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アリスとお近づきになる計画
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西澄アリスを笑わせる――
その目的を達成するために、早速俺は動きだした。
とにかくまずは、彼女と会って話をしないことには始まらない。
そこで俺はまた、学食で彼女が昼食を摂っているところにお邪魔することにした。
「よう。
ここいいか?」
今日も西澄は、ひとりで食事をしていた。
俺はBランチを乗せたトレーを、彼女の隣に席におく。
「……どうぞ、ご自由になさって下さい。
食堂のどこに座っても、それは北川さんの自由です」
愛想の欠片もない。
とは言え、最初の頃はスルーされていたことを思えば、返事が返ってくるだけマシとも言える。
ちらりと俺を見た西澄の目は、今日も死人のように光彩を失っていた。
「そっか。
あんがとよ」
彼女の隣に腰を下ろす。
さて。
ここからが本番なのだが……。
「なんだお前。
今日はサラダとシチューだけじゃねぇか。
そんなんだから力がでないんだ。
肉食え、肉を」
言いながら俺は、今日のBランチのメインのおかずであるとんかつをふた切れほど摘んで、西澄のサラダに乗せた。
なんか餌付けしてる気分だ。
「……余計なことをしないで下さい。
シチューだけで、じゅうぶんお腹は膨れます」
「いいから、いいから」
強引に押しつけながら、ふと思う。
女子を笑わせるって、具体的にはどうすればいいんだ?
今更ながら、俺は自分がそんなスキルを持ち合わせていないことに気が付いた。
「あー。
あれだ。
……なぁ、西澄。
最近どうだ?
なにか変わったことはないか」
「なんですか急に。
変わったことと言えば猫を飼い始めましたが、それは北川さんも知っての通りです。
ほかには特にありません」
「そうか」
あっという間に会話が終わってしまった。
盛り上がらないこと、このうえない。
だが俺は懲りずに、続けて彼女に話しかける。
「あー。
最近、少しずつ暑い日も増えてきたな」
「そうですね」
「だよな。
もう4月も後半だもんな。
ところで西澄は、新しいクラスにはもう馴染んだのか?」
「…………はい」
「なんだいまの間は?
ホントはまだ、馴染んでねぇんだろ」
「北川さんには関係ありません」
また話が終わってしまった。
取りつく島もありゃしない。
そのあとも俺は、あれやこれやと話題を変えて彼女に話しかける。
「そのとき、時宗のやつが――」
「……ごちそうさまでした。
では」
食事を終えた西澄が、話を遮って席を立った。
「お、おう。
ちょっと待てよ、西澄」
呼び止めるのも聞かずに、彼女はスタスタと歩み去っていく。
「はぁ……。
前途多難だな、こりゃあ」
人目をひく金の髪が見えなくなったところで、俺はため息をついて愚痴を吐きだした。
今回、彼女は笑うどころか、ピクリとも表情を変えなかった。
「うーん……」
たまらず唸る。
あいつを笑顔にするのは、思った以上に骨が折れそうだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌日。
俺は昼休みに、また時宗を呼び出していた。
今回は屋上ではなく、グラウンドの隅っこだ。
ここなら俺とこいつの組み合わせをとやかく言うやつらはいない。
「それで、大輔。
今度はなんの用だ」
「いや、用ってほど大層な話じゃねぇんだが……。
ちょっと相談にのってもらいたくてよ」
「ふむ……。
ついにお前も、俺を頼るようになったか。
友として嬉しいぞ。
よかろう。
なんでも俺に相談してみろ」
実際のところ嫌われ者の俺には、目の前のイケメン眼鏡と、あとはとある先輩くらいしか頼れる相手がいない。
だから相談相手にこいつを選んだわけだが、時宗もなんか喜んでいるし、言わずともよいことは敢えて黙っておく。
「ありがとよ。
それで実はだな――」
俺は西澄アリスを笑顔にさせたいことを伝えた。
◇
「……事情は理解した。
それはそうと、大輔」
ひと通り話すと、時宗のやつがしたり顔になった。
満足げに腕組みをして、しきりにうんうんと頷いている。
「やはりお前は俺が見込んだ男だ」
「……はぁ?
