目覚めたら死んでから１０年経っていた、まずは国に帰ろう

父親として

初めて会う父は記憶の中よりも、そして肖像画よりも、ぐっと若かった。

顔立ちは確かにそっくりだが、自分達とほぼ変わらない年齢の少年。

事前に言われてなければ信じることはなかった。

いや、今でも信じがたい。

だが、周りの大人たちは皆そうだと信じている。

何よりも、母レナンの表情が変わっていた。







いつも笑顔で優しい母。

そかしその笑顔はどこか寂しげで儚げで、いつも心配であった。

すぐにでも自分たちの手の届かない場所へ行ってしまうのではないかと、気が気じゃなかった。

その母が心から微笑んでいる。

明るく優しく、生気に満ちた表情で。

「アイオス、フィオナ。そしてリアム」
名を呼ばれた。

声変わり前の男性にしては高い声で、
記憶とは違う声をしている。

「寂しい思いをさせてしまってすまなかった。ずっと頑張っていたと、レナンとリオンから聞いたよ。特に二人はレナンを支えられるようにと外交を頑張ってくれたと聞いた、本当にありがとう」
アイオスとフィオナはエリックにぎゅうっと抱き締められる。

同じくらいの身長だから違和感が半端ない、だが懐かしい匂いが色々な事を思い出させてくれた。

「アイオス。フィオナと仲良くやれているか？レナンに似て優しいお前だから、おやつを取られたり、デザートを奪われていたりしないか心配だったよ」

「今は十回に一回くらいに減りました」
正直に答える。

「ダメだぞ、フィオナ。アイオスをからかってはいけない。もうアイオスの枕元に、虫のおもちゃを置くなんてもしていないと思うが、嫌がることをしてはいけないよ？」

「わかっております、あれからはしていません！」
フィオナが顔を真っ赤にしている。

エリックは二人から離れ、リアムに目を向けた。

レナンに似た銀髪と青銀色の瞳、エリックに似た色白の肌をしている

リアムは探るような目で、じっとエリックを見つめていた。

「お父様……？」
初めてお互いを目にする。

「リアム。お前が生まれる時に一緒にいてやれなくてすまない、本当ならその誕生の瞬間に付き添いたかった。不甲斐ない父親で申し訳ない」

「いいえ、お父様はお母様を守ってくれたと聞きました。それがなければ、俺はここにいなかったでしょう。お父様のおかげでこうしてここまで大きくなれました、ありがとうございます」
リアムは頭を下げる。

「それに俺には家族が、皆がいてくれました。寂しさはありましたが、こうしてお会いできて嬉しいです」

「皆がリアムを支えてくれていたのだな」
真面目でそしてひねくれることなく、育っているようで嬉しい。

「はい。正直お父様に会うまですごく不安でした。俺だけがお父様に会ったことがない、そんな中で受け入れてもらえるのかと。でも皆すごく嬉しそうだし、お母様もいつもとまるで違う明るい表情で、信頼してるんだって感じて……！」
リアムはエリックの前に立ち、両手を広げる。

「俺は本当にあなたの子ですよね？　あなたと俺は血が繋がった親子ですよね？」

「リアム……」
レナンが心を痛める。

リアムは兄や姉のような金髪をしておらず、肌の色はエリックに似ているが全体的にレナンの血が濃い。

エリックが亡くなってから生まれた為、不貞の子ではないかと密かに囁かれていた。

レナンがそんな母ではないともちろんわかっているが、心無い言葉は心に傷となって残り、なかなか払拭されなかった。

リアムは父を知らないし、その愛情を受けたこともない為余計に不安だった。

「皆俺を大事にしてくれました。何不自由ない生活と、勉強も教えてもらえた。でもずっと俺、寂しかったんです。皆が語るお父様の思い出を俺だけが知らないし、お父様の愛情を感じたこともない。だから早く会いたかった、会って確かめたかった。お兄様やお姉様が受けたような愛情が欲しかったんです。俺はお父様の本当の子で、本当に愛されてるんだって、実感が欲しくてたまりませんでした」
初めて聞いたリアムの胸の内に、レナンもアイオスもフィオナも言葉が出ない。

父親がどういった人物だったのかと、リアムはよく聞いてきた。

実の父親の事だし、興味があるのだろうといっぱい話してあげたが、寂しいという気持ちまでは察してあげられなかった。

「リアム」
エリックはリアムを抱きしめ、頭を撫でてあげた。

「不安だったのだな。ずっと我慢して、寂しいという気持ちを押し殺していたのか」

「普段は側に必ず誰かがいてくれて平気でした。でも、両親が揃った子を見ると、たまらない気持ちになる時がありました。もし今お父様がいたらなんて言ってくれるだろう、どのように助けてくれただろうかと、考えてしまいました。不貞の子だと言われた時にすぐに言い返せない自分もいて、とても悔しかったです」
どうしようもない気持ちは抑えられなかった。

「こんな事言うつもりなかったのに、ごめんなさい」
兄と同じくらいの体格なのに、抱き締められた安心感が違う。

周囲の雰囲気、特に母であるレナンから感じる雰囲気がまるで変わった事に起因してるのかもしれない。

エリックに会った事で心の平穏を取り戻した事で、リアムにも良い影響をしてるようだ。

「いい。子どもは親に甘えるものだろう。これから存分に甘えてくれればいい」
リアムが満足するまでエリックは抱きしめる手を緩めなかった。

「お前は間違いなく俺とレナンの子だ。誰に何を言われようと、自信を持っていいんだぞ。寧ろ言ったやつは誰だ。ニコラ、制裁を加えて来い」
急に耳元の声が低く、冷たくなった。

「わかりました、潰します。リアム様、後でお名前を教えてくださいね」

仮面で見えないが、にこやかな声がする。

こわい、というのはこの事なのか。

先程とは温度差の違う声色に驚いた。

エリックの容赦ない言葉とそれを受ける忠臣。

一気にリアムの心が恐怖で占められていった。