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魔法使いのお節介
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アリステラはお酒を飲んで、気持ち良く酔っていた。
寝転がっている頭は、少し硬いものの上に置かれているようだった。ぼんやりとした焦点がはっきりするまで、アリステラは宙を見つめていた。
しかし、見なければ良かったと思った。目の前には、シリルの整った顔がある。心配そうにこちらを覗き込む彼に、とんでもない醜態をさらしていたのでは、と今更なことに思い当たり、アリステラは顔を両手で覆った。
「…アリステラ様?大丈夫ですか?」
「……精神的に今、かつてないほどのダメージを、受けています……乙女としては致命的な…」
イケメン騎士に、酒に酔っただらしない姿を見られた…。穴があったら入りたいって、こういう時に使うのね…。
「えっ?あ…!その、アリステラ様、私は何も見なかったので…!」
気を遣ってくれるシリルはやはり優しい。何故か顔を赤らめるシリルの天使っぷりに、アリステラは少し回復した。
シリルも落ち着きを取り戻したアリステラを見て、やっと安心したようだった。が、シリルは口を開こうとして、何かの気配を感じ取ったのか、バッと背後を振り向く。その表情はアリステラに向ける優しげなものではない。
「何者だ。用があるのなら聞いておこう」
緊張感溢れるシリルの問いに、返ってきた答えは随分と間延びしたものだった。
「えっ、ちょ、何このお兄さん。ちょー怖い…。俺もう帰ろっかな…殺されたくないし」
暗闇から姿を現したのは、闇に紛れるような黒いマントを羽織った男だった。その顔は目深に被ったフードではっきりと見えない。
「何用かと聞いている」
スラリと剣を鞘から引き抜こうとするシリルに、男は目に見えて狼狽えた。
「わわわっ、俺はただの魔法使いです!パーティーに行けなかった娘さん達に魔法かけてあげようって思っただけなんだ!俺、貧弱なんだよ…体力ないしビビリなんだからマジやめて」
随分と気弱な魔法使いだ。とは言っても、殺気剥き出しの状態のシリルには、抗い難い何かを感じる。これが騎士としてのシリルの本当の姿なのだろう。普段の優しくて穏やかなシリルからは想像もつかない姿だが、不思議とアリステラに恐怖心はなかった。
「それで、アリステラ様にも魔法をかけようとしたわけか。お前の善意は理解できるが、アリステラ様には必要ない」
「まぁ、パーティーなんて興味無いしね。魔法使いさん、わざわざありがとう」
シリルの言葉に頷き、魔法使いに向かって軽く頭を下げる。知りもしないもない少女達に救いの手を差し伸べようとは、お節介な魔法使いだけれど、悪い人ではない。優しい人だ。
「あぁ、これが飴と鞭?娘さん優しい…俺の豆腐メンタルに染み込む優しさ…」
「…え、えぇ…?」
大げさに言う、自称魔法使いに、シリルとアリステラは戸惑う。
「そんな優しい娘さんに、俺はやっぱ魔法をかけてあげたい!可愛い娘さんに可愛いドレス着せたい!!」
「はい?」
「…!!何をするつもりだ!?」
シリルが剣を構えるが、魔法使いは既に魔法を行使していた。アリステラの服が普段着から、豪勢なドレスに変わり、何も無かった場所にはカボチャ型の馬車が出現した。その馬車にいつの間にか座っていたアリステラが驚く間もなく、御者がムチを鳴らせば、馬達が嘶き猛スピードで走り出す。しかも、地上ではなく空を。
「えっ、えええぇぇぇ!?」
「アリステラ様!」
シリルが馬車を止めようとするも、馬車は一瞬の後に、もう姿をくらましていた。とても、人間が追える速度ではない。シリルは目の前で連れ去られた悔しさに、血が滲む程拳を握り締めた。
「ふぅ。歳若い娘さん達には、夢を見せてあげること、それが俺の使命…!俺の生きがぃ…げふっ」