なんだそりゃ」
「つまり大輔は、辛い境遇におかれた西澄のことを助けたいんだな?」
「あ、ああ。
そうなるの、……かな?」
つい曖昧な返事をしてしまう。
恩着せがましい物言いかもしれないが、たしかに彼女を助けたいと、そういう気持ちはある。
だけど俺は、時宗の言葉に腑に落ちないものを感じた。
なぜなら俺が西澄の笑顔をもう一度みたいのは、彼女のためというよりも、俺自身の欲求によるところが大きいからだ。
言うなればこれは、俺のごく個人的な願望なのだ。
「そうだな。
西澄を笑顔にさせるとなると……」
時宗が眉間に皺を寄せて悩み始めた。
「うむむ……。
例えば、そう。
そうだな……」
このおかしな秀才からは、どんなアドバイスが飛び出してくるのだろう。
興味深く期待しながら、待つ。
「むむむ……。
そう。
いや……。
……やっぱりわからんな。
すまん、大輔!
女子の笑わせ方なんて、俺にはさっぱりわからない」
思わずずっこけそうになった。
「……お前なぁ。
いま大仰に悩むそぶりをしてみせたのは、いったいなんだったんだよ」
つい文句をつけてしまう。
だが俺だって、ひとのことをとやかく言える立場ではない。
「まぁ待て大輔。
俺にはわからないが、それを知っていそうな人物には心当たりがある」
「そうなのか?」
「ああ。
雪野さんだ」
「あ、なるほど」
雪野みなみ。
今年から3年に上がった、1学年うえの先輩である。
彼女は俺が前にいじめから助けた先輩だ。
俺が上級生たちをぶちのめして、入学早々、停学を受けるきっかけとなった事件のことである。
「おう、そうだな。
みなみ先輩なら、たしかにいいアドバイスをしてくれるかもしんねぇ」
このまま俺や時宗がふたりだけで悩んでも、的外れな結果しか得られないかもしれない。
俺たちは女の心の機微には疎いのだ。
その点、みなみ先輩は西澄と同じ女子なわけだし、きっと俺たちよりもいいやり方を思いついてくれるだろう。
「雪野さんには俺から声をかけておく。
だから明日の昼休憩に、またこの場所に集合しよう。
それでいいか?」
「ああ、そうすっか。
手間ぁ、かけさせてすまねぇな」
「……ふっ。
そんなことは気にするな。
俺たちは友人だろう」
時宗はこう言ってくれるが、それでは俺の気がすまない。
こいつには今度、飯でも奢ってやろうと思った。
その目的を達成するために、早速俺は動きだした。
とにかくまずは、彼女と会って話をしないことには始まらない。
そこで俺はまた、学食で彼女が昼食を摂っているところにお邪魔することにした。
「よう。
ここいいか?」
今日も西澄は、ひとりで食事をしていた。
俺はBランチを乗せたトレーを、彼女の隣に席におく。
「……どうぞ、ご自由になさって下さい。
食堂のどこに座っても、それは北川さんの自由です」
愛想の欠片もない。
とは言え、最初の頃はスルーされていたことを思えば、返事が返ってくるだけマシとも言える。
ちらりと俺を見た西澄の目は、今日も死人のように光彩を失っていた。
「そっか。
あんがとよ」
彼女の隣に腰を下ろす。
さて。
ここからが本番なのだが……。
「なんだお前。
今日はサラダとシチューだけじゃねぇか。
そんなんだから力がでないんだ。
肉食え、肉を」
言いながら俺は、今日のBランチのメインのおかずであるとんかつをふた切れほど摘んで、西澄のサラダに乗せた。
なんか餌付けしてる気分だ。
「……余計なことをしないで下さい。
シチューだけで、じゅうぶんお腹は膨れます」
「いいから、いいから」
強引に押しつけながら、ふと思う。
女子を笑わせるって、具体的にはどうすればいいんだ?
今更ながら、俺は自分がそんなスキルを持ち合わせていないことに気が付いた。
「あー。
あれだ。
……なぁ、西澄。
最近どうだ?
なにか変わったことはないか」
「なんですか急に。
変わったことと言えば猫を飼い始めましたが、それは北川さんも知っての通りです。
ほかには特にありません」
「そうか」
あっという間に会話が終わってしまった。
盛り上がらないこと、このうえない。
だが俺は懲りずに、続けて彼女に話しかける。
「あー。
最近、少しずつ暑い日も増えてきたな」
「そうですね」
「だよな。
もう4月も後半だもんな。
ところで西澄は、新しいクラスにはもう馴染んだのか?」
「…………はい」
「なんだいまの間は?
