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会場にて

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 ルピシアは宝石の国として有名なパルス国の王女だ。

 幼馴染である侯爵令息との結婚が決まっているのだが、本日その婚約者は体調不良で欠席だそうだ。

 エレオノーラの友人だという美女が更に増え、囲まれたレナードは恐縮する。

 彼女たちは嬉しそうにレナードに話しかけ、様々な話題をぶつけ、会話を繰り広げた。

 経済や国の悩みなど、難かしい話題でもレナードは自分の意見を忌憚なく述べていく。

『君は凄いね、さすがエレオノーラが選んだだけある』
 唐突にルピシアが公用語ではない言語でレナードを褒める。

 聞き覚えのある言語であったためにレナードはすぐさま対応する。

『ありがとうございます、そう言われると照れますね』
 急ではあったが何とか返事が出来た事にホッとする。

 周囲で聞いていた人達はレナードの対応力に驚き、一斉に彼へと視線を向ける。

(散々勉強させたもの、これくらいならばついていけるのよ)
 もともとレナードは勉強が好きで、どんどんと学んだ事を吸収していった。

 レナードを見る目が瞬く間に変わっていくのを感じ、エレオノーラは誇らしくなる。

 国内だけではない、国外の者にも認められるなんて、嬉しい事だ。

(二人に来てもらった甲斐があるわね)
 エレオノーラの友人である二人は王族であり、どちらも有名である。

 魔力も強く、気も強いグロリアはシェスタ国の第一王女として王配を探している。

 軟派なようでいてその実条件が厳しい為に、なかなか決まらないらしい。

「シェスタの王族になる人よ。しっかり見定めなきゃいけないじゃない」
 と、グロリアは焦ることなく色々な男性と浅い付き合いをしていた。

 一方のルピシアも嫋やかに見えて強い女性だ。

 紫交じりのサラサラな黒髪をしており、金の瞳は強い意志を宿している。

 パルス国の代表としてここに立つ彼女は凛々しく、他を寄せ付けない雰囲気を放っていた。

 彼女は他の王族を排除して残った唯一のパルス国の王族で、間もなく交わされる婚姻と同時に女王へと即位する予定だ。

 本来ならばこのような場に来られない程忙しい身の上である。

「エレオノーラ様の為ならば」
 そう言って今宵は特別にアドガルムに来てくれたのだ。

 パルス国は交易にて鉱石や宝石を扱う。

 自国で装飾、加工までも行なっていて、本日ここに招かれた国の多くとも国交を結んでいる。

 そんな彼女達に話しかけたいであろう人たちが輪を作るが、美女たちはレナードを囲んで話をしており、他者を寄せ付けないような雰囲気を醸し出していた。






 エレオノーラ達のおかげで周囲に認知され始めたが、レナードは居心地の悪さに辟易した。

 女性が三人寄ればかしましいというが、確かに話題は尽きないし、レナードへの質問も途切れない。

 自分の意見を言えば、感心されたような顔や満足そうな表情をされるものの、それらがどういう意図でなのか、レナードは気づく由もない。

「楽しいね、ここまで色々な話が出来たのは嬉しいよ。パルスについて造詣が深いのはとても喜ばしいな」
 ルピシアが花が綻ぶような笑顔を見せ、少しだけエレオノーラが嫉妬を見せる。

「ルピシア」

「ふふ、私がそんな誘惑をするわけがないでしょう? グロリアとは違うんだから」

「あら、誘惑なんてしないわ。するなら直球で口説くもの」
 グロリアがレナードに手を回そうとしたのを見て、エレオノーラは庇うように前に出る。

「止めなさいと言ってるでしょ」
 冷ややかな目でグロリアを睨みつけていると、不意に声を掛けられる。

「エレオノーラ殿下」
 突如聞こえた男性の声にエレオノーラ達は振り向いた。

「失礼。取り込み中だとは思ったが、一言くらいはと思ってな」
 渋い低音ボイスの男性である。レナードは今初めて会った人物をついまじまじと観察してしまった。

 雪のように白い肌に、さらさらの白髪、冷ややかな目はレナードを見下ろすように向けられている。

 そこに温かさは感じられず、どちらかというと見下すような冷ややかなものが感じられた。

「これはこれはミゲイル陛下。挨拶が遅れてしまい、申し訳ございませんでした」
 エレオノーラの言葉を皮切りに、皆一様に頭を下げる。

 一拍遅れてレナードも頭を下げた。

(名前、聞いたことあるな)
 確か、北の大国ナ=バームの王だ。

 若くして王になったというのは有名な話である。

「本来ならこちらからご挨拶に伺わなくてはと思いましたが、ご到着されていたとは存じ上げませんでしたわ」

 エレオノーラは僅かながらの笑みをミゲイルに向ける。

「到着が遅れたこちらの落ち度だ。気にしなくていい」
 エレオノーラの笑みを堪能した後、
 ミゲイルは視線をレナードへと移す。

 頭の先からつま先までじろじろと観察していくが、その眉間に皺が寄せられつつあった。

「こちらが殿下の婚約者か……何とも平凡過ぎる」
 明らかに認めていない表情と声音だ。

「聡明なエレオノーラ殿下を射止めた人物にしては、些か役不足ではないか?」
 失礼な物言いと態度に、さすがのレナードも面白くない。

 そもそもエレオノーラに敬語を使ってすらいないし、偉そうな態度がますます気に入らない。

「あら、ナ=バークの王たるミゲイル陛下らしくないですね」
 エレオノーラは口角を上げる。

「レナードの魅力も分からずにそのような事をおっしゃるとは、陛下のお目は悪くなってしまったのかしら」

「何?」
 ミゲイルが何かを言うよりも早く、グロリアが援護する。

「他国の文化や経済についての理解もございます、本当に優秀な殿方ですの」

「他国の言語についてもよく学んでおります。相手を知るのに会話が出来るというのは、とても大事な事ですわ」
 ルピシアもそう言って、レナードに肩入れする。

 女性三人に言い返され、さすがのミゲイルもやや罰の悪い表情となった。


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