205 / 840
3 魔法学校の聖人候補
394 取材されてしまいました
しおりを挟む
394
「まずは自己紹介させて下さいね。私はレカ、2年生です。
〝文芸クラブ〟という同好会に所属しています。文芸クラブは物語を読んだり書いたりするのが好きな人たちと、私のように事実に即した記事を書きたい人たちが混在しているクラブです。文章関連だけれど方向性が違うから、本当は別々のクラブになった方がいいのだけど、それだと人数が少なすぎて、活動費が足りなくなってしまうし、既に今でも厳しいし……ああ、これはマリスさんには関係ないですね」
どうやら、レカさん、かなりの話好きだ。
席に着いたと思ったら、話し始めて止まらない。
そこで、お茶を勧めて一息入れてもらい、私の疑問について聞くことにした。
「レカさん、どうして、今回私とクローナ・サンスさんの私的な諍いを、こんなに大きく取り上げたんですか。正直なところ、私はとても困惑しています」
私の抗議に対して、レカさんは素直に謝ってくれた。取材対象に当たりもしないうちに記事にすることには彼女を始めクラブ内でも反対の声はあったのだそうだ。だが、それでも壁新聞の存在感を見せつけるために、この記事を早く出すことが優先されてしまったのだという。
レカさんの説明によると、毎年のことだが入学時の貴族と庶民出身者の格差は圧倒的で、成績順位も貴族が常に上位。態度の大きい貴族出身者に対し、言い返すこともできない同じクラスの庶民出身者たちは、かなりストレスを溜めているのだそうだ。
「そこに、あなたが現れたワケなんですよ!」
あのグッケンス博士から許されて内弟子になり、貴族でも受からないことのある《基礎魔法講座》の達成度テストをここまで連続で一度のミスもなく通過。しかも、一度は貴族たちを抜き去っての1位。
「庶民出身の子たちは、みんな溜飲を下げているの。やっぱり魔法使いは実力、貴族でなくても上位になれるんだと希望を持ったの。あなたはその象徴なのよ、マリスさん」
(目をキラキラさせてますが、レカさん、だからってなんで私とクローナ嬢の諍いを煽るんですか?)
私の困り顔に、レカさんはキラキラの顔を引き締め、少し心苦しそうに彼女たちの事情を語り始めた。
魔法学校では〝研究会〟という魔法を研究する活動には助成金が出る。もちろん審査はあるが、顧問もつくし場所も活動費も割り当てられているという。
だが、魔法に関わらない活動には一切の学校の支援がない。
「演劇や楽器の演奏関連の活動は、潤沢な活動費のある〝社交クラブ〟から、自分たちの主催するパーティーなどで披露することを条件に資金援助を受けているから、それなりにしっかりとした活動ができているけれど、それ以外はどこも本当に厳しいんです。文芸クラブなんて、本当にインクひとつ買うのも大変なんです」
そこで、起死回生の方法として文芸部は壁新聞から有料の手売り新聞へと移行しようという動きになったのだそうだ。以前と違い、紙がずっと買いやすくなっているため、一番安い紙ならばなんとか調達でき、印刷もレカ先輩が《火魔法》を応用した焼き付けのような技法を使うことで、黒の一色刷りなら《複写》することができるという。
この方法で、なんとか活動費を捻出し、もっと自由な取材活動がしたい、貧困に喘ぐクラブを救いたい、と熱弁を振るうレカセンパイ……その気持ちはとてもよく分かるが、だからといって、この現状は看過できない。
「つまり〝新聞〟を買ってもらうための、手っ取り早くみんなの関心を買うことのできる目玉にされた、ってことですよね」
「そうです。申し訳ないですが、その通りです。できれば、こんな売り方はしたくはないのですが、このままだと〝文芸クラブ〟の活動そのものができなくなってしまうんです。無理を承知でお願いします。ご協力頂けませんか!」
レカさん物凄い圧で、しかも涙目で私の手を握り締めてきた。
彼らが、今までいい記事を作ろうと真面目に取り組んでいたことは知っているし、彼らの追い詰められた現状も把握した。だが、このまま放置すれば、彼らがこれから記事を売るために、更に煽り記事を量産する方向に向かうのは間違いないだろう。それは、彼らにとってもいいことではないはずだし、少なくともレカさんは本当には望んでいないと分かった。
「お話は分かりました」
「え!では、ご協力頂けるんですか!!」
「いえ、この記事は取り下げて頂きます。これ以上、この件を煽ることもやめて頂きます」
私の言葉に混乱したレカさんは、取材のためのメモ帳を片手に固まっている。
私は勢いで立ち上がったまま、どうしてどうしていいのか分からなくなっているレカ先輩に、落ち着いて話しましょうと、席を勧めた。
そしてバスケットから取り出した美しい鈴蘭の描かれたティーカップに、色鮮やかな薄紫のハーブティーを注ぎ、二色のマドレーヌとともに彼女の前に差し出した。
ちなみに、《水出》も《火出》も使える魔法使いは、どこでもお湯ぐらい沸かせる。
私はそれに《流風》 を加えた3つの魔法を並列処理して、熱湯の水球を作り出しポットへ送り込んでお茶を入れた。
「すごいわね。習い始めたばかりのはずなのに、もうそんな高度な使い方ができるのね」
「家事魔法は得意なんですよ。〝お掃除魔法少女〟ですからね」
私は、なるべく余裕そうに見えるように、ゆっくりとした動作でお茶を飲んでから、改めてレカさんへ目を向けた。
「クラブ活動の予算を取りましょう。それで、万事解決ですよね、レカ先輩?」
