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4 聖人候補の領地経営
615 視察準備
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615
「すべての領地をご訪問になるのですか?」
「うん、そうよ。全部見ておきたいの」
シルベスター公爵の訪問のおかげで、正式に“マリス領の所有である”と確認が取れた旧シルベスター公爵邸は、領主の館として再稼働した。今日は私のために整えてくれた執務室で、キッペイたちと今後の予定について話している。
大抵の領主は、領主の居城のある土地から動くことはない。用事があれば相手を呼びつけるのが当たり前だ。
それに領内の情報が欲しいというのであれば、領地内は税務官たちが、徴税調査のために巡回しており、彼らから必要な情報は得ることができる。だがそれでも、私としては今後の領地運営のために、実地でこれから運営していく土地を見ておきたいのだ。やはり実際に行ってみないとわからないことはあるし、新しい領主がちゃんと仕事をしようとしていることを、土地の人に直接伝えて理解してもらいたいし、問題があるのなら一緒に考えていきたいと思う。
そして、極秘ミッションとして、もうひとつ重要なことのためにも、私は十の州へ出向く必要があるのだ。そう、私の領地である北東部十州にクイックアクセスできるようにするためだ。
(とにかく早いところ《無限回廊の扉》を使ったネットワークを領内に張り巡らせたいんだよね。この十州に一度行って《無限回廊の扉》を設置してしまえば、何か緊急の問題が起きたときに迅速に動けるから、これだけは早急に確保しておきたいんだ。でも、周りには言えないからこっそりやらないと……)
私の秘密スキルのもろもろについては、誰にどこまで話すか、まだ決めかねている。キッペイは《無限回廊の扉》については、ぼんやりと知ってはいると思う。一度は中を通ってシラン村へ一緒に行ったこともあるのだから、半分教えてしまっているようなものだ。とはいえ、その仕組みや何ができるのかの詳細はまだ伝えていない。
秘密を共有するということは、危険も共有することにつながるので、どちらかというとその覚悟が私のほうにないのかもしれない。知らなければ知らないで済むことも、知っているために危険に巻き込まれる可能性もあるのだ。
(グッケンス博士やセイリュウは、絶対自分の身は自分で守れるから心配してないんだけど、キッペイはそうじゃないしね)
私はマルコとロッコが危険な目に合った経緯もあり、私に関わったことで回りに危険が及ぶことをとても恐れている。あのふたりはいまでは料理の腕だけでなく格闘技の腕も磨いて、すっかり立派になっちゃったけど、それでもやはりいまでも心配はつきない。
(キッペイも剣や格闘術の訓練をずっと続けていて、それなりに強いとは聞いているんだけど、何せ変な魔法も多い世界だから、やっぱり心配なんだよね)
どちらにしても私とともに仕事をしてくれる子たちには《無限回廊の扉》については、いずれきっちり話さなければならないとは思うが、まだしばらくはぼかしておきたい。
「それで、メイロードさまのご訪問前に、これらの州に“祈りの祠”を作ってほしいと依頼するのですね」
キッペイが私の訪問に際しての確認事項を紙に書きだしている。
「うん。立派なものは必要ないの。土地の神様に祈りを捧げるだけだから、中に人ひとり入れてお祈りができる広さがあればいいの。もちろんそれにかかる費用はこちらで出すから、ちゃんと請求するように伝えてね」
この祠を《無限回廊の扉》でつないで、領内瞬間移動ネットワークを作るのが私の計画だ。
「承知いたしました。では巡回税務官の方々を通じて、各地域の代表者にその旨通達いたします。きっと皆さんお喜びになりますよ」
「そ、そうかな」
「ええ、土地神様への信仰はどの地域でもあるものですが、教団を持つような宗教とは違い集金したり信徒を動かしたりして立派な聖堂や教会を建てるといったことはできませんからね。こうやって、きちんと整備することを領主の側から提案されたら、張り切っていい建物を作ってくれるはずです」
(いや、そんなに張り切ってもらわなくてもいいんだけど、ま、いいか)
そこからは訪問の順番や日程についての調整に入ることにした。すべての領地に行きたいとは言ったものの、私が多忙なのも事実だ。移動のための時間はなるべく短縮したい。
「それで、領主の移動なんだけど仰々しくしないとダメかな?」
私の探るような言葉にキッペイは少し眉をひそめた。
「セイツェさんにもお聞きしましたが、基本的に領主ともなれば五人、十人のお付き、それに警護の者を従えての移動が当たり前だそうです。ではありますが、メイロードさまは特別の移動法などもお持ちのようなので、そのために少人数で移動したいというのであれば、それは致し方のないこと、と言えなくもない……とおっしゃっていました」
「ほんとはだめだけど、私は普通じゃないから大目に見てもらえるだろう……ってことかな?」
「そういうことですね。確かにアタタガさんをお召しになるということなら、道中の危険もないですから、安心ではあります」
キッペイにはアタタガ・フライのことはすでに紹介済み。サイデムおじさまの緊急時には何度かお貸ししたので、側近だったキッペイもその頃から知っていたようだ。
「じゃ、私とソーヤのふたりで移動するね。お付きとか側仕えとか、必要ないし、いまだっていないし……」
「この館にはおりますよ。メイロードさまが直付きの人員はもったいなからいらないと強硬におっしゃるのでこの部屋にはおりませんが、この屋敷の管理のためには必要ですから」
