利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

503 シルベスター会長とお話

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503

「マリスくん、この後少し時間はあるかな?」

《傀儡薬》がキャサリナの逮捕で決着した後、私は久しぶりに生徒会の会議へ顔を出すことができた。会議では、生徒会提案の〝研究発表コンクール〟が学校側の正式承認を得て、生徒会主催の行事として毎年開催されることが決まったこと、そして、個人とグループの二部門で発表が行われることになったことが報告された。

「発表会は二学期に開催となった。募集もすぐに始めよう。この運営のために実行委員会も発足したほうがいいだろうな」

そして発足された実行委員会の委員長には、なんと2年生のクローナが抜擢された。

クローナにはどうやらカリスマ性があるらしく、彼女の言うことには、上級生たちもわりと素直に従ってくれるのだそうだ。それに、一年一緒にいた生徒会の人たちはクローナのツンデレな性格をすでによくわかっており、一見高飛車に見えて本当は素直で正義感が強く公正な彼女を、貴族もそうでない人たちも、生暖かい目で見守れるぐらいに好感を持つようになっていた。

(それについてはオーライリのサポートも大きいけどね。彼女は参謀役として優秀なんだよね。誤解されそうなことをクローナがすると、すかさずフォローを入れてくれて……いいコンビだわ)

そしてこのふたりが私ととても仲良くしてくれることが、私の生徒会での立場をとてもいいものにしてくれている。
ふたりが認めているということで、たまにしか現れない、わけのわからないポジションの聴講生である私への風当たりも意外なほど強くなかった。むしろ好意的と言ってもいい状況だ。

〝研究発表会〟の後の議題は、予算の話や学校内でのいくつかのトラブルへの対処などだった。それらについて話し合いいくつかの決定をした後、会議は終了。生徒会が終わった後、オーライリたちとお茶をする予定だったのだが、シルベスター会長に呼び止められたため、私はあとで合流することにし、そのまま誰もいなくなった会議室で話を聞くことになった。

「このところ会議にもまったく出席できず、申し訳ありません」

私の言葉にシルベスター会長は、ちょっとハッとした顔をしてすぐに否定してきた。

「ああ、それは最初からそう聞いて約束もしていたことだ。まったく気にする必要はないし、咎める気もない。それに、今回はむしろ君が忙しくしていた原因の大元は、我が家の騒動なのだから……」

どうやら会長、グッケンス博士が《傀儡薬》騒動収束のために動いたことをご存知のようだ。

「多かれ少なかれ、上級貴族の家はどこかで親戚関係にあるものなんだが、ドール家とわが家もニ代前の次男と三女が結婚していてね。義理堅いドール家の方々は、今回のことにも積極的に動いてくださったんだ」

今回の件では、シルベスター会長の兄上が完全に更迭されないよう〝事実関係がはっきりするまでの暫定の処罰〟とすることを働きかけてくれたのだそうだ。その上で、今回彼が騙された原因が古代のアーティファクトのよるものだとはっきりしたことで、彼の立場は以前よりぐっと良いものになった。

「アーティファクトというやつは、魔法使いが防げる領域のものではないからね。しかもそれと《幻惑魔法》の組み合わせとなると、知っていなければ……いや知っていたとしてもまず防ぐことはできなかっただろうと判断されたんだ。おかげで、あと数ヶ月の謹慎後は、別の役職へ復帰できることになり、皇帝陛下からもお許しが頂けた」

「それは良かったですね」

微笑む私に、シルベスター会長も安堵の微笑みを見せる。

「ああ、ドール参謀とグッケンス博士には心から感謝している。博士の助手として動き回ってくれていたのだろう君にも、本当に感謝する。ありがとう」

「いえいえ、私は弟子といっても〝お世話係〟の方が主な内弟子ですから、どうかお気になさらず」

「謙虚だね。……実は、兄の名誉回復のためわが家も総力を挙げて、あの女詐欺師を追っていたのだ。だが、軍部同様一向に行方がつかめず、捜査に出したはずの者が行方不明になることもしばしばという状況で、早期解決は困難なのではないかと皆焦っていたのだ」

確かにドール参謀が引き伸ばしてくれたとはいえ〝保留〟状態になっているお兄様の処遇がそのまま確定してしまえば、貴族として立ち直れないほどの汚点だ。キャサリナを捕まえて少しでもお兄様に有利な状況を作りたかったのだろうけれど、おそらく人を自在に操れるキャサリナにはこちらの情報は筒抜けだっただろうし、捉えにきた者たちを寝返らせることもできただろうから、彼らの捜査が上手くいかなかったのは当然だろう。

「あの女詐欺師の《幻惑魔法》は、あまり得意ではないとおっしゃっていたグッケンス博士と大差ないものでした。ただ手慣れていたことに加え、強力な《魅了》を与える道具を手に入れていましたから、正攻法で捕まえるのは大変だったでしょうね」

私の言葉にシルベスター会長は少し情けなさそうな顔をした。

「それについてなのだが……作戦の詳細については極秘扱いで聞き出すことができなかったが、教えていただいた話では、今回のためにグッケンス博士は莫大な金額の宝石を使ってくださったのことだった。それは事実なのだろうか?」

「え、ええ、まぁ、そうですね」

「すぐに補償させていただきたいところだが、情けないことにいまはまだわが家は、今回の事件のために支払った100大金貨と罰則金200大金貨のおかげで身動きが取れないんだ。大変申し訳ないが、しばし返金をお待ちいただけないかとグッケンス博士にはお伝え願えないだろうか……」

どうやら、グッケンス博士からは忙しいので挨拶無用だと言われているらしく、弟子の私を通じてなんとかコンタクトを取ろうということらしい。

「博士はそんなことまったく気にされておりませんので、ご安心ください。あの方は宝石など本当にまったく興味ないのですから。あってもなくてもいい石ころ扱いで、ぞんざいにおいてあるだけなんです。ただ、今回のことで少し興味が湧かれたようです。むしろ、宝石の持つ魔法効果についていい研究になったと思っていらっしゃいますよ」

「それならばいいのだがな……ともあれ、今回は世話になった。この恩は忘れないよ、マリスくん。
グッケンス博士への補償もいずれ必ずさせてもらう、と伝えて欲しい」

いままでで一番さわやかな微笑みを浮かべたシルベスター会長に見送られ、私は生徒会室から立ち去った。

(ああして優しそうに微笑んでいれば、本当に爽やかで素敵なんだよね。普段の能面ばりの無表情は彼の一面でしかないのかも……)

会長の新たな一面に触れた私は、機嫌よくオーライリたちとお茶をしに中庭へと向かっていった。
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