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8 お子様ではなくなった※

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 有翔の記憶でも、あのゲームの中でアルトとグイドはほとんど接触はなかった。
 エミリオに喧嘩腰で食ってかかるアルトを力で押さえつけたり、剣を向けて牽制したりするシーンがあったくらいだ。
 他の攻略キャラたちはアルトを痛めつけてから死に追いやるけれど、グイドは秒殺だった。絡みが少ないとアルト推しの妹がぼやいていた。
 あれは隠しルートでアルトとグイドの過去が明かされる展開があるからだったんだ。
 けれど、隠しルートの噂はあっても、それがどういうものなのか、ネットでもまったく出てこなかった。よほど条件が難しいのか、隠しルートの存在が噂だけなのかと思っていた。
 今の情報を妹が聞いたら目をキラキラさせて詰め寄ってきそうだ。

 続きをして欲しいと言ったのは僕だから、自分で服を脱ごうとしたらグイドに止められた。
「これは私の役目ですから……じっとしていてください」
 グイドの手でするりと下着の紐が解かれる。剥き出しになった肌や脚をグイドが真剣な眼差しで見ているのに気づいた。
「……そんなに見られると困るんだけど……」
「恥ずかしがる必要はないでしょう? あの小さかったアルトがすっかり大人になっているので……ついつい見つめてしまいました」
 言いながらシャツの襟元を拡げて首筋に手を差し入れてきた。子猫を撫でるように首筋をくすぐられる。
 あっさりと誤魔化された気がしたけど、恥ずかしかったのは、グイドの目線が熱を帯びている気がしたから。ちりちりと炙られてるみたいな気がした。
 いや、もちろん初夜なんだからそれが正解……なのかな。
 グイドが戦地に行ったのはアルトが十三歳のときだった。あの時からは背も伸びているし、体つきも変わっている。声変わりもあったかもしれない。
 それに何より人形のように表情の乏しい姿にきっとグイドは驚いただろう。
「変わっていて驚いた……? がっかりしなかった?」
「そんなことはありません。あなたの成長した姿を見られるのは何よりの幸せです」
 普段は鋭く見える灰色の瞳が、柔らかに笑みを浮かべている。
 この先の展開で、グイドとの婚姻がどう影響するかもわからない。またグイドを傷つけることが起きるかもしれない。
 それでも断言できる。
「僕も……今とても幸せ」

 シャツも下着も取り去られると、もう僕を守っているものは何もなくなった。そしてグイドと僕を隔てていたものも。グイドが蕩けるような甘い声で僕を呼んだ。
「私の可愛いアルト……もっと触れてもいいですか」
 返事の代わりに引き寄せられるままに腕の中に飛び込むとそのままベッドに倒された。
 舌を絡め合う口づけがまるで甘いお酒のように頭の芯を痺れさせる。
 さっきはまだ手加減されていたんだと思い知らされるような愛撫に、身体の中の熱が燻って出口を求めて暴れ回る。
 熱くて苦しくて辛いのに、開放されたくてもっと強い刺激を身体が求めている。
「……身体熱い……おかしくなりそう……」
 堪えきれなくて身体を擦り付けるとグイドが小さく呻き声を上げた。
「あまり煽らないでください。酷いことはしたくありませんから」
「酷い?」
 僕の背中にあった手をするりと下に滑らせてきた。狭い隙間の奥に。
「ここを解さないと、怪我をさせてしまいますから」
「あ……っ」
 誰にも触られたことがない場所に指が挿し入れられた瞬間、異物感で身が竦んだ。頭では拒んでいないけれど、身体が初めての感覚に反発している。
 その場所でこれから繋がるのに、上手くできなかったらと緊張してしまう。
 緩く抜き差しされる指は乱暴ではないのに、うまく受け入れられない。
「力を抜いてください。怖がらないで」
「どうすればいいの? わからない……助けて……」
 どうやって力を抜けるのかわからなくて、自分が情けなくて、グイドの胸に顔を埋めた。
 不意に指が引き抜かれた。驚いてグイドの顔を見上げると、何だか表情が固かった。
「グイド?」
「あまり気が進まなかったのですが……」
 そう言いながらグイドがベッド脇にあった薄いピンク色の液体が入った小瓶を手に取る。
「……それは?」
「初心者向けの香油だそうです。緊張をほぐす効果があるので、身体の負担が小さくなるとか。ポテンテ卿が送りつけてきました」
 イーヴォか。瓶に巻き付けられた紙片には謎のハートマークと『後遺症も副作用もないから大丈夫だよー』と暢気な一文が。怪しい。滅茶苦茶怪しい。だけど。
 さっき押し当てられたグイドの熱い部分は下着ごしでも存在感があった。僕が指一本くらいでもたもたしていると、またグイドはやめようとか言い出すだろう。
 だから僕は頷くしかなかった。