ホントはまだ、馴染んでねぇんだろ」
「北川さんには関係ありません」
また話が終わってしまった。
取りつく島もありゃしない。
そのあとも俺は、あれやこれやと話題を変えて彼女に話しかける。
「そのとき、時宗のやつが――」
「……ごちそうさまでした。
では」
食事を終えた西澄が、話を遮って席を立った。
「お、おう。
ちょっと待てよ、西澄」
呼び止めるのも聞かずに、彼女はスタスタと歩み去っていく。
「はぁ……。
前途多難だな、こりゃあ」
人目をひく金の髪が見えなくなったところで、俺はため息をついて愚痴を吐きだした。
今回、彼女は笑うどころか、ピクリとも表情を変えなかった。
「うーん……」
たまらず唸る。
あいつを笑顔にするのは、思った以上に骨が折れそうだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌日。
俺は昼休みに、また時宗を呼び出していた。
今回は屋上ではなく、グラウンドの隅っこだ。
ここなら俺とこいつの組み合わせをとやかく言うやつらはいない。
「それで、大輔。
今度はなんの用だ」
「いや、用ってほど大層な話じゃねぇんだが……。
ちょっと相談にのってもらいたくてよ」
「ふむ……。
ついにお前も、俺を頼るようになったか。
友として嬉しいぞ。
よかろう。
なんでも俺に相談してみろ」
実際のところ嫌われ者の俺には、目の前のイケメン眼鏡と、あとはとある先輩くらいしか頼れる相手がいない。
だから相談相手にこいつを選んだわけだが、時宗もなんか喜んでいるし、言わずともよいことは敢えて黙っておく。
「ありがとよ。
それで実はだな――」
俺は西澄アリスを笑顔にさせたいことを伝えた。
◇
「……事情は理解した。
それはそうと、大輔」
ひと通り話すと、時宗のやつがしたり顔になった。
満足げに腕組みをして、しきりにうんうんと頷いている。
「やはりお前は俺が見込んだ男だ」
「……はぁ?
なんだそりゃ」
「つまり大輔は、辛い境遇におかれた西澄のことを助けたいんだな?」
「あ、ああ。
そうなるの、……かな?」
つい曖昧な返事をしてしまう。
恩着せがましい物言いかもしれないが、たしかに彼女を助けたいと、そういう気持ちはある。
だけど俺は、時宗の言葉に腑に落ちないものを感じた。
なぜなら俺が西澄の笑顔をもう一度みたいのは、彼女のためというよりも、俺自身の欲求によるところが大きいからだ。
言うなればこれは、俺のごく個人的な願望なのだ。
「そうだな。
西澄を笑顔にさせるとなると……」
時宗が眉間に皺を寄せて悩み始めた。
「うむむ……。
例えば、そう。
そうだな……」
このおかしな秀才からは、どんなアドバイスが飛び出してくるのだろう。
興味深く期待しながら、待つ。
「むむむ……。
そう。
いや……。
……やっぱりわからんな。
すまん、大輔!
女子の笑わせ方なんて、俺にはさっぱりわからない」
思わずずっこけそうになった。
「……お前なぁ。
いま大仰に悩むそぶりをしてみせたのは、いったいなんだったんだよ」
つい文句をつけてしまう。
だが俺だって、ひとのことをとやかく言える立場ではない。
「まぁ待て大輔。
俺にはわからないが、それを知っていそうな人物には心当たりがある」
「そうなのか?」
「ああ。
雪野さんだ」
「あ、なるほど」
雪野みなみ。
今年から3年に上がった、1学年うえの先輩である。
彼女は俺が前にいじめから助けた先輩だ。
俺が上級生たちをぶちのめして、入学早々、停学を受けるきっかけとなった事件のことである。
「おう、そうだな。
みなみ先輩なら、たしかにいいアドバイスをしてくれるかもしんねぇ」
このまま俺や時宗がふたりだけで悩んでも、的外れな結果しか得られないかもしれない。
俺たちは女の心の機微には疎いのだ。
その点、みなみ先輩は西澄と同じ女子なわけだし、きっと俺たちよりもいいやり方を思いついてくれるだろう。
「雪野さんには俺から声をかけておく。
だから明日の昼休憩に、またこの場所に集合しよう。
それでいいか?」
「ああ、そうすっか。
手間ぁ、かけさせてすまねぇな」
「……ふっ。
そんなことは気にするな。
俺たちは友人だろう」
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こいつには今度、飯でも奢ってやろうと思った。
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