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6 謎の事件と聖人候補
1021 竜の最後
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1021
「総員攻撃を止めよ! これより槍を使った極めて強い衝撃を伴う攻撃が行われる。巻き込まれぬよう退避指示を徹底せよ!」
グッケンス博士の指示は、苦戦しながらも懸命に戦っていた前線の各所に一斉に告げられた。
数々の功績によりグッケンス博士がシド軍の最高顧問になって久しい。階級でいえばどの将軍よりも高位も指揮権を有する博士だったが、本人は戦いでの功績を望んでいるわけではなく、仕方なくつけている勲章のような役職だった。だがその地位も高齢を理由に何度も辞そうとしてきており、もう久しく軍部とも距離を置いてきた。
だが誰にも知らせていない、この未曾有の危機となった〝巨大暴走〟の背景を知っているグッケンス博士は、今回早い段階で参戦することを表明してくれた。それは私の作戦がうまくいかなかった場合の保険でもあった。
(もし私が失敗しちゃったら、そこからは総力戦で厳しい戦いをしなくちゃいけないだろうからね。私がなんとかすることを前提に隠している〝魔王〟絡みのあれこれも明かさなきゃいけなくなる。そんな逼迫した状況で偉い方々に素早く信じてもらうには、博士に話してもらうのが一番いいだろうからね)
〝魔術師〟を主軸とした魔物討伐作戦にグッケンス博士が参加したことで、その全権は博士に委ねられることになった。それは〝魔術師〟たちにとって最も心強いことであったし、数々の修羅場を勝ち抜いてきた軍部の尊敬を集めるグッケンス博士の指揮に異論を挟むものはなかったのだ。
この突然の撤退命令にも彼らはすぐ行動を起こし、攻撃の強さに見合わない傷しか負わせられないまま疲弊しつつあった〝特級魔術師部隊〟も〝四双竜〟から離れていく。
状況を見守る全員の視線が集まる中、戦場に響いたのは誰も聞いたことのない爆発音だった。
あまりの速さに誰もそれを追うことはできず、ただ恐怖に躰を縮めてそれが過ぎるのを見送った。そして次の瞬間には戦場にとてつもない爆風が起こり、何もかもが一瞬のうちに土埃に遮られた。躰を起こして何が起こったのか見確かめようと兵士たちが目を凝らしていると、少しづつ土埃が晴れていく。
「お、おお!」
そこに彼らが見た光景は驚くべきものだった。
〝四双竜〟の胸にはとても投げられるとは思えない太さの槍が突き立てられていたからだ。
その状況でも四つの首を必死にグネグネと引き攣らせ必死に動こうとする〝四双竜〟は、悲鳴に近い咆哮をあげていた。どうやら槍が与えた傷は致命傷に近いダメージを与えたようだ。さらに何度も叫び続けるその様子から毒のような蓄積型の攻撃が与えられていることも明らかだった。
さすがの最強種の竜もこのダメージは応えている様子で、それに抗うことに手いっぱいとみえ、こちらへの攻撃ができない状況だった。
「いまだ! 全軍攻撃体制に入れ! 〝四双竜〟に魔法攻撃は効かぬが、たとえその身は堅くとも物理攻撃は確実に入る! 攻撃を続ければ必ず仕留められる魔物じゃ! 進軍せよ!」
グッケンス博士の指示で、全軍が攻撃に転じた。
明らかに弱りつつある〝四双竜〟の様子は全軍を奮い立たせ、攻撃を重ねていく。相手からの攻撃を心配せずともいられる状況であれば、兵士たちも大胆に攻撃へと転じることができた。
それでも戦いがすぐには終わらず、死闘の数十分の攻防の末、ついにダンジョン最後の怪物は、すべての首を切られ、その場所に崩れ落ちた。
「うおおお‼︎ やったぞ〝四双竜〟を倒したああああ!!」
「うおおお‼︎」
興奮状態の兵士たちがあちこちで鬨の声を上げる。
泣き崩れる者もいる。
疲れ果てたのかその場にしゃがみ込む者もいた。
日が沈みかけた夕日の戦場で、その様子を見ながらグッケンス博士は《念話》をした。
〔終わったよ……すべて終わったよ、メイロード〕
〔お疲れさまでした、〝巨大暴走〟止められてよかったですね〕
〔そうじゃな……そうじゃ……〕
聳え立つように槍が刺さった怪物のいる戦場を見下ろし、グッケンス博士は笑みを浮かべてから踵を返した。
「あとのことは軍部の指揮官に任せるが良いな」
博士の言葉に控えていた将校たちがうなずく。
「はい、ありがとうございました。あとはお任せを」
「ではわしは離脱する」