「まずは自己紹介させて下さいね。私はレカ、2年生です。
〝文芸クラブ〟という同好会に所属しています。文芸クラブは物語を読んだり書いたりするのが好きな人たちと、私のように事実に即した記事を書きたい人たちが混在しているクラブです。文章関連だけれど方向性が違うから、本当は別々のクラブになった方がいいのだけど、それだと人数が少なすぎて、活動費が足りなくなってしまうし、既に今でも厳しいし……ああ、これはマリスさんには関係ないですね」
どうやら、レカさん、かなりの話好きだ。
席に着いたと思ったら、話し始めて止まらない。
そこで、お茶を勧めて一息入れてもらい、私の疑問について聞くことにした。
「レカさん、どうして、今回私とクローナ・サンスさんの私的な諍いを、こんなに大きく取り上げたんですか。正直なところ、私はとても困惑しています」
私の抗議に対して、レカさんは素直に謝ってくれた。取材対象に当たりもしないうちに記事にすることには彼女を始めクラブ内でも反対の声はあったのだそうだ。だが、それでも壁新聞の存在感を見せつけるために、この記事を早く出すことが優先されてしまったのだという。
レカさんの説明によると、毎年のことだが入学時の貴族と庶民出身者の格差は圧倒的で、成績順位も貴族が常に上位。態度の大きい貴族出身者に対し、言い返すこともできない同じクラスの庶民出身者たちは、かなりストレスを溜めているのだそうだ。
「そこに、あなたが現れたワケなんですよ!」
あのグッケンス博士から許されて内弟子になり、貴族でも受からないことのある《基礎魔法講座》の達成度テストをここまで連続で一度のミスもなく通過。しかも、一度は貴族たちを抜き去っての1位。
「庶民出身の子たちは、みんな溜飲を下げているの。やっぱり魔法使いは実力、貴族でなくても上位になれるんだと希望を持ったの。あなたはその象徴なのよ、マリスさん」
(目をキラキラさせてますが、レカさん、だからってなんで私とクローナ嬢の諍いを煽るんですか?)
私の困り顔に、レカさんはキラキラの顔を引き締め、少し心苦しそうに彼女たちの事情を語り始めた。
魔法学校では〝研究会〟という魔法を研究する活動には助成金が出る。もちろん審査はあるが、顧問もつくし場所も活動費も割り当てられているという。
だが、魔法に関わらない活動には一切の学校の支援がない。
「演劇や楽器の演奏関連の活動は、潤沢な活動費のある〝社交クラブ〟から、自分たちの主催するパーティーなどで披露することを条件に資金援助を受けているから、それなりにしっかりとした活動ができているけれど、それ以外はどこも本当に厳しいんです。文芸クラブなんて、本当にインクひとつ買うのも大変なんです」
そこで、起死回生の方法として文芸部は壁新聞から有料の手売り新聞へと移行しようという動きになったのだそうだ。以前と違い、紙がずっと買いやすくなっているため、一番安い紙ならばなんとか調達でき、印刷もレカ先輩が《火魔法》を応用した焼き付けのような技法を使うことで、黒の一色刷りなら《複写》することができるという。
この方法で、なんとか活動費を捻出し、もっと自由な取材活動がしたい、貧困に喘ぐクラブを救いたい、と熱弁を振るうレカセンパイ……その気持ちはとてもよく分かるが、だからといって、この現状は看過できない。
「つまり〝新聞〟を買ってもらうための、手っ取り早くみんなの関心を買うことのできる目玉にされた、ってことですよね」
「そうです。申し訳ないですが、その通りです。できれば、こんな売り方はしたくはないのですが、このままだと〝文芸クラブ〟の活動そのものができなくなってしまうんです。無理を承知でお願いします。ご協力頂けませんか!」
レカさん物凄い圧で、しかも涙目で私の手を握り締めてきた。
彼らが、今までいい記事を作ろうと真面目に取り組んでいたことは知っているし、彼らの追い詰められた現状も把握した。だが、このまま放置すれば、彼らがこれから記事を売るために、更に煽り記事を量産する方向に向かうのは間違いないだろう。それは、彼らにとってもいいことではないはずだし、少なくともレカさんは本当には望んでいないと分かった。
「お話は分かりました」
「え!では、ご協力頂けるんですか!!」
「いえ、この記事は取り下げて頂きます。これ以上、この件を煽ることもやめて頂きます」
私の言葉に混乱したレカさんは、取材のためのメモ帳を片手に固まっている。
私は勢いで立ち上がったまま、どうしてどうしていいのか分からなくなっているレカ先輩に、落ち着いて話しましょうと、席を勧めた。
そしてバスケットから取り出した美しい鈴蘭の描かれたティーカップに、色鮮やかな薄紫のハーブティーを注ぎ、二色のマドレーヌとともに彼女の前に差し出した。
ちなみに、《水出》も《火出》も使える魔法使いは、どこでもお湯ぐらい沸かせる。
私はそれに《流風》 を加えた3つの魔法を並列処理して、熱湯の水球を作り出しポットへ送り込んでお茶を入れた。
「すごいわね。習い始めたばかりのはずなのに、もうそんな高度な使い方ができるのね」
「家事魔法は得意なんですよ。〝お掃除魔法少女〟ですからね」
私は、なるべく余裕そうに見えるように、ゆっくりとした動作でお茶を飲んでから、改めてレカさんへ目を向けた。
「クラブ活動の予算を取りましょう。それで、万事解決ですよね、レカ先輩?」
340
あなたにおすすめの小説
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。