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3 魔法学校の聖人候補
393 壁新聞と同好会
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393
〝生徒会書記クローナ・サンス伯爵令嬢、〝お掃除魔法少女〟最年少聴講生メイロード・マリスに宣戦布告!!〟
(なに……これ…………?)
大食堂の近くの一番目立つ場所にある掲示板には、有志が作っているという壁新聞風の読み物が定期的に張り出されている。なかなかに凝った編集で、きちんと取材もしているらしく、興味を惹かれる面白い記事も多い。行事や学生たちの挙動を知ることができる情報源のため、私も通るときには目を通すようにしている。
この間は〝大食堂総選挙〟という記事で、美味しくなったと評判の大食堂のメニューの中で、どれが一番美味しいかというアンケートが掲載されていて、とても興味深かった。ちなみに、一位は同率で丸型パンを器にしたクリームシチュー、それにフライとコロッケ盛り合わせだった。どれも美味しくて選べないという意見も多く、第三者の目線で高く評価されていることがとても嬉しかった。それに意見には今後の参考になりそうなものがたくさんあったので、コック長のダグロムさんにも読んでおくよう教えたほどだ。
硬い記事としては、学校側にクラブ活動を正式な学生活動として認めさせよう、という運動についての記事が大きく紙面を割いて掲載されていた。
この魔法学校は国立で学費も国が全て支払っている。学校とは言っても、内情は《国家魔術師》育成を目的とした魔法使い養成所に近い位置付けのため、勉強に関係のないことは基本推奨されず、所謂〝クラブ活動〟は非公式の同好会しか認められていない。
つまり、この正式でない活動の費用は全て生徒持ちとなってしまうため、実際に活動できるのは裕福な貴族たちが作っている組織に限られてしまっているのが現状だ。現在有名なものは、貴族たちのサロン的な〝社交クラブ〟と、魔法騎士を目指している貴族の〝鍛錬部〟の2つ。ここは専用の部室や施設を持つほどだが、いくつか存在する平民が作った同好会は非常に苦労しながら細々と続けているらしい。
この記事、実は手を替え品を替え、何度も書かれている。
そして、その主張の理由は、結局、この校内の情報を発信している〝広報部〟もしくは〝新聞部〟のような活動にも予算をつけて欲しい、ということのようだ。
(まぁ、庶民出身者がそんな費用を工面するのは無理だよね。予算を付けて欲しい気持ちはわかるよ)
……話が、それた。
それどころではない。
そんな注目度の高い〝壁新聞〟で、なんだか、ものすごい煽り文句で私がクローナ嬢と対決することになっている。
昨日の騒動はみんなが見ている大廊下での出来事だったから、知っている人は多いだろうが、だからといって、こんな煽り方をされても困る。
いつの間にか、クローナ・サンス伯爵令嬢への独占インタビュー〝私は負けない!〟なんていう記事まで張り出されており、対決姿勢を派手に打ち出してきているのだ。
(どうするのよ、コレ!)
私は掲示板の前で大きくため息をついてから、肩を落として図書館の定位置に戻っていった。
この席は、誰も来なくて静かなので、ひとりになりたい時には丁度いいのだ。
ところが……
「あの……マリスさん。メイロード・マリスさんですよね」
勉強をする気にもならず、机に突っ伏して脱力していた私に、一応、音量を気にしてひそひそ声で話しかけてくる人がいた。
「私、図書委員をしている2年生のレカといいます。掲示板新聞を作っている〝文芸クラブ〟にも所属しているの。
それで、マリスさんにも今回の件でお話を聞きたいんだけど……」
「今回の件も何も、私には勝負する気も、必要もないですよ」
私も、小声で答える。
その後も何度かひそひそ声でやり取りしたが、ラチがあかないし、レカさんはかなり粘り強かった。
ひそひそ声で対応することにも疲れてきたので、レカさんとはお互い用事が済んでから話をすることで合意し、あまり人気のない人目の少なそうなカフェ・スペースで話をすることになった。
(私も事情を知りたいとは思っていたし、正式に抗議して取り下げてもらうのが一番いいよね。
クローナ嬢がノリノリなのが、頭イタイけどね)
私はソーヤに、ピクニック・バスケットの用意を頼んだ。
お貴族様は、皆従者にお茶やお菓子を運ばせて、どこでもお茶会を始める。そんな派手なことはしたくないけれど、話をするのにお茶もなしは寂しいので、小さな茶器のセットをバスケットに入れたものを用意してあるのだ。
トルルとお茶をしたりする時にも便利に使っている。
私が使っているのを見たのか、トルルの話を聞いたのか、売店にもこのバスケットが欲しいという問い合わせが入っているそうなので、サイデム商会にデザインを伝えて生産を依頼し、学校の購買部に営業をかけさせた。
案の定、すぐにでも販売したいとのことで、予約だけで10以上のオーダーが入った。
おじさまは一般発売も視野に入れているそうだ。
「そういう依頼は、どんどんするように」
という《伝令》がおじさまから入っていたから、きっとかなり売れそうなのだろう。
「また気がついたら、依頼します。いくつかのデザイン案を送っておきますね。貴族向けから庶民向けまで色々なタイプを作ると良いですよ。布物はなるべくカラフルにバリエーションを多くしておくと、女性受けがいいでしょう」
と返信しておいた。
学校でも気軽なお茶会が流行るといいな、と思いながら私は可愛いリネンを揃えお菓子を用意して待ち合わせの場所へと向かった。
〝生徒会書記クローナ・サンス伯爵令嬢、〝お掃除魔法少女〟最年少聴講生メイロード・マリスに宣戦布告!!〟
(なに……これ…………?)
