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再び手にした決意
魔法への憧れと盾への自責3
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15歳となったその日──
俺は、王都にある大神殿へと来ていた。
加護の儀式を受けるため──
必要な手続き等は昨日のうちにギリアムがしてくれた。
彼曰く、「フェンスも明日で15。立派な大人の仲間入りだ。先輩成人としての最後の面倒だな」との、ことらしい。
彼には、本当に感謝の言葉しかない。
身寄りと友を亡くし、半ば自暴自棄になりかけてた俺の無茶を聞いてパーティに入れてくれた。どうやっても魔法が使えずただの子供だった俺に、身体ひとつでも戦えるよう身体を鍛え、剣と盾の扱い方も教えてくれた。
今では身長も伸び身体つきも頑強になり、ギリアムにはまだまだ及ばないが、盾騎士としての戦いかたもそれなりに身に付けた。
ヨルニール先生は──
病にかかり冒険者ギルドが運営する療養所にいる。ある依頼の最中に、小さな村を襲っていた悪魔の群れを撃退した際に、何かしらの呪いをかけられてしまったようだった。
呪いは、魔力に深く影響を及ぼす種別の様で、魔法を使った際に普段の倍以上の魔力を消費してしまうらしい。それに加え本来魔力は基本的に一晩寝て休めば大体最大量まで回復するらしいのだが、日々少しずつ魔力の総量が減って来ているらしい。
その呪いの治療と魔法を使わなくて済むように、ギリアムが半ば強引に入所させてしまった。ギルドが運営しているだけもあってか、冒険者はこれまでの貢献度に応じて待遇や費用が変わるらしく、二人の凄さは十分に理解していたが、改めて凄さを実感するほどの厚待遇だった。
ヨルニール先生も最初はかなりごねていたが、世話をしてくれるギルド職員の女性達がなかなかの粒揃いらしく、今では日々楽しそうに過ごしている。
呪いを解く方法を、王都の図書館に通ったり、大神殿の僧侶に相談したり、過去に似たような症例がなかったかを治癒士に聞いて回ったりしている、ギリアムの苦労をわかっているのだろうか?
いや、そこはあの二人の事だ。言葉や態度に出さなくても、きっとお互いにわかっていたのであろう。
コンコンコンっ
と、しばらく待つように言われた部屋で窓の外を眺めていると、軽快にそれでいて丁寧なノックの音が響いた。
「お待たせ致しました。ええと・・・フェンスさんで宜しかったですかな?」
入ってきたのは、糸のように目を細めた優しい笑顔を浮かべた白髭の老人と若い女性。
「はい、俺──私がフェンスです。」
「普段通りで構いませんよ。儂は、加護の儀式の立合いをさせて頂く司祭のケルナーと申します。こちらは──」
と、ケルナー司祭は後ろに控える女性に目をやる。
「宜しくお願い致します。僧侶のマリアと申します」
二人揃えて丁寧に頭を下げる。
俺も慌てて姿勢を正し、頭を下げる。
「こ、こちらこそ!よ、宜しくお願いします!」
「こちらのマリアは僧侶に成り立てでしてな。加護の儀式に立ち合うのも今日が初めてでして。フェンスさんを練習台にするようにして申し訳ありませんが、何卒宜しくお願い致します」
再度、二人共に頭を下げる。
「い、いえっ!俺も似たようなものですからっ」
「そうですかな?既にもう、一端の戦士の様ではありますが」
「師匠達が素晴らしいんです」
「ほっほっ。それは良いことですな」
ケルナー司祭はカラカラとひとしきり笑った後、
「さて、では早速ではありますが儀式場へと向かいましょう」
と、微笑んだ。
儀式場は中央の祭壇と比べるとかなり簡素な作りであった。中央に神像がひとつ置かれ、その前にひとつの水晶が置かれているだけ。
聞くと、ここは農民からお城の一般騎士くらいまでが使う部屋らしく、王公貴族用には別に本祭壇と変わらぬほどのきらびやかな部屋があるらしい。
俺は、ケルナー司祭に促され、中央に置かれた水晶にそっと右手を乗せる。
「では、これよりマリアが祝詞を唱えます。始まりましたら、目を閉じ、なりたい職業ではなく自分がどうありたいか、信念は何かを強く念じてくだされ。それをお聞きになられた神の一柱が加護を与えて下さる。」
俺は──
使えない今でも、魔法への憧れがある
まだ何も出来なかった子供だった頃に見た、拙いながらも友の手に輝いた魔法の光
唄うように奏でるように煌めくヨルニール先生の魔法
それまで知らなかった知識と世界に触れた、興奮と喜び
確実に成長していく友を眺める複雑な想い
圧倒的な恐怖に立ち向かい、勇敢に戦ったであろう友の背中
そして、周囲から期待されていながらも、叶えることの出来なかった友の夢、願い──
与えられる神の加護は12柱
剣の神 槍の神 弓の神 拳闘の神 槌の神 盾の神
聖杖の神 火の神 水の神 風の神 地の神
そして、通常人間では加護を得られない、無の神
出来れば、魔法との繋がりが深い神の加護を得たいとは思う。しかし、魔力の無い俺がその加護を得て何が出来る?何も出来ないのではという怖さもある。
いや、魔法への憧れはあるが大事なのはその力で何をしたいのかだ。
俺が望むもの──
弱かった俺では出来なかったこと
弱かった俺では追い付けなかった背中
弱かった俺が求めたもの──力
力があれば出来たこと…、大切なものを守ること…。
守る力があれば救えたかもしれない、家族、友の命、その夢
俺が望むもの──力 守る力 家族を 友を 命を 夢を
大切なものを守る力!
