利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

319 味噌料理試作中

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319

「エビヤ商会?
ああ、確かにマホロにあるね。あそこは主に輸出用の海産物を扱っていたはずなんだけどな。商店としては中堅で、老舗ってほどじゃないけど信用はある店さ。

そんなところがなんでいきなり〝味噌蔵〟を?何を考えているんだか……」

私のメモを見たエジン先生が、不思議そうな顔をしている。

「今、セーヤとソーヤに頼んで背景情報を探ってもらっているところですが、十中八九帝国がらみだと私は睨んでいます。
エビヤ商会は恐らく傀儡でしょう」

「確かに、あの店の資金力で、全く畑違いの味噌作りをいきなり大規模に始めるなんて、どう考えても無理があるよね。何か勘違いしている気がするんだよなぁ。味噌作りを……」

逆にエジン先生、彼らのことを心配している様子だ。

実際エジン先生の心配の通りで、私たちのプロジェクトでの巨大味噌蔵でも、絶対の確信はまだエジン先生も持ててはいないと思う。ただ、〝種麹〟を作る技術が間違いないものになり、私の爆速熟成を行った味噌で一応評価もできたので、リスクをとっても大規模生産へ踏み出したのだ。

おじさまにも、絶対成功するとは言い切れない事情は伝えている。
おじさまは私がついていて失敗なんかさせるわけがない、とタカをくくっているようだったけど、相手は天然モノ。こちらの思う通りにいってくれるかは、やっぱり不安は残る。

「私たちでも、まだ不安なのに〝種麹〟もなしで、一体どうするつもりなのかな……」

蔵の台所で、〝西ノ森味噌蔵食堂〟向けのメニューを色々試作しながら、私とエジン先生はどうすべきか話し合った。

「とにかく、まず今の味噌蔵で仕込めるギリギリの量まで仕込みをしましょう。 特に熟成の早い麦味噌を中心にして、市場投入を急ぎます。但し、品質保持は絶対厳守で!
大規模な味噌蔵が完成したら、そこも速攻で稼働したいので、人とモノの準備もしっかりしておきましょう」

エジン先生によれば、どちらの準備も完了済みだそうだ。
今ある蔵の味噌は仕込みがほぼ完了しているので、建物さえ出来上がれば、新しい味噌蔵もすぐ仕事に掛かれる状態だそうだ。

(さすがエジン先生、仕事が早い!)

後は妖精スパイたちの調査結果待ちだ。

そうなると、当面私がすべきことはひとつ。今は目の前の商品開発に取り組もう。

以前にも作ったことのある〝ほうとう〟という山梨の郷土料理は、具材を色々季節ごとに変えて出せるいい料理だ。
どちらかといえば山の幸メインの料理だが、せっかく海のある土地だし、地の素材を使い、魚介を取り入れたりしても美味しいと思う。

ストレートに〝味噌煮込みうどん〟というのも悪くない。

ここは森が近く、狩猟が盛んで肉は手に入りやすいし、そちらも利用したいと思う。
味噌焼き、味噌漬け、どちらもいけそうだ。

(魚料理にちゃんちゃん焼きなんか、どうかな……うん、いいかも!)

北海道、石狩辺りが発祥らしいけど、大きな魚の切り身を鉄板で焼いて味噌ダレで味付けして食べる豪快な料理だ。
一緒に焼き上げる野菜も最高に美味しいし、鉄板でアツアツを食べる演出はウケる気がする。

市場へ行って、これに合う魚をまず探してこよう。鮭があれば完璧だけど、脂が乗った白身魚なら美味しいはずだ。

取り敢えず手持ちの魚で、味と雰囲気だけでも掴みたいので、ちゃんちゃん焼きをやってみることにする。

(ソーヤ・セーヤには極秘任務を頼んでいるから、鉄板は自分で運ばなくちゃね)

野外料理用にと、以前鉄器の工房で作ってもらった大中小の鉄板を《無限回廊の扉》から運び出そうとしてみたが、大と中は重すぎて諦めた。

(魔法を使えば運べるけど、うかつに使っているところを見られてはまずいよね)

セーヤとソーヤのありがたみをヒシヒシと感じつつ、かろうじて運べた一番小さな鉄板を引きずるようにして、なんとかコンロの上に設置。

葉野菜と香味野菜を食べやすい大きさに切る。キノコがあってもいいかもしれない。熱した鉄板にバターを入れ、まずは大きな切り身の油の乗った白身魚を皮目から焼く。香ばしくパリパリになった所でひっくり返し、切っておいた野菜をその周りに並べるようにして、少し全体を覆い蒸し焼き風にする。火が通ってきたところで、甘みをつけた味噌を少し酒で割ったものを回しかけると、香ばしいいい香りが立ち上る。

(これは、絶対美味しいやつだ。いい香り)

出来上がりを見て悦にっている私を見て、エジン先生が笑っている。

「本当に楽しそうだね。
できれば早めに試食させてほしいかな。
これは、食欲を刺激しすぎる香りだよ」

私は得意げに

(でしょう!)

という顔をして、鉄板から料理を取り分ける。

エジン先生と楽しく試食をしているとセーヤから念話が届いた。

〔メイロードさま、緊急事態でございます。どうやら、彼らはエジン様より先に大規模味噌蔵を完成し、帝国への輸出を始めるつもりです〕

〔予想はしていたけれど、緊急というと、何かあったのね〕

私の言葉に、一瞬言い淀んだセーヤだが、これはすぐに伝えなければならないと意を決したように伝えてきたのは、信じがたい一言だった。

〔豆が、エジン様の味噌のための豆がなくなってしまったのでございます〕
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