(あ、そうだった……)
「すべての領地をご訪問になるのですか?」
「うん、そうよ。全部見ておきたいの」
シルベスター公爵の訪問のおかげで、正式に“マリス領の所有である”と確認が取れた旧シルベスター公爵邸は、領主の館として再稼働した。今日は私のために整えてくれた執務室で、キッペイたちと今後の予定について話している。
大抵の領主は、領主の居城のある土地から動くことはない。用事があれば相手を呼びつけるのが当たり前だ。
それに領内の情報が欲しいというのであれば、領地内は税務官たちが、徴税調査のために巡回しており、彼らから必要な情報は得ることができる。だがそれでも、私としては今後の領地運営のために、実地でこれから運営していく土地を見ておきたいのだ。やはり実際に行ってみないとわからないことはあるし、新しい領主がちゃんと仕事をしようとしていることを、土地の人に直接伝えて理解してもらいたいし、問題があるのなら一緒に考えていきたいと思う。
そして、極秘ミッションとして、もうひとつ重要なことのためにも、私は十の州へ出向く必要があるのだ。そう、私の領地である北東部十州にクイックアクセスできるようにするためだ。
(とにかく早いところ《無限回廊の扉》を使ったネットワークを領内に張り巡らせたいんだよね。この十州に一度行って《無限回廊の扉》を設置してしまえば、何か緊急の問題が起きたときに迅速に動けるから、これだけは早急に確保しておきたいんだ。でも、周りには言えないからこっそりやらないと……)
私の秘密スキルのもろもろについては、誰にどこまで話すか、まだ決めかねている。キッペイは《無限回廊の扉》については、ぼんやりと知ってはいると思う。一度は中を通ってシラン村へ一緒に行ったこともあるのだから、半分教えてしまっているようなものだ。とはいえ、その仕組みや何ができるのかの詳細はまだ伝えていない。
秘密を共有するということは、危険も共有することにつながるので、どちらかというとその覚悟が私のほうにないのかもしれない。知らなければ知らないで済むことも、知っているために危険に巻き込まれる可能性もあるのだ。
(グッケンス博士やセイリュウは、絶対自分の身は自分で守れるから心配してないんだけど、キッペイはそうじゃないしね)
私はマルコとロッコが危険な目に合った経緯もあり、私に関わったことで回りに危険が及ぶことをとても恐れている。あのふたりはいまでは料理の腕だけでなく格闘技の腕も磨いて、すっかり立派になっちゃったけど、それでもやはりいまでも心配はつきない。
(キッペイも剣や格闘術の訓練をずっと続けていて、それなりに強いとは聞いているんだけど、何せ変な魔法も多い世界だから、やっぱり心配なんだよね)
どちらにしても私とともに仕事をしてくれる子たちには《無限回廊の扉》については、いずれきっちり話さなければならないとは思うが、まだしばらくはぼかしておきたい。
「それで、メイロードさまのご訪問前に、これらの州に“祈りの祠”を作ってほしいと依頼するのですね」
キッペイが私の訪問に際しての確認事項を紙に書きだしている。
「うん。立派なものは必要ないの。土地の神様に祈りを捧げるだけだから、中に人ひとり入れてお祈りができる広さがあればいいの。もちろんそれにかかる費用はこちらで出すから、ちゃんと請求するように伝えてね」
この祠を《無限回廊の扉》でつないで、領内瞬間移動ネットワークを作るのが私の計画だ。
「承知いたしました。では巡回税務官の方々を通じて、各地域の代表者にその旨通達いたします。きっと皆さんお喜びになりますよ」
「そ、そうかな」
「ええ、土地神様への信仰はどの地域でもあるものですが、教団を持つような宗教とは違い集金したり信徒を動かしたりして立派な聖堂や教会を建てるといったことはできませんからね。こうやって、きちんと整備することを領主の側から提案されたら、張り切っていい建物を作ってくれるはずです」
(いや、そんなに張り切ってもらわなくてもいいんだけど、ま、いいか)
そこからは訪問の順番や日程についての調整に入ることにした。すべての領地に行きたいとは言ったものの、私が多忙なのも事実だ。移動のための時間はなるべく短縮したい。
「それで、領主の移動なんだけど仰々しくしないとダメかな?」
私の探るような言葉にキッペイは少し眉をひそめた。
「セイツェさんにもお聞きしましたが、基本的に領主ともなれば五人、十人のお付き、それに警護の者を従えての移動が当たり前だそうです。ではありますが、メイロードさまは特別の移動法などもお持ちのようなので、そのために少人数で移動したいというのであれば、それは致し方のないこと、と言えなくもない……とおっしゃっていました」
「ほんとはだめだけど、私は普通じゃないから大目に見てもらえるだろう……ってことかな?」
「そういうことですね。確かにアタタガさんをお召しになるということなら、道中の危険もないですから、安心ではあります」
キッペイにはアタタガ・フライのことはすでに紹介済み。サイデムおじさまの緊急時には何度かお貸ししたので、側近だったキッペイもその頃から知っていたようだ。
「じゃ、私とソーヤのふたりで移動するね。お付きとか側仕えとか、必要ないし、いまだっていないし……」
「この館にはおりますよ。メイロードさまが直付きの人員はもったいなからいらないと強硬におっしゃるのでこの部屋にはおりませんが、この屋敷の管理のためには必要ですから」
(あ、そうだった……)
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