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ここから始まる僕らの物語

ゴブリン嘗めんなよ~後編

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「えっ──どわぁっ!?」
「うわっ!」「ぎゃあっ!?」「ぐえっ!」

 指揮官コボルトの姿が一瞬で消える。続くコボルト達もどんどんと地面の下に消えていく。コボルトが踏んだことによって空いた3つの2メートル四方の落とし穴の中へと。

 穴はあっというまにコボルト達で埋まり、その上を後続の軍勢が乗り越えようとどんどんと群がる。

「こらっ!私を─ぐえっ!つ、潰すな・・・ギャン!」

 穴から這い出そうと顔を出した指揮官コボルトは、またどんどんと埋め尽くされていく。横に広がっていたコボルトの群れは毛むくじゃらの小山へと変じた。

「ハントさん!いまだっ!」

 僕達は急いで左右に分かれ身体を低く屈める。それを確認したハントさんが引き絞った矢を森の中へ放つ。狙いは木にきつく結ばれた丈夫な縄。

 その縄は木々の枝を利用して作った自然の弓をきつくしならせる弦に繋り、そこには大量の矢──

 縄が切れたことによって緊張を解かれた矢が、一斉にコボルト山に向かって飛んでいく。ちなみにこれは皆に頑張って仕掛けてもらった普通の罠。

「──ぷはっ!お前らっ、早くどけっ・・・!?そ、総員っ盾を構えっ!!」

 折り重なったコボルトを掻き分けようやくまた顔を出した指揮官の眼前に視界を埋め尽くす矢が迫る。その声にコボルト達は慌てて盾を構えるが、全ての矢を防ぐことはできず、次々と山に突き刺さっていく。

「ぎゃあっ!」「いたっ!」「キャインッ!」

 矢を受けたコボルト達がボロボロと崩れ落ちていく。中には辺りどころが悪かったようで、そのまま動かなくなった人もいた。

 ごめんね──あとでちゃんと弔うから

「く、くそっ!お前ら、いつまでそうしているっ!さっさっと奴らを殺せぇっ!!」

 味方の陰に隠れて矢の雨をやり過ごした指揮官が再び号令を飛ばす。山の裏側にいて無事だったコボルト達は傷付き倒れた仲間達に戸惑いながら歩き出す。中には泣いてしまっている人もいた。

 カチリ──

「えっ?!」

 道の右側にいたコボルトの足元で不吉な音が鳴る。

 カチリ──

「ひやっ!?」

 左側でもほぼ同時に条件ifトラップが起動する音が鳴った。

 すると、どこからともなく道を塞ぐように3メートル程の長さの太い丸太2本──丸太の重さは大体80キログラム程。勢いよく飛び出した丸太は、小柄なコボルト達を容赦なく撥ね飛ばす。

「あぎゃっ!」「ぐっ・・・」「キャウーンッ!」

 なんとか動き出したコボルト達もたった2本の丸太でその勇気を打ち払われたようだ。

「──ふっふっふっ。さあて、コボルトさん達。観念してもらおうか。まだまだ丸太も矢もた~くさん用意してあるからねぇ」

 精一杯に愛くるしい僕の顔が悪く見えるよう装って、コボルト達を怖がらせる。思いのほか効果あったみたいで、コボルト達は足を震わせたり腰を抜かしたりと、完全に戦意をなくしたようだ。

(オイ。モウ矢モ丸太モナイゾ?)
(シッ!ハッタリだよ、ハッタリ。こう言っておけばこれ以上の戦う気持ちを削げるでしょ)

 さすがにこんな大掛かりな罠をいくつも用意できるわけがないし、大きすぎて隠せないから罠にもならない。条件ifトラップ様々だね。

 さて、じゃあ逃げ出さないように拘束させてもらいますかね。きっと兵隊はまだまだいるだろうし援軍を呼びにでも行かれたら面倒だ。

 まさか、全員皆殺し──ってわけにもいかないしね。

 縄でまとめて拘束をしていて気づいたけど、ここにいるコボルト達は見るからに若くて戦いの経験の浅い兵隊ばかりみたいだった。戦力的にも僕達は嘗められていたようだね。

「ぼ、僕達をどどど、どうするつもりですかっ?!ここ、この子達はまだ兵士になったば、ばかりなんですっ。ぼ、僕はどうなっても構いませんっ!こここ、この子達はどど、どうかっ、見逃してくださいっ」

