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6 謎の事件と聖人候補
1020 一矢
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1020
〝四双竜〟との戦いが厳しいものになることは、戦場にいる誰もが理解していた。
ほとんどの魔法の効果を相殺してしまう〝四双竜〟と戦うためには、どうしても物理的な強さが要求される。だが剣で戦いを挑むには、あまりにもその竜は大きく堅牢だった。
「〝四双竜〟はとてつもなく頑丈だといわれているからな……どれだけ攻撃すればいいのか見当もつかん」
「〝魔術師〟の攻撃の効果があまり期待できないとなれば、歩兵の損耗を覚悟せねばなりませんな」
そんな力押しでひたすら攻撃をかけ続ける肉弾戦しか策がないという重い空気が、司令官の間でも支配的になっているとソーヤから報告があった。
すでに〝特級魔術師〟たちが攻撃を始めているものの、〝四双竜〟の魔法への耐性に阻まれ、その魔法の威力からは考えられないような傷しか与えられず、その歩みを止めることすらできていないというのだから、なかなかに深刻だ。
(さすがは魔王の作ったダンジョン最後の魔物。この竜、本当に厄介よねぇ……)
話は少し戻るが、この〝巨大暴走〟における戦いにどこまで踏み込むべきなのかについて、私はずっと考えていた。何も手を出さずとも突破できそうならそれが一番いい。
(でも、最下層にいる魔物となると、きっと簡単じゃないよね)
そこで保険として私が関与できそうな助力を考え、ミゼルの力を仰ぐことにした。グッケンス博士に隠れ蓑になってもらうことも決まり、この作戦は成功している。
(あの数はやばかったもん。おかげでうまく誤魔化せたし、退治できてよかったぁ)
強敵が数で押してくる状況はダンジョンでも起こりやすいものだし、ダンジョンの最下層にいる怪物たちとの戦いとなれば、一匹一匹のポテンシャルが高いだろうことも予想がついたから対策できたことだ。
(いくら強い相手でも、動けなくなっていたらなんとかなるもんね)
ここまではある意味予想できた展開だったが、考えなければならない最後の難題が控えている。
(ダンジョンには〝ボスキャラ〟って感じのやたらと強いやつが最後に控えてることが多いからね)
最後に現れるダンジョンの主となる魔物が、他とは比較にならない厄介さと強さを持っているということは、少ないながら実際にダンジョンへ潜ったことがある私は肌感として知っている。経験の多い博士やセイリュウ聞いてもいることはほぼ確定とのことだった。しかも未踏派のダンジョンの最下層の魔物となれば、その能力の予想もできず、具体的な対策は立てようもない。軍もきっとそのことは重々承知だろう。
それでも〝特級魔術師〟部隊の参戦があれば、私が出張る必要はないかもしれないと思わないでもなかったし、最終的にグッケンス博士の判断が下されない限り、私はこれ以上戦場に何かするつもりはなかったのだ。
(……とはいってもみんなが住んでいるイスを襲わせるわけにはいかないよ。事前準備をせずにいられない心配性だし。無駄になってもいいから、ともかくしっかり備えておかないと、そわそわしちゃうんだもん)
そして私にしかできない対策について、グッケンス博士と話しておいた。
「ダンジョンの主がどんなものであっても、大きな一撃を与えられたら戦いを楽に進められますよね」
「それが一番難しいからのぉ。叶えば時間も人も消耗せずに済むが……」
「なので、〝キング・リザード〟のアレを使おうかと思うんですよ」
「そうか! なるほどのぉ……メイロードの研究と実証実験で破壊力はわかっとるし、悪くない案じゃの」
そのあまりの破壊力に驚いてお蔵入りとなった私の初論文〝キング・リザードの銀の骨による魔法威力増幅作用研究〟をここで実用化する。
「とはいっても、こんな武器を大っぴらにするのはやっぱりまずいじゃないですか、私の人生設計的に……」
「うーむ……いろいろな意味で、あとあと面倒なことになるじゃろうの。その対策はしておかねばのぉ」
「すいません、いつも無理を言って」
「本当にのぉ……とはいえ、そんなおまえさんの力に頼るしかないのはわれらなのだ。願わくば、この力を借りることなく〝巨大暴走〟をねじ伏せられることを願うよ」
「本当に、そうあって欲しいですね」
私と博士はため息をつきながらも、粛々と万が一のときのための準備に動いた。
まずは見通しのいい高台で、狙いがつけやすそうな場所の確保からだった。今回の武器はかなり飛距離もあるが、できれば矢の威力の減衰率を低く抑えたいので、場所の選定には苦労した。
ただ敵である魔物たちの出現地点はダンジョンの出口から続く直線上に固定されていたため、そこを起点とすることで良い角度の位置の山を少し切り開いて頑丈な台座を設置することができた。この台座から発射する巨大な矢は、イスの職人ギルドの代表もされている名工ナバフ・ジスタンさんの武器工房に特注したものだ。このほとんど電柱のような太さの巨大な棒の矢尻には、グッケンス博士所有の超硬度素材〝ミスリル〟を使わせてもらっている。
これが突き通らないならお手上げだ、といわれている伝説級の素材らしい。
