
相変わらずの執着の表れだと思っていたが、こういう目的でもあったらしい。
私を映した金色の瞳を優しく細めて頬にキスをして、それから振り切るようにアーレンは去って行った。
外で見送りをするわけにもいかず、私は唇を噛みしめてアーレンが出て行った扉を見つめていた。
こうやって愛する人が戦地に赴くのを見送るのは二度目だ。
一度目の時、サミーとは二度と会えないということを覚悟して、今生の別れだと思って泣きながら見送った。
そして二度目の今は、そんなことは思っていない。
アーレンは、必ず私のところに帰ってきてくれると信じている。
私の渾身の祈りを籠めた剣帯が、きっとアーレンを守ってくれるから。
どうか、無事で。
私は再び天に祈った。
「アリアちゃん……」
遠慮がちに声をかけてきたルークさんに、私はくるりと振り返った。
「私、今日からまた仕事をしますね」
ルークさんも二人の騎士も、驚いた顔をした。
「それは、喜ぶやつも多いと思うけど……大丈夫?無理しなくてもいいんじゃないか?」
「大丈夫です。仕事をしている方が気が紛れますから」
アーレンのことが心配で、側にいられないのが寂しくて、一人で家に籠っていたら私は一日中でも泣き続けてしまう。
私がそんな不健康な生活をすることを、アーレンは望んでいない。
アーレンが帰ってきた時は、とびきりの笑顔で迎えてあげたい。
そのためにも、いつも通り仕事をして、おいしい食事をして、健康で元気な私のままでいないといけないのだ。
「大丈夫。アーレンは、絶対に帰ってきますから」
自分だけでなくその場にいる全員に言い聞かせるように呟いて、私は裁縫箱を手に取った。
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