 結論から言うとイーヴォの才能を甘く見ていた。
 香油を内側に塗り込まれると、すぐに異物感で竦んでいた身体が指を受け入れられるようになった。きっと媚薬のような効能があったんだろう。
 グイドの太い指が傷つけないように、それでも容赦なく内側を探ってくる。自分の口から漏れる荒い吐息と喘ぎ声が信じられないくらい甘ったるい。
「やっ……やめて……あ……っ……。そこばっかりされたら……変になるから……」
 さっきからグイドの指で身体の奥の一点をずっと刺激されていた。怖いくらいの強烈な快感が続いて、幾度も達してしまったせいで身体の震えがおさまらない。
 きっとそこが前立腺。BLゲームで履修したから言葉は知っていても実際使う日が来るなんて。
「変なところなんてありません。とても可愛いです。さっきから誘うように腰が動いていますよ。中も私の指を美味しそうに食んで離さない」
 それは言わないでほしい。自分でもわかってる。
「……ああっ……また……」
 指が深く潜り込んできて、感じる場所を突いてくる。これ以上は許して欲しいと思ってるのに、身体はもっともっとと訴えている。
 滑った淫靡な水音が指の動きに合わせて聞こえてくる。淫らに喘ぐ自分の声が部屋の中で響く。全部グイドに見られていると思ったらますます身体が熱くなる。
「……もうこんなに柔らかくなって……そろそろ指だけでは物足りないみたいですね」
 グイドの声が耳元で響いた。熱い吐息がかかっただけで、身体がぞくりと震えた。
 もう何本指が入ってるのかわからないけど、香油で蕩かされたそこはもう受け入れるための場所になってしまってる気がする。
 さっきから指が触れるよりもっと深いところが疼いてきて、昂ぶらされた身体が熱くて切なくて仕方ない。目元が潤んで涙がこみ上げてきた。
 この疼きを止めてほしい。
「お願い……グイド兄さま……来て……」
 息が乱れているせいで、切実で甘えるような声になっていた。
「あなたは……」
 グイドの灰色の目がまるで獲物に食らいつこうとする獰猛な光を帯びたような気がした。噛みつくような激しい口づけのあと、大きく拡げられた脚の間に彼の腰が押しつけられた。硬くて熱い鋒が触れる。
「……そんな顔をされたら、手加減ができなくなります」
 貫かれた瞬間、指よりも遙かに大きく、身体を内側から裂かれるような圧迫感に細い悲鳴が漏れた。内臓がせり上がってくる。
 ……入ってる。入ってきてる。
 香油のおかげか痛みはなかったけれど、グイドが腰を進めるたびに中を擦り上げられて身体が小刻みに震えた。疼いていた身体の奥を突かれるたびに頭の中で光がチカチカと瞬いた。
 苦しいのか気持ちいいのか、怖いのか嬉しいのか。訳がわからない。
 切れ切れの喘ぎを上げながら掴んだシーツや周りに脱ぎ捨てたシャツがぐしゃぐしゃになっていたけど、もう気にする余裕は無かった。
「……あ……ん……もっと……」
「……はい。いくらでも」
 グイドが僕の腰を掴んで最奥まで突き上げてきた。
「あぁっ。すごい……奥……気持ちいい……グイドも……」
 自分ばかりが乱されてるみたいで……グイドが喜んでくれているかわからない。
「ええ。とても気持ちがいいです。あなたの中で溶けてしまいそうです」
「溶けても……いいよ……一緒に……」
 何度も打ち付けられるように身体を深く抉られる。奔流のように押し寄せる熱が大好きな人がくれるものなら。
 擦れ合う肌の温度が等しくなって境界線が消え失せて、溶け合ってしまってもいい。
『我らは二人で一となり、この身滅ぶまで供にあることを誓う』
 ……あなたとずっと……。
 助けを求めるように手を伸ばすと、その手を強く握られた。
 グイドの腰が大きく揺れたその瞬間、身体に電気が走ったような震えが来て今度こそ頭の中が灼き切れて。

