利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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5森に住む聖人候補

848 お祭りの行事を考えてみた

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848

「その〝綱引き〟っていうのはすごく面白そうだけど、どうにも男衆が熱くなりそうな勝負事だねぇ」

おかみさんはそう言いながら少し困ったような顔をした。たしかに、力勝負の〝綱引き〟は腕に自慢の船乗りたちを中心とした行事になるだろう。ヨシンさんやタイチの話しぶりからも、盛り上がるのは間違いなさそうだが、力と力のぶつかり合いの勝負だ。気性の荒い海の男たちがいろいろと〝たぎらせて〟臨むイベントになるに違いないとおかみさんは考え、ヨシンさんが怪我をしないかと心配している。

(まぁ、綱引きで怪我っているのは手の皮がむけちゃうとか、それぐらいだとは思うけど…… 確かに〝男祭り〟って感じになっちゃいそうだなぁ。勇壮なイベントは港町らしくていいけど、女性や子どもたちが入り込む余地がなさそうなのはまずいよね。子どもだけの綱引きを盛り込むのもありかもしれないけど、他にもっと穏やかな気軽に参加できる行事が欲しいよね……)

おかみさんと私は、少し呆れ顔でヨシンさんとタイチの〝綱引き〟イベントに関するヒートアップした話し合いをしばらく眺めていたのだが、ふとテーブルの上に目が向いた。そこで料理のあしらいとして皿に乗せられた葉っぱに目が止まったのだ。それはとても大きな笹の葉に似た形で私にあるモノを思い出させてくれた。

「この葉っぱは、この辺りには多くありましたよね。お魚を買うと包んでくれたりする……確かアルド……」

「そうだよ。アルドっていう木の葉なのよ。大きさがちょうどいいから、お皿の代わりにしたり、食べ物を包んだり、便利に使ってるわ」

その葉を見ると、アルドは沿海州に多い木の一種で、成長が早く節のある背の高い植物である、そう《鑑定》が教えてくれる。

(なるほど、〝竹〟みたいな感じだね)

私が興味を持ったとわかったおかみさんは、すぐに台所からアルドの葉を何枚か持ってきてくれた。この辺りではアルドの葉はどこのお宅でも台所に常備しているぐらいお馴染みの植物だという。

「それでは、これを使って、こんなのはどうでしょうか?」

私は手にしたアルドの葉を使って昔懐かしい遊び道具を作り始めた。

「おやおや器用なもんだね」

私が作ったのは〝笹舟〟この場合は〝アルド舟〟というべきか。折り方にはいくつか種類があるが、なんの道具も要らず数回折り畳むだけというシンプルな遊び道具だ。

「この舟に願いごとを書いた薄い木板を乗せて川から流してみたらどうでしょう。海の神様に願いが届くかもしれません」

こうして海や川に何かを流す祭りは、以前の世界にも多くあった。小さな人形や舟型の灯籠を流す行事など、いろいろ頭に浮かんだが、今回はシンプルに考えた方がいいと判断した。どこでも手に入る素材を使った〝アルド舟〟ならば子供でも作ることができるし、お金もかからないので誰でも負担なく参加できる。お祭りの行事としても悪くないだろう。

おかみさんはアルド舟が気に入ったようで、私が折った舟を手にしながらうれしそうに飾り付けを考えてくれた。

「なるほどねぇ……かわいらしい舟だよ、これ。この港町にはピッタリじゃないか。いいものを考えてくれたね。すごいねぇ、メイロードちゃん! これなら子どもたちでも作れそうだし、誰でもつくれそう。お願いごとを乗せるというのもいいね。文字が書けなければ絵でもいいだろうし。一緒に花を乗せたらどうかしら。花で飾られた船がたくさん川に浮かんだらきっと綺麗だと思うよ。どれぐらい載せられるか、試してみなくちゃね」

おかみさんがすっかり乗り気なので、どうやらこちらもお祭りの行事に組み込めそうだ。

タイチもアルド舟を面白がってくれた。

「これは子どもたちの遊びとしても定着するかもしれないですね。楽しいものを教えてくださりありがとうございます」
「ふふ、気に入ってもらえてよかったわ。家庭円満とか大漁祈願、無病息災なんて書いて載せてもいいかもね。書けない人たちのために流すお札をお社で作ってもいいかも。安くしても大量にはけそうだから、そこそこいい儲けが出るんじゃないかしら」

「ははは、さすがはメイロードさま。うまく仕事にお繋げになりますね。でも、たしかにそれは祭りの運営費の助けになりそうです。それもお社とぜひ相談することにいたしましょう。それにあまりいい情報ではないのですが、最近は隣国で病の流行も囁かれています。きっと〝無病息災〟のお札はたくさん売れるでしょうね」

「え、病気が? そうなのね……それは皆さん気になるでしょうね」
「ですが、いまのところアキツには何も問題はありませんので、ご心配にはお呼びません。一応注視はしておりますが……」

そう言うタイチの顔はすっかり〝ご領主様〟のものだ。大変なことも多いだろうに、それすらも楽しんでいるようなタイチの姿がとても頼もしく、なんだかうれしい気分だ。

「お祭りの屋台楽しみだなぁ~、きっと海鮮の焼き物がたくさん食べられるよね」
「はい。それだけは最初から決まっております。街の商店はこぞって屋台を出してくれるようですので、メイロードさまには是非バンダッタの海の幸を堪能していただきたいですね」
「うん! それはいいね。外で食べる焼き物はそれだけで最高だよね」

実はこのとき私の頭にはいくつか屋台のアイディアが浮かんではいたが、それは言わずにおいた。儲けにはなるかもしれないが、今回は口出ししすぎないようにしようと考えていたし、もうアドバイスは十分だろう。

それに、食べ物について屋台参加をし始めたら、もうお仕事になってしまう。今回のお祭りはひとりの住民としてのんびり楽しむ、それがいい。

(そうそう、私はのんびり休暇旅行中なんだから……)
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