(さすがにわしも疲れた。ここであの槍のことや何やらの説明をさせられるのは勘弁してもらいたいものよ)
「総員攻撃を止めよ! これより槍を使った極めて強い衝撃を伴う攻撃が行われる。巻き込まれぬよう退避指示を徹底せよ!」
グッケンス博士の指示は、苦戦しながらも懸命に戦っていた前線の各所に一斉に告げられた。
数々の功績によりグッケンス博士がシド軍の最高顧問になって久しい。階級でいえばどの将軍よりも高位も指揮権を有する博士だったが、本人は戦いでの功績を望んでいるわけではなく、仕方なくつけている勲章のような役職だった。だがその地位も高齢を理由に何度も辞そうとしてきており、もう久しく軍部とも距離を置いてきた。
だが誰にも知らせていない、この未曾有の危機となった〝巨大暴走〟の背景を知っているグッケンス博士は、今回早い段階で参戦することを表明してくれた。それは私の作戦がうまくいかなかった場合の保険でもあった。
(もし私が失敗しちゃったら、そこからは総力戦で厳しい戦いをしなくちゃいけないだろうからね。私がなんとかすることを前提に隠している〝魔王〟絡みのあれこれも明かさなきゃいけなくなる。そんな逼迫した状況で偉い方々に素早く信じてもらうには、博士に話してもらうのが一番いいだろうからね)
〝魔術師〟を主軸とした魔物討伐作戦にグッケンス博士が参加したことで、その全権は博士に委ねられることになった。それは〝魔術師〟たちにとって最も心強いことであったし、数々の修羅場を勝ち抜いてきた軍部の尊敬を集めるグッケンス博士の指揮に異論を挟むものはなかったのだ。
この突然の撤退命令にも彼らはすぐ行動を起こし、攻撃の強さに見合わない傷しか負わせられないまま疲弊しつつあった〝特級魔術師部隊〟も〝四双竜〟から離れていく。
状況を見守る全員の視線が集まる中、戦場に響いたのは誰も聞いたことのない爆発音だった。
あまりの速さに誰もそれを追うことはできず、ただ恐怖に躰を縮めてそれが過ぎるのを見送った。そして次の瞬間には戦場にとてつもない爆風が起こり、何もかもが一瞬のうちに土埃に遮られた。躰を起こして何が起こったのか見確かめようと兵士たちが目を凝らしていると、少しづつ土埃が晴れていく。
「お、おお!」
そこに彼らが見た光景は驚くべきものだった。
〝四双竜〟の胸にはとても投げられるとは思えない太さの槍が突き立てられていたからだ。
その状況でも四つの首を必死にグネグネと引き攣らせ必死に動こうとする〝四双竜〟は、悲鳴に近い咆哮をあげていた。どうやら槍が与えた傷は致命傷に近いダメージを与えたようだ。さらに何度も叫び続けるその様子から毒のような蓄積型の攻撃が与えられていることも明らかだった。
さすがの最強種の竜もこのダメージは応えている様子で、それに抗うことに手いっぱいとみえ、こちらへの攻撃ができない状況だった。
「いまだ! 全軍攻撃体制に入れ! 〝四双竜〟に魔法攻撃は効かぬが、たとえその身は堅くとも物理攻撃は確実に入る! 攻撃を続ければ必ず仕留められる魔物じゃ! 進軍せよ!」
グッケンス博士の指示で、全軍が攻撃に転じた。
明らかに弱りつつある〝四双竜〟の様子は全軍を奮い立たせ、攻撃を重ねていく。相手からの攻撃を心配せずともいられる状況であれば、兵士たちも大胆に攻撃へと転じることができた。
それでも戦いがすぐには終わらず、死闘の数十分の攻防の末、ついにダンジョン最後の怪物は、すべての首を切られ、その場所に崩れ落ちた。
「うおおお‼︎ やったぞ〝四双竜〟を倒したああああ!!」
「うおおお‼︎」
興奮状態の兵士たちがあちこちで鬨の声を上げる。
泣き崩れる者もいる。
疲れ果てたのかその場にしゃがみ込む者もいた。
日が沈みかけた夕日の戦場で、その様子を見ながらグッケンス博士は《念話》をした。
〔終わったよ……すべて終わったよ、メイロード〕
〔お疲れさまでした、〝巨大暴走〟止められてよかったですね〕
〔そうじゃな……そうじゃ……〕
聳え立つように槍が刺さった怪物のいる戦場を見下ろし、グッケンス博士は笑みを浮かべてから踵を返した。
「あとのことは軍部の指揮官に任せるが良いな」
博士の言葉に控えていた将校たちがうなずく。
「はい、ありがとうございました。あとはお任せを」
「ではわしは離脱する」
(さすがにわしも疲れた。ここであの槍のことや何やらの説明をさせられるのは勘弁してもらいたいものよ)
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