 軽く意識が飛んでいたのかもしれない。気がついたら燭台の火は消えていた。
 真っ暗な中で身じろぎしたらすぐに声をかけられた。
「アルト。大丈夫ですか?」
 僕はグイドの腕の中に抱き込まれていていた。身体の中にはまださっきまでの熱がのこっているのか、髪や頬にふれる大きな手が気持ちいい。
「……大丈夫……だと思う」
 下半身が重くて怠い。けど、痛みはなかった。
 アルトはエミリオみたいな鋼鉄製の尻の持ち主じゃないから、グイドとできるのか不安だったけど、なんとかなったのはイーヴォの香油のおかげかもしれない。
「アルト……ありがとうございます。私はとても幸せです」
 グイドがそう言いながらキスをくれる。
「僕も……嬉しい」
 幼いアルトは恋心を自覚して、いつかグイドと身体を重ねるのだと想像して頬を染めていた。戦争がなければ、もっと穏やかに関係を育んでいけたかもしれないのに。
「四年前のあの夜。戦況が芳しくなかったので、もう会えないかもしれないと覚悟はしていました。本当はあなたを王宮から攫って行きたかった」
 グイドはそれでも危険な戦地にアルトを連れて行くことはしなかった。
「だからせめて、私をあなたの心の隅に置いて欲しかった。だから神の前で誓いを立てたのです。半身を残して死ぬことはできない。何があっても生きて帰るつもりでした」
「正式じゃないのはわかっていたけど、嬉しかった。僕のことを大事にしてくれて」
 暗がりの中でもグイドの肌に触れると引き攣れた傷跡がはっきりわかった。
 あの二人きりの結婚式があったから、またこうして会うことができたというのは考えすぎだろうか。ふと、有翔の記憶にあった歌が頭をよぎった。
「……君がため惜しからざりし命さへ……ながくもがなと思ひけるかな?」
「どこの言葉ですか?」
 ああ、やっぱり通じないんだ。有翔が高校生の時に宿題で必死に覚えさせられた百人一首だから無理もない。そう思いながら僕は説明した。
「古い異国の歌で……あなたのためならば命を捧げてもいいと思っていたけれど、実際にあなたに会って思いが通じたらもっともっと長く生きたいと思うようになりました……みたいな」
「素敵ですね。……私もあなたと一緒なら長生きがしたいと思います」
 グイドはそう言って唇に優しい口づけをくれた。

 そうだった。僕はアルトの破滅エンドを回避して長生きするのが目標だった。
 グイドがずっと僕の側にいることを望んでくれるのだったら、僕の前世のことを話すべきだろう。たとえ信じてもらえなくても。
 僕も、グイドとなら一緒に長生きしたいと望んでいるから。
 ……だって、前世の境有翔はきっと……。

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