大食堂の近くの一番目立つ場所にある掲示板には、有志が作っているという壁新聞風の読み物が定期的に張り出されている。なかなかに凝った編集で、きちんと取材もしているらしく、興味を惹かれる面白い記事も多い。行事や学生たちの挙動を知ることができる情報源のため、私も通るときには目を通すようにしている。
この間は〝大食堂総選挙〟という記事で、美味しくなったと評判の大食堂のメニューの中で、どれが一番美味しいかというアンケートが掲載されていて、とても興味深かった。ちなみに、一位は同率で丸型パンを器にしたクリームシチュー、それにフライとコロッケ盛り合わせだった。どれも美味しくて選べないという意見も多く、第三者の目線で高く評価されていることがとても嬉しかった。それに意見には今後の参考になりそうなものがたくさんあったので、コック長のダグロムさんにも読んでおくよう教えたほどだ。
硬い記事としては、学校側にクラブ活動を正式な学生活動として認めさせよう、という運動についての記事が大きく紙面を割いて掲載されていた。
この魔法学校は国立で学費も国が全て支払っている。学校とは言っても、内情は《国家魔術師》育成を目的とした魔法使い養成所に近い位置付けのため、勉強に関係のないことは基本推奨されず、所謂〝クラブ活動〟は非公式の同好会しか認められていない。
つまり、この正式でない活動の費用は全て生徒持ちとなってしまうため、実際に活動できるのは裕福な貴族たちが作っている組織に限られてしまっているのが現状だ。現在有名なものは、貴族たちのサロン的な〝社交クラブ〟と、魔法騎士を目指している貴族の〝鍛錬部〟の2つ。ここは専用の部室や施設を持つほどだが、いくつか存在する平民が作った同好会は非常に苦労しながら細々と続けているらしい。
この記事、実は手を替え品を替え、何度も書かれている。
そして、その主張の理由は、結局、この校内の情報を発信している〝広報部〟もしくは〝新聞部〟のような活動にも予算をつけて欲しい、ということのようだ。
(まぁ、庶民出身者がそんな費用を工面するのは無理だよね。予算を付けて欲しい気持ちはわかるよ)
……話が、それた。
それどころではない。
そんな注目度の高い〝壁新聞〟で、なんだか、ものすごい煽り文句で私がクローナ嬢と対決することになっている。
昨日の騒動はみんなが見ている大廊下での出来事だったから、知っている人は多いだろうが、だからといって、こんな煽り方をされても困る。
いつの間にか、クローナ・サンス伯爵令嬢への独占インタビュー〝私は負けない!〟なんていう記事まで張り出されており、対決姿勢を派手に打ち出してきているのだ。
(どうするのよ、コレ!)
私は掲示板の前で大きくため息をついてから、肩を落として図書館の定位置に戻っていった。
この席は、誰も来なくて静かなので、ひとりになりたい時には丁度いいのだ。
ところが……
「あの……マリスさん。メイロード・マリスさんですよね」
勉強をする気にもならず、机に突っ伏して脱力していた私に、一応、音量を気にしてひそひそ声で話しかけてくる人がいた。
「私、図書委員をしている2年生のレカといいます。掲示板新聞を作っている〝文芸クラブ〟にも所属しているの。
それで、マリスさんにも今回の件でお話を聞きたいんだけど……」
「今回の件も何も、私には勝負する気も、必要もないですよ」
私も、小声で答える。
その後も何度かひそひそ声でやり取りしたが、ラチがあかないし、レカさんはかなり粘り強かった。
ひそひそ声で対応することにも疲れてきたので、レカさんとはお互い用事が済んでから話をすることで合意し、あまり人気のない人目の少なそうなカフェ・スペースで話をすることになった。
(私も事情を知りたいとは思っていたし、正式に抗議して取り下げてもらうのが一番いいよね。
クローナ嬢がノリノリなのが、頭イタイけどね)
私はソーヤに、ピクニック・バスケットの用意を頼んだ。
お貴族様は、皆従者にお茶やお菓子を運ばせて、どこでもお茶会を始める。そんな派手なことはしたくないけれど、話をするのにお茶もなしは寂しいので、小さな茶器のセットをバスケットに入れたものを用意してあるのだ。
トルルとお茶をしたりする時にも便利に使っている。
私が使っているのを見たのか、トルルの話を聞いたのか、売店にもこのバスケットが欲しいという問い合わせが入っているそうなので、サイデム商会にデザインを伝えて生産を依頼し、学校の購買部に営業をかけさせた。
案の定、すぐにでも販売したいとのことで、予約だけで10以上のオーダーが入った。
おじさまは一般発売も視野に入れているそうだ。
「そういう依頼は、どんどんするように」
という《伝令》がおじさまから入っていたから、きっとかなり売れそうなのだろう。
「また気がついたら、依頼します。いくつかのデザイン案を送っておきますね。貴族向けから庶民向けまで色々なタイプを作ると良いですよ。布物はなるべくカラフルにバリエーションを多くしておくと、女性受けがいいでしょう」
と返信しておいた。
学校でも気軽なお茶会が流行るといいな、と思いながら私は可愛いリネンを揃えお菓子を用意して待ち合わせの場所へと向かった。
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