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3 魔法学校の聖人候補

431 競技会前日

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431

この時期になると魔法学校のあるセルツの宿屋はどこも満室で、普段は宿をしていない店まで宿屋を臨時開業するそうだ。それほどに、この〝魔法競技会〟の注目度は高い。家族で観戦に来る物見遊山組まで入れると、こんな山奥まで千人を超える人々がやってくるというのだから驚きだ。

(そういえば、昨日あたりから、盛んに〝天船アマフネ〟が何隻も飛んでいると思った。あれをバス代わりにしているのか。さすがお貴族様)

「軍部の連中がわんさっと来るのはもちろんだけどね、自分のところのお抱えの魔法使いを探している貴族も多いんだよ。特に女の子は人気でね。ひどいやつらは側室探しに来ているんだ。魔法力の高い娘に子供を産ませようっていうのさ。バカにした話だね」

エルさんのところに競技会で使いたい道具の相談に来た私は、思いもかけないイヤな裏事情まで聞いてしまった。

「貴族たちは少しでも魔法力の高い子供が欲しい、とは聞きましたけど、随分な話ですね。人をなんだと思っているのか……」

「まぁ、そうやって育ってきちまっているからね。歪んでいるんだよ、色々とさ。だからひどい話だけれど側室どころか妾にして子供だけ取り上げられ、体良く叩き出されたりする若い娘も出てくるのさ。怖い怖い」

そんな嫌な品定めまでされる競技会だとは知らなかった。まったくひどい話だ。

「この時期は、怪しげな奴もうろつくからお前さんも十分気をつけなさいよ。なんだか所帯じみているし、背が小さいせいでまだまだ子供にしか見えないからいいようなものだが、それでも十分に目立つ器量良しなんだから、変なのに絡まれるんじゃないよ」

エルさん、褒めてくれているような気がするが、あまりうれしくないのはなぜだろう。

「気をつけます……って何を気をつければいいのかわかりませんけどね」

出してもらった道具を品定めしながら、私は〝魔法競技会〟の演武の計画を考え、エルさんにも話してみた。

「そりゃ、あんたらしい演武だねぇ。こりゃ、見ものだ。私も見に行こうかね、フェッフェッフェ。
面白そうだから、その道具も安くしてあげよう」

私は正規料金でいいと言ったのだが、エルさんはよっぽど私の魔法が気に入ったのか、ずっと笑いながら大幅ディスカウントをしてくれた。

「人殺しの方法を競うような学校行事には、私はうんざりしていたのさ。〝魔法競技会〟はそれの最たるものだ。
あの学校で学ぶ特別な才能を持った子供たちには、もっと広い魔法の世界があるはずなんだ。でも、大人が、貴族たちが、国がそれを許さないのさ。文化国家になろうともがいちゃいるが、まだまだシド帝国も軍事最優先なのは変わっちゃいない」

美味しそうに私が淹れたロイヤル・ミルクティーを飲みながらも、エルさんの目が厳しくなった。

「お前さんみたいに、それに縛られず柔軟な頭で魔法を使う子が、私は大好きなんだ。認められなくても、たとえ笑われても、そのままでいておくれね」

エルさんの言わんとするところは、今までの経験から推察できた。私も帝国を勝たせるための魔術師になるつもりはない。むしろ御免被る。

私はお茶請けに持ってきた、自家製の手焼きせんべいをパリンとかじりながらエルさんを見て笑ってみせた。

「笑われたって、呆れられたって、それこそどんとこいです。
私には私の魔法の使い方があって、今までずっとそれに助けられてきたんです。
まぁ、攻撃せざる得なかったことはありますけれど、それは私の本意じゃないし、したいことでもないです」

エルさんの話を聞いて、私の気持ちは固まった。

一世一代のパフォーマンスを披露して差し上げることにしよう。

私は買った道具をポンポンと叩いて

「明日はよろしくね」

と言った。
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