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第9話 助けてくれたのは

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「そのようなお世辞は言わなくていいのですよ」

「お世辞ではありません、寧ろ本心です。フラウラーゼ様は可愛らしい」

 うっとりとした顔でそう言われ、ぞわっとする。

「フラウラーゼ様は次の結婚相手をもう決めているのですか?」

「一応、候補者はいますわ」

 人ではないけれどと心の中で呟く。

 一瞬表情を硬くしたコンラッドだが、すぐに首を横に振る。

「嘘ですね。真面目で男っ気どころか友人も少ないあなたに、そのような男性がいるはずもない」

 そう言われてフラウラーゼは少し落ち込んだ。事実ではあるが言われたくない。

(ヴォワール侯爵領での顔見知りや仲良しの者はいるけれど、友人かと言われれば何とも言えないわ)

 社交界にあまり出ないフラウラーゼに貴族令嬢の友人は確かに居ない。パーティに参加しても二言三言挨拶を交わすくらいだ。

「折角他人になったのです。いっそフラウラーゼ様と僕で結婚をし、シャリエール伯爵領を守っていきませんか? このまま離れるのはフラウラーゼ様もお嫌でしょう」

「えっ、残りたくないし、あなたとの結婚なんて嫌ですわ」

「そうですよね、離れたくなんて……えっ?」

「だから残る方が嫌ですわ。何でわたくしとお母様を蔑ろにしたところに残りたいと思うんですの?」

 フラウラーゼは小首を傾げる。

「でもバリー様との婚約もなくなり僕との結婚もしないとなれば、あなたはヴォワール侯爵領から出られなくなりますよ。王都にも二度と足を入れられないかもしれない」

「構いませんわ。別に王都にも未練はないし」

 フラウラーゼは真剣だ。
 コンラッドは当てが外れたような、悔しそうな顔をしている。

「あなたは王都に住みたいからバリー様との婚約をしたのではなかったのか」

「いいえ、お父様の命令だったからですわ。そんな未練があったならば、あっさりと婚約破棄の話なんて受けませんし」

 フラウラーゼは否定をする。

「そもそもコンラッド、あなたとわたくしの結婚は認められませんわよね。縁を切るとは言え、半分だけ血が繋がってますもの」

「内緒だけれど、僕の父はシャリエール伯爵ではないよ……」

 縋るような目をコンラッドは向けてくる。

「だからチャンスがあればフラウラーゼ様と結婚できると思ったのに。あなたのように可愛らしくて優しい令嬢はそうはいない」

「チャンスなんて欠片もありません。申し訳ないけれどコンラッド様、わたくしそろそろお祖父様の所に戻りますわ」

「まだ話は終わってませんよ」

 ドアを遮るようにコンラッドが立つ。

 年下とは言えさすがに男性、並んで立てばコンラッドの方が背も高く体格もいい。

「ここまで話を聞いておいて行かせるわけはないだろう? ヴォワール侯爵に話されでもしたら大変だからね」

(聞かせられただけですのに)

 何とも理不尽だ。

「大声を上げますわよ?」

「この距離ならあなたが叫ぶのと僕が口を塞ぐの、どちらが早いと思います?」

 そう言われるとフラウラーゼの方が分が悪い。

「悪いようにしませんから。フラウラーゼ様、承諾してください」

 後退するフラウラーゼを追うようにコンラッドが手を伸ばしてくる。

(呼べば来てくれそうだけれど、精霊を見せたらまずいかしら)

 コンラッドから精霊の話が回れば国中大騒ぎになるだろう。

 悲しいが世間的なしんようが自分にはない。

 そうなると魔法の使用だが、フラウラーゼの魔力はコンラッドに劣る。
 だからこそ、シャリエール伯爵を継ぐのはコンラッドと言われたわけだし。

(何もしないよりはいいわね)

 本当のピンチになったらデイズファイを呼ぼうと思ったその時、突如窓を突き破って木がなだれ込んできた。

「きゃああああ!」

「ぐぇっ!」

 フラウラーゼは突然の事に悲鳴を上げ、コンラッドはうねりを上げて襲って来た木に弾き飛ばされる。凄まじい衝撃だったのだろう、奇声を上げた後は壁に叩きつけられた。

「何、これ?」
 その光景を呆然として見ているとドアが開く。

「大丈夫でしょうか?!」
 悲鳴と轟音で、大勢の人が集まった。

 皆が部屋と、そして倒れたコンラッドを見て混乱する。

 膝をつき、体を震わすフラウラーゼを見て侍女が駆けつける。

「お二人を早く外へ!」
 木は外から伸びていた。賊の仕業かもしれないと、護衛達は警戒を強め、二人を窓から引き離す。

 侍女の肩を借りて歩くフラウラーゼは淡くブローチが光っていることに気づいた。それに反応するように木がシュルシュルと外に戻っていく。

 追撃を恐れた護衛達が急いで屋敷の奥に行くようにと話し、数名が剣を抜いて外へと向かった。

(もしかしてこれって……このブローチのせい?)

 パーティ会場での突如草花が増殖した件を思い出す。

 どちらの状況もフラウラーゼを害する者がいた時に起こっている、フラウラーゼ自身が望んだ事ではないが。

(となると犯人は……)

 フラウラーゼはその仮説にどうしたものかと頭を悩ませた。
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