 嘗められたことはまぁ仕方ないがどうにも面白くはなくて苦い顔をしていたら、両手を後ろに縛られた白黒茶の3色の毛並みのコボルトが、一回り小さなコボルト達を庇うように僕の前に立っていた。

「お、おいっ、お前何やってんだよ!す、すみませんっ、こいつちょっと変なんで・・・。ほらっ、頭下げろって!」

 濃い茶色の大きな垂れ耳のコボルトが3色コボルトを身体で押し潰すように頭を無理矢理下げる。

「・・・私からもお願いします。後ろの者共は戦いのイロハも知らない若輩者。生命を獲るのはどうか私達だけにして頂きたい・・・」

 今度は、身体は白色なのに顔だけ黒く潰れたような愛嬌のある顔のコボルトが前に出てくる。

「えっ?!い、生命って・・・おおお、俺の生命なんて獲っても旨くもなんともないですからっ!これっホントにっ!」

 濃い茶がブルンブルンと耳を振り回す。

 なんだかこの人達、微笑ましい。

「ぷっ──ははっ!」
「!!!?」

 思わず吹き出してしまう。

「ははっ・・・。だ、大丈夫だよ。これ以上何かをするつもりはないから。大人しくしていてくれたら、後で解放してあげるからさ」
「・・・えっ・・・、ほ、本当に・・・?」
「うん。た・だ・し!何かしようとしたら、この凶暴なホブおじさんが何をするか分からないけどねぇ?」
「ひっひいぃっっ!!」

 ホブおじさんは棍棒を地面に力一杯叩き付け、見るからに凶悪な微笑みを浮かべる。・・・演技──だよね?

 解放してあげるってのは本当だ。違う種族の魔物ではあるけれど、この森で一緒に暮らす同志ではある。僕達の目的は減ってしまった仲間を増やして、人間の襲撃に備えること。魔物同士で争うつもりは少なくとも僕にはない。

「ギャアッ!」「1人逃ゲタゾッ!」

 そんなやりとりをしていると、奥の方から悲鳴と怒号が響いた。どうやら誰か逃げ出したみたいだ。

 よろめきながら黒茶の指揮官らしかったコボルトが走っていく。あれだけ潰されてたのにしぶといなぁ。

「ミドリ共っ、覚悟しろ!我等が精鋭を引き連れてきて皆殺しにしてくれるっ!首を洗って待っておけぇっ!」

 転びそうにヨタヨタと走りながら捨て台詞。でも、残念だけどそうはさせないよ──

「トラップさん。もうの仕掛けは?」
「アア。仕掛ケテアル。・・・向コウモ配置ニ着イテイルミタイダゾ」

 視線の先──

 そこはさっきまでコボルト達が群れをなしていた平原。コボルト達を罠に嵌めている間に回り込んでいた白いローブのヒーラー様と、その横に黒いローブの

 そのゴブリンが一歩前の地面を踏むと──カチリと音が響いた。

「ぶわっ?!」

 黒茶の真上から逃げ道をふさぐように、皆に集めてもらっていた大量のが降ってくる。その重量は80キログラム。

 これはコボルト達を逃がさないために仕掛けた最後の罠。

「な、なんだこれはっ?!こんなものでどうしようと──」
「それはね・・・、こうするんだよ?」

 黒いローブのゴブリンが持つ杖の先が怪しく赤色に輝く。これが僕がちょっと遅れた理由──

ΔΘΣフレイム

 その言葉と共に杖から吹き出した真っ赤な炎は、よく乾いた枯れ葉や枝木に燃え移るとあっという間に燃え広がる。

「あ、熱っ・・・ギ、ギャアアアァァッッ──

 そして、黒茶のコボルトは炎に包まれた。

「ふんっ。何が精鋭だよ。ゴブリン──
                                                      嘗めんなよっ!」
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