異世界で竜になりまして

猫正宗

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第一章 異世界で竜になりまして

07 ドラゴンウィングは空を飛び

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 お腹が空いた。
 さっきからぐうぐうと、わたしのお腹の虫は鳴きっぱなしである。

「ぅう……。アテが外れたなぁ……」

 この村にやって来た頃のことを思い出す。
 あのときはお気楽に、お肉なんかにあり付ければいいなぁ、なんて考えていたのだ。

 なのにこの現実はなんだろう?
 来る日も来る日も、過酷な農作業の繰り返し。
 配給される食事も質素に過ぎる。
 お湯でふやかしたご飯に、クズ野菜のスープってなんなのよ!

「うぬぬ……。やってられるかー!」

 近くにあるらしい城塞都市のほうに行ってみようか?
 いやいや、この黒髪と黒瞳くろめだ。
 捕まって投獄されてしまうかもしれない。
 下手をすれば魔女裁判で火炙りなんてことも……。

(ひぃぃ……!?)

 想像するだに恐ろしい。
 都市にいくのはやめておこう。

 いっそ国境を越えて、魔国というところに行こうか?
 でも現状では、あまりに情報が少なすぎる。
 魔国がもしここより酷かったら……。

 この村にいれば、最悪でも殺されることはなさそうだし、しばらくは現状維持に努めよう。
 森に戻ってもいいんだけど、現地人との接点はもっていたいしね。

 ……ぐう。

 またお腹が鳴った。
 ひもじい。
 なにか、お腹にたまるものが食べたい。

 食生活に関しては、森にいた頃のほうがまだましだった。
 あそこなら川魚が食べられる。

「あ、そうだ」

 ちょっと森までひとっ飛びして、魚を食べてこようかな?

 いまは早朝からの農作業も終えて、お昼の休憩中。
 午後の作業開始まで、まだ少し時間がある。
 コロナがやって来る前に、パパッと食べて戻ってこよう。

 思い立ったら即行動である。
 わたしは自分用にあてがわれた、簡素な作りのあばら家を出て、キョロキョロと辺りを伺う。

 ……大丈夫。
 誰もいないみたいだ。

「ドラゴン、ウィーング!」

 バッと竜翼を広げて、天高く舞い上がった。
 純白の翼が陽光をキラキラと反射する。
 やっぱり大空を自由に飛び回るのは、気持ちがいい。

「目指すは大森林! いっくわよー!」

 ビュンと風を切って加速した。



 沢についたわたしは、膝まで水に浸かっていた。

「ドラゴンイヤー!」

 気配を殺す。
 竜化したわたしの耳は、どんな些細な物音も聞き漏らさない。
 水がほんのわずかに跳ねた。

「……そこっ!」

 サッと手を払う。
 水面(みなも)をさらうように、腕を振り抜く。

「ぃよし! お魚げっとー!」

 鮎をひと回り大きくしたような川魚が、手のひらに収まっていた。
 ピチピチと跳ねている。
 わたしに掛かれば、この程度朝飯前なのである。

 沢から上がって、獲ったばかりの獲物の調理準備をする。
 鉤爪でうろこを削いで、内臓を掻き出し、口から尾にかけて小枝をぷすり。

「じゃあ、さっそく! ……すぅぅぅ」

 大きく息を吸い込んだ。
 加減をしながら息を吹き出すと、ごうっと音を立てて口から炎が吹き出される。

「……ふぅぅぅ!(……ドラゴンブレスゥゥ!)」

 まるで火炎放射器である。

 火力に注意して、魚を丸焼きにしていく。
 息を吹き終えると、ほかほかの鮎(?)の丸焼きが出来上がった。
 じゅうじゅうと鳴る音が食欲をそそる。

「うへへ……。いっただっきまーす!」

 大口を開けてかぶりついた。
 パリッと皮がなる。
 この食感が堪らない。
 染み出た脂が口いっぱいに広がって、空腹感も相まってなんとも言えない幸せな気分になる。

「ん~~! 最っ高!」

 これであとはお塩があれば完璧ね。
 こんど村の貯蔵庫から、くすねておこうかしら?



 都合3匹もの鮎(っぽい魚)を食べたわたしは、ルンルン気分で大空を舞い、帰路についていた。

 狩りと食事は手早くすませた。
 コロナが午後の農作業を急かしてくるまで、まだ少しだけ余裕がある。

「ふぅ~。満腹満腹! なんだか眠くなっちゃうなぁ」

 久しぶりに味わう満腹感。
 あくびを嚙み殺しながら、のんびりと空を舞う。
 遠くに村が見えてきた。
 ドラゴンアイで確認するも、わたしのあばら家の周りに人影はない。

「ぃよし。いまのうちに戻るとしますかー」

 家のまえに降り立って、手早く玄関を開けた。
 なかに入るとコロナが待っていた。

「やっと帰ってきた! せっかく話でもと思ったのに。ちょっとあんた! どこに行ってたのよ! もう午後の……作業の……時……間……」
「あ、あはは! ごめんなさい。ちょっと散歩してたのよ!」

 危なかった。
 空を飛んでいるところは、見られなかったわよね?
 内心、冷や汗を拭う。

「い、いやぁ! さ、散歩は気持ちいいわよねぇ!」
「あ、あんた……それ……」
「そうそう。午後の作業の時間だっけ? まだ少し時間があると思ってたわ。ごめんなさい、すぐに用意するわね!」

 誤魔化すように早口で捲したてる。
 彼女がキョトンとした表情で、わたしを指差してきた。

「あんた……それ……。羽……生えてる……」
「……はえ?」

 指摘をされて背中をみる。
 そこには、しまい忘れたドラゴンウィングが生えていた。
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