上 下
8 / 16
ここから始まる僕らの物語

ここではないどこか

しおりを挟む
「──なるほどなぁ。こういった感じのか・・・」

 今が昼間なのか深夜なのかも分からない閉めきられた暗い部屋のなか、薄っぺらい板に齧りつくようにそこから漏れ出る光に照らされた1人の男が居る。
 外から僅かに聴こえてくる小鳥の囀りで夜ではないことだけはなんとなく感じる程度だ。

 男は誰に語りかけてるわけでもなく、ただ1人薄っぺらい板のなかの世界に全ての意識を向けている。それ以外のことなどどうでもよいと思っていることは、部屋の惨状を見れば明らかだ。

「──まさか、ゴブリンサイドがこんなにハードスタートだとは思わなかったけど、説明書が無くてもをちゃんと理解すればどうにかなるな・・・」

 何事かをぶつぶつと口内で呟きながら卓上の半球体を指でカチカチ鳴らし、たくさんの凹凸が着いた板をリズミカルに叩く。それは薄っぺらい板に連動しているようで、なかに見える景色が移動し文字や記号のようなものが現れる。

「──初期ユニットが10体のみだったのにはさすがに驚いたし、ユニット作成も2体しかできないとか正直終わった──と思ったけど、AIがお奨めしてくれた『トラッパー』と『メイジ』はかなり役に立ったな。ゴリ押し勝負で『ホブゴブリン』2体にしなくてホント良かったわ」

 男が半球体を操作すると板の表面に緑色をした人型の生き物が現れる。

 name:ゴブリントラッパー
 Lv:3   LP:5   SP:6
 atk:2   def:2   int:2   spd:4
 Skill:落とし穴作成
         ワイヤートラップ作成
         条件ifトラップ Lv:1

 name:ゴブリンメイジ
 Lv:3   LP:4   SP:8
 atk:ー   def:1   int:4   spd:1
 Skill:フレイム Lv:1
         スリープ Lv:1

「──ユニット作成の時に"LEライフエネルギー"てのを多めに消費すると、できあがるユニットのレベルが上がるであってたみたいだな。・・・お?既存のユニットのレベルアップやスキルのレベルアップにも使えるみたいだな。コボルトを倒したらLEも増えたみたいだし、何かと使えそうな『ゴブリンヒーラー』のレベルも上げておこう。あとは──」

 男は休むことなく次から次へと半球体と凹凸の板を操作し続ける。

 いつのまにか、相変わらず昼間なのか深夜なのかも分からない部屋に漏れ聴こえていた小鳥の囀りも、静まり返っていた──
しおりを挟む

処理中です...