とにかく、シリルは元凶となった魔法使いを一発殴っておく。
魔法使いはシリルに締めあげられながらも、満足そうな笑みを浮かべた。
寝転がっている頭は、少し硬いものの上に置かれているようだった。ぼんやりとした焦点がはっきりするまで、アリステラは宙を見つめていた。
しかし、見なければ良かったと思った。目の前には、シリルの整った顔がある。心配そうにこちらを覗き込む彼に、とんでもない醜態をさらしていたのでは、と今更なことに思い当たり、アリステラは顔を両手で覆った。
「…アリステラ様?大丈夫ですか?」
「……精神的に今、かつてないほどのダメージを、受けています……乙女としては致命的な…」
イケメン騎士に、酒に酔っただらしない姿を見られた…。穴があったら入りたいって、こういう時に使うのね…。
「えっ?あ…!その、アリステラ様、私は何も見なかったので…!」
気を遣ってくれるシリルはやはり優しい。何故か顔を赤らめるシリルの天使っぷりに、アリステラは少し回復した。
シリルも落ち着きを取り戻したアリステラを見て、やっと安心したようだった。が、シリルは口を開こうとして、何かの気配を感じ取ったのか、バッと背後を振り向く。その表情はアリステラに向ける優しげなものではない。
「何者だ。用があるのなら聞いておこう」
緊張感溢れるシリルの問いに、返ってきた答えは随分と間延びしたものだった。
「えっ、ちょ、何このお兄さん。ちょー怖い…。俺もう帰ろっかな…殺されたくないし」
暗闇から姿を現したのは、闇に紛れるような黒いマントを羽織った男だった。その顔は目深に被ったフードではっきりと見えない。
「何用かと聞いている」
スラリと剣を鞘から引き抜こうとするシリルに、男は目に見えて狼狽えた。
「わわわっ、俺はただの魔法使いです!パーティーに行けなかった娘さん達に魔法かけてあげようって思っただけなんだ!俺、貧弱なんだよ…体力ないしビビリなんだからマジやめて」
随分と気弱な魔法使いだ。とは言っても、殺気剥き出しの状態のシリルには、抗い難い何かを感じる。これが騎士としてのシリルの本当の姿なのだろう。普段の優しくて穏やかなシリルからは想像もつかない姿だが、不思議とアリステラに恐怖心はなかった。
「それで、アリステラ様にも魔法をかけようとしたわけか。お前の善意は理解できるが、アリステラ様には必要ない」
「まぁ、パーティーなんて興味無いしね。魔法使いさん、わざわざありがとう」
シリルの言葉に頷き、魔法使いに向かって軽く頭を下げる。知りもしないもない少女達に救いの手を差し伸べようとは、お節介な魔法使いだけれど、悪い人ではない。優しい人だ。
「あぁ、これが飴と鞭?娘さん優しい…俺の豆腐メンタルに染み込む優しさ…」
「…え、えぇ…?」
大げさに言う、自称魔法使いに、シリルとアリステラは戸惑う。
「そんな優しい娘さんに、俺はやっぱ魔法をかけてあげたい!可愛い娘さんに可愛いドレス着せたい!!」
「はい?」
「…!!何をするつもりだ!?」
シリルが剣を構えるが、魔法使いは既に魔法を行使していた。アリステラの服が普段着から、豪勢なドレスに変わり、何も無かった場所にはカボチャ型の馬車が出現した。その馬車にいつの間にか座っていたアリステラが驚く間もなく、御者がムチを鳴らせば、馬達が嘶き猛スピードで走り出す。しかも、地上ではなく空を。
「えっ、えええぇぇぇ!?」
「アリステラ様!」
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「ふぅ。歳若い娘さん達には、夢を見せてあげること、それが俺の使命…!俺の生きがぃ…げふっ」
とにかく、シリルは元凶となった魔法使いを一発殴っておく。
魔法使いはシリルに締めあげられながらも、満足そうな笑みを浮かべた。
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