覚悟を決めた私は、最後の魔獣の討伐のため《無限回廊の扉》を抜け、その発射台の前に立つ。
「これで魔王の仕掛けはおしまい。最後のおかたづけね……」
〝四双竜〟との戦いが厳しいものになることは、戦場にいる誰もが理解していた。
ほとんどの魔法の効果を相殺してしまう〝四双竜〟と戦うためには、どうしても物理的な強さが要求される。だが剣で戦いを挑むには、あまりにもその竜は大きく堅牢だった。
「〝四双竜〟はとてつもなく頑丈だといわれているからな……どれだけ攻撃すればいいのか見当もつかん」
「〝魔術師〟の攻撃の効果があまり期待できないとなれば、歩兵の損耗を覚悟せねばなりませんな」
そんな力押しでひたすら攻撃をかけ続ける肉弾戦しか策がないという重い空気が、司令官の間でも支配的になっているとソーヤから報告があった。
すでに〝特級魔術師〟たちが攻撃を始めているものの、〝四双竜〟の魔法への耐性に阻まれ、その魔法の威力からは考えられないような傷しか与えられず、その歩みを止めることすらできていないというのだから、なかなかに深刻だ。
(さすがは魔王の作ったダンジョン最後の魔物。この竜、本当に厄介よねぇ……)
話は少し戻るが、この〝巨大暴走〟における戦いにどこまで踏み込むべきなのかについて、私はずっと考えていた。何も手を出さずとも突破できそうならそれが一番いい。
(でも、最下層にいる魔物となると、きっと簡単じゃないよね)
そこで保険として私が関与できそうな助力を考え、ミゼルの力を仰ぐことにした。グッケンス博士に隠れ蓑になってもらうことも決まり、この作戦は成功している。
(あの数はやばかったもん。おかげでうまく誤魔化せたし、退治できてよかったぁ)
強敵が数で押してくる状況はダンジョンでも起こりやすいものだし、ダンジョンの最下層にいる怪物たちとの戦いとなれば、一匹一匹のポテンシャルが高いだろうことも予想がついたから対策できたことだ。
(いくら強い相手でも、動けなくなっていたらなんとかなるもんね)
ここまではある意味予想できた展開だったが、考えなければならない最後の難題が控えている。
(ダンジョンには〝ボスキャラ〟って感じのやたらと強いやつが最後に控えてることが多いからね)
最後に現れるダンジョンの主となる魔物が、他とは比較にならない厄介さと強さを持っているということは、少ないながら実際にダンジョンへ潜ったことがある私は肌感として知っている。経験の多い博士やセイリュウ聞いてもいることはほぼ確定とのことだった。しかも未踏派のダンジョンの最下層の魔物となれば、その能力の予想もできず、具体的な対策は立てようもない。軍もきっとそのことは重々承知だろう。
それでも〝特級魔術師〟部隊の参戦があれば、私が出張る必要はないかもしれないと思わないでもなかったし、最終的にグッケンス博士の判断が下されない限り、私はこれ以上戦場に何かするつもりはなかったのだ。
(……とはいってもみんなが住んでいるイスを襲わせるわけにはいかないよ。事前準備をせずにいられない心配性だし。無駄になってもいいから、ともかくしっかり備えておかないと、そわそわしちゃうんだもん)
そして私にしかできない対策について、グッケンス博士と話しておいた。
「ダンジョンの主がどんなものであっても、大きな一撃を与えられたら戦いを楽に進められますよね」
「それが一番難しいからのぉ。叶えば時間も人も消耗せずに済むが……」
「なので、〝キング・リザード〟のアレを使おうかと思うんですよ」
「そうか! なるほどのぉ……メイロードの研究と実証実験で破壊力はわかっとるし、悪くない案じゃの」
そのあまりの破壊力に驚いてお蔵入りとなった私の初論文〝キング・リザードの銀の骨による魔法威力増幅作用研究〟をここで実用化する。
「とはいっても、こんな武器を大っぴらにするのはやっぱりまずいじゃないですか、私の人生設計的に……」
「うーむ……いろいろな意味で、あとあと面倒なことになるじゃろうの。その対策はしておかねばのぉ」
「すいません、いつも無理を言って」
「本当にのぉ……とはいえ、そんなおまえさんの力に頼るしかないのはわれらなのだ。願わくば、この力を借りることなく〝巨大暴走〟をねじ伏せられることを願うよ」
「本当に、そうあって欲しいですね」
私と博士はため息をつきながらも、粛々と万が一のときのための準備に動いた。
まずは見通しのいい高台で、狙いがつけやすそうな場所の確保からだった。今回の武器はかなり飛距離もあるが、できれば矢の威力の減衰率を低く抑えたいので、場所の選定には苦労した。
ただ敵である魔物たちの出現地点はダンジョンの出口から続く直線上に固定されていたため、そこを起点とすることで良い角度の位置の山を少し切り開いて頑丈な台座を設置することができた。この台座から発射する巨大な矢は、イスの職人ギルドの代表もされている名工ナバフ・ジスタンさんの武器工房に特注したものだ。このほとんど電柱のような太さの巨大な棒の矢尻には、グッケンス博士所有の超硬度素材〝ミスリル〟を使わせてもらっている。
これが突き通らないならお手上げだ、といわれている伝説級の素材らしい。
覚悟を決めた私は、最後の魔獣の討伐のため《無限回廊の扉》を抜け、その発射台の前に立つ。
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