日常探偵団

髙橋朔也

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密室への侵入 その肆

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 なんと、包丁は床に刺さらずに落ちてしまった。
「ほら、違うじゃない」
 そう言うと、中島は将棋の駒を持った。高田は後ずさりをして、新島を見た。新島は笑顔でうなずいた。
「それで? 私に濡れ衣を着せておいて、どうするの?」
 新島は高田と入れ替わりで前に出て、口を開いた。
「よく言うよな、犯人・中島一葉」
「!」
「言いかえさないのか? あのトリックはわざと間違えさせた。実際のトリックは少しだけ手を加えていた。まあ、犯人が中島先輩ってのは変わらないけどな。なんで間違ったトリックを披露させたと思う?」
 将棋部の部員の一人が反論した。
「部長が犯人な訳がない!」
「黙れ。間違ったトリックを披露した理由は部長の表情を確認するため。今から部長が犯人だという理由を説明してやる。高田が話したトリックは大体の大筋は合っているんだ。だが、ほんの少しだけ違った。そのほんの少しが今回のトリックにとっては重要だった」
「じゃあ、なんだよ」
「モブは黙って聞いてろ。正しいトリックはこれだ!」
 新島は高田と同様に爪楊枝を吹き矢の要領で目的の風船に刺した。すると、今度は床に垂直に刺さった。そして、包丁の先に紙が刺さっていた。
「まず、風船に細工がされていた。風船で唯一、刺しても破れない部分がある。さて、どこだろう?」
 新島を膨らませた。
「床に刺さった包丁を風船の口とは反対の端に刺す。だが、割れないだろ? ここにはゴム膜が伸びていないから破れないんだ。包丁を風船の中に入れて、中からこの破れない部分に包丁を刺した。もちろん、手紙を包丁の先に刺してね。それから風船を膨らませた。包丁を抜かなければ空気は漏れないから大丈夫だ。後は風船を割る方法だ。これはもちろん、野鳥を撮影するための焦点の高いレンズだ。これで太陽光が包丁の入った風船に当たるようにすれば、割れて包丁が手紙を突き抜いて床に垂直に刺さる。中島先輩は部員が包丁に目が釘付けになっているときに床に散らばっていた風船の破片を拾い集めて隠した。これが、密室内で包丁を床に刺す方法だ。ストーカー事件をでっち上げたのは田原先輩への嫉妬か何かだろうな」
 新島は実験に使った道具を回収した。田原は中島から離れてから口を開いた。
「なんで...」
「あなたが悪いのよ! あなたは私より先に高山君と付き合った!」
「つ、付き合ってなんかないよ...?」
「そうだぞ。俺は田原とは付き合ってはない」
「嘘よ! 一緒に帰っているじゃない!」
「それは...」
 これは女の戦いだ。文芸部の三人はそっと将棋部部室を出た。
「中島があんなに怖いとは私は思わなかったよ」
「部長とある意味でいい勝負だな」
「あぁ?」
「な、何でもないです」
「だよな」
 新島は心底女は怖い生き物だと思った。
「それにしても、もうすぐ稲穂祭っすね。来週の水曜日から金曜日っす」
「そうだな。私達も今日から準備を始めようか」
「そうしようっす」
「それにしても、嫌な役をやらせてしまったな」
「大丈夫だよ。新島の方が嫌な役だった気がするけどな」
「俺はスカッとしたよ」
「そうか?」
 三人は文芸部の部室に入り、椅子に座った。新島は本を本棚から取り出した。コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』第八作品目の短編『まだらの紐』。新島はそのページを開いた。
「実際の密室殺人でまだらの紐みたいな事件はないのかね。蛇が死体の横にでもいたら面白いんだが」
「なら、新島。お前が書けよ。『犯人達の工作』は新島のシナリオだし、来年にでもまだらの紐と類似した密室殺人を」
「そうだね。タイトルはズバリ、『使蛇う~つかう~』だね」
「いいじゃん!」
 文芸部部室は将棋部部室と違う意味で賑やかだった。将棋部は現在、波乱と呼ぶべきだ。
「今、将棋部はどんだけ修羅場になってるかな?」
「高田、止(よ)しておけ」
「何でだよ、新島」
「だって、あれは女の嫉妬だ。女は怖い」
「だろうな。嫉妬したからって包丁使うんだもん」
「ちょっと凶暴だよな」
 そこで土方が、口をはなんだ。
「女なんて、そんなもんだよ」
「部長もそうなんすか?」
「いや、考えてみろ高田。先輩が女のことを知っていると思うか?」
「新島、何か言ったかな?」
「い、いや、何でも...」
 本日二度目である。
 その後、三人は話題に花を咲かせて話し続けた。
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