利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

433 そして対ブレイアード戦

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433

(睨んでる睨んでる)

私が相手と決まった時から、魔法騎士を目指すブレイアード君は睨んだ顔と小馬鹿にしたような顔を百面相のように繰り返しながら私の方を見ているが、その顔を見ていると笑いそうになるので私は目も合わせなかった。

(まぁ、私もこんな子になら勝ちたいとも思わないし、負けたところで悲しくも悔しくもない、と思えるわ。気持ちよく負けられる相手で良かったかも……)

やがて順番が来たので競技場に出ると、そこには巨大な3メートル四方の構造物が私とブレイアード君用にふたつ並んで設置されていた。確かめてみると切り出した石のような質感だったが、これはこの競技のために教授陣が《土魔法》を駆使して作り上げたものだという。とても固くできた巨岩そのものだった。

「この石でできた構造物を、この場所からまったく見えないよう消し去って下さい。では始め!」

競技はいきなりスタートした。条件は〝この場所からこの巨大な石を消し去る〟こと。一番簡単なのは《幻影魔法》だろうが、これだと見えなくなりはするが、その場所に触ればあるわけなので、ちょっと問題の趣旨からは外れるかもしれない。それに《幻影魔法》は、初級の魔法使いが使える技とは到底言えない高度なものだ。いくらグッケンス博士の弟子だからって、ここで使うのはハバカられる。
だとすれば、これを移動するもしくは埋めてしまえばどうだろう。それなら、この見える場所から消し去ったと言っていいと思う。
私はその方針に決めたが、このままだと重すぎて移動させる場合、大量の魔法力を使うことになるし、それだと私の魔法力の強さを見せつけてしまうことになる。それに、それをやるとおそらく一瞬で私が勝ってしまうので、もう少し穏便で時間のかかる方法を考える必要があった。

(やはり、まずは少し小さくしてみようか。まずは、石の中の気泡を見つけて、そこを《火魔法》を使って膨張させ亀裂を入れてやれば、徐々の崩壊させられる……かな?)

どういう魔法を使えば早すぎず強すぎずに試合を進められるか、と考えていた私の目の前を、大きな石つぶてがヒュンと音を立てて横切った。見れば、ブレイアード君がオーライリに聞いた通りの、予選と同じ脳筋全開の力任せの方法で、巨大な岩塊に向かって自分の横に積み上げた大量の石を魔法で投げつけている。彼のコントロールは最悪だが、標的が大きいため多くは当たっていた。だが予選の木製の塔と違い、このがっしりとした構造物には、石を投げつけるだけの攻撃の効果はあまりない。しかも跳ね返った石が、すぐ横に立っている私の方にも飛んできてとても危ない。

そんな状況なのにだが、これも聞いていた通り、周りがどうなろうと一切ブレイアード君に気にするそぶりは見えない。というより、魔法を使うのに必死で、全然周りが見えていない。

注意喚起したところで耳に届きそうにないので、仕方なく私は最も簡単な《風防護壁ウインド・シールド》を自分の周囲に展開して、身を守ることにした。実はこの防護壁、博士と開発した五層構造の堅牢なものなのだが見た目は《風防護壁ウインド・シールド》と大差ない。この防壁なら、まぁ初級の技に見えるだろう。

当面の危険がなくなった後は、どう対処しようかと考え苦労している風を装って、少しづつ巨大な構造物の中の気泡を膨らませていくことにした。観戦者からは、きっとなにをしているのかよくわからないだろう。実のところ、一度に膨張させてしまえば簡単なのだが、それだとすぐに私が

(うーん、隣の人早く壊してくれないかな)

私の望みとは裏腹に、横の脳筋騎士は必死で石をぶつけまくるしかできないのか、ちょっとは考えればいいのに、目を血走らせて大量に積み上げた石を叩きつけるように《風魔法》で飛ばすばかりだ。だが、ここまでやると多少は効いてきたようで、ボロボロと表面は崩れ始めている。

(でもこのままじゃ、勝負が着くまで何時間もかかっちゃう。仕方ないなぁ……)

私は、相手の岩塊の中の気泡に十数カ所一気に火を入れ空気を膨張させた。予想通り石はバキバキと音を立て始めている。それをどうやら自分の攻撃が効いたせいだと思ったブレイアード君は、雄叫びをあげて更に石を大量にぶつけ始めた。

私は、彼に注意しつつ、徐々に自分の岩塊の中の気泡を膨らませ、巨岩の亀裂を増やしていった。

(ああ、雷のひとつも落としてやれば一発なんだろうけどなぁ。あんな殺傷力の高い魔法をここで見せちゃ元も子もないし……)

やっと隣の巨岩が崩れたので、私も追随して自分の巨岩の中の気泡に一気に火を入れ、構造物を崩しにかかった。

今まで殆ど崩れていなかった私の巨岩が一気に崩れ始めたことに、周囲からどよめきが上がるのが聞こえた。横ではきっとブレイアード君がまた私を睨んでいる。そして、勝利を確信したのか、こう言った。

「心配いらない。勝つのは僕だ!後は、これを消してやれば、消して……えっと……」

どうやら、崩した石の処理は考えていなかったらしい。考えることが得意じゃない脳筋騎士はどうしようという顔で、固まっている。

(おいおい、しっかりしてよぉ)

フリーズしてしまった対戦相手をそのままにしておくわけにはいかないので、仕方なく私が先陣を切る形で《土魔法》を使い地面に振動を与え、砕いた石を土の中に沈め始めると、慌ててブレイアード君も追随してきた。

(そうそう、早く真似してね。ゆっくりやるのも限界があるんだから……)

わざと何度か休みながらできる限りゆっくり《土系振動魔法》を使いつつ、なんとかブレイアード君が沈め終わったのを確認し、その数秒後に私も試技を終えた。

(危なかった。勝っちゃうかと思った)

勝者としてブレイアード君の名が呼ばれると、ご友人なのか取り巻きなのかわからない人たちが駆け寄ってきて彼を取り囲む。だが、盛んに賞賛を浴びたものの彼はあまり嬉しそうではなく、ちらりと私を見てばつが悪そうに、早々に競技場から去っていった。

(さすがに、遅れを取った上に真似したという自覚はあるみたいだね)

私は審判にしっかりとお辞儀をしてから、ゆっくりと会場を後にした。わざわざこちらを見にきてくれたオーライリとトルルが、すごく惜しかったと一生懸命なぐさめてくれるのが、どうにもばつが悪かったが、なんとか接戦の末破れた風には装えたと思う。

(普通に勝つのの100倍面倒だったなぁ。疲れた……)

だが、この疲労感は負けた選手らしく見えてちょうどよかったようで、演技する必要もなくごく自然に肩を落とした敗者らしくふるまえ、私は誰の目から見ても不自然さがない態度で、うまい具合に競技を終えることができたのだった。

(ら、ラッキー?)
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