意識の外から、僧侶マリアだろう唄うような祈りが聴こえる。
その更に奥の方から、上手く聞き取れないが、声のようで、壮大な音楽のようで、大自然の囁きのようなものが聴こえてくる。
急に、瞼を閉じていても眼球を貫くような眩しい光が迸る。ゆっくりと光が消えていく。
後ろからケルナー司祭の声が聞こえる。
「おめでとうございます。
あなたは、盾の神の加護を授かりましたな。」
俺は、盾の神の加護を受けた──
ゆっくりと目を開いた俺は、そのときどんな表情をしていたのだろうか。
隣に居た僧侶マリアの顔が、心配するような、申し訳ないような、何とも居たたまれない表情をしていた。
「あ、あの・・・申し訳ありません。フェンスさんが望まれたものではなかったでしょうか・・・」
どの神の加護を授かるかは誰にもわからない。僧侶や司祭がそれを導くことも出来ない。あくまでも、本人の願い想い希望が標になるから。
「そんなことはないですよ。俺は、誰かを、大切なものを守るために力を得た。盾の神の加護は、俺に打ってつけの加護でしょう?」
俺は、努めて明るく振る舞った。
魔法と繋がりの深い系統の神の加護ではなかったため、本心は残念でもあり、嬉しくもあり、何とも複雑な気分だった。
俺は、二人に丁重にお礼を述べ大神殿を後にした。
僧侶マリアは最後まで居たたまれない表情をしていた。
俺は、王都にある大神殿へと来ていた。
加護の儀式を受けるため──
必要な手続き等は昨日のうちにギリアムがしてくれた。
彼曰く、「フェンスも明日で15。立派な大人の仲間入りだ。先輩成人としての最後の面倒だな」との、ことらしい。
彼には、本当に感謝の言葉しかない。
身寄りと友を亡くし、半ば自暴自棄になりかけてた俺の無茶を聞いてパーティに入れてくれた。どうやっても魔法が使えずただの子供だった俺に、身体ひとつでも戦えるよう身体を鍛え、剣と盾の扱い方も教えてくれた。
今では身長も伸び身体つきも頑強になり、ギリアムにはまだまだ及ばないが、盾騎士としての戦いかたもそれなりに身に付けた。
ヨルニール先生は──
病にかかり冒険者ギルドが運営する療養所にいる。ある依頼の最中に、小さな村を襲っていた悪魔の群れを撃退した際に、何かしらの呪いをかけられてしまったようだった。
呪いは、魔力に深く影響を及ぼす種別の様で、魔法を使った際に普段の倍以上の魔力を消費してしまうらしい。それに加え本来魔力は基本的に一晩寝て休めば大体最大量まで回復するらしいのだが、日々少しずつ魔力の総量が減って来ているらしい。
その呪いの治療と魔法を使わなくて済むように、ギリアムが半ば強引に入所させてしまった。ギルドが運営しているだけもあってか、冒険者はこれまでの貢献度に応じて待遇や費用が変わるらしく、二人の凄さは十分に理解していたが、改めて凄さを実感するほどの厚待遇だった。
ヨルニール先生も最初はかなりごねていたが、世話をしてくれるギルド職員の女性達がなかなかの粒揃いらしく、今では日々楽しそうに過ごしている。
呪いを解く方法を、王都の図書館に通ったり、大神殿の僧侶に相談したり、過去に似たような症例がなかったかを治癒士に聞いて回ったりしている、ギリアムの苦労をわかっているのだろうか?
いや、そこはあの二人の事だ。言葉や態度に出さなくても、きっとお互いにわかっていたのであろう。
コンコンコンっ
と、しばらく待つように言われた部屋で窓の外を眺めていると、軽快にそれでいて丁寧なノックの音が響いた。
「お待たせ致しました。ええと・・・フェンスさんで宜しかったですかな?」
入ってきたのは、糸のように目を細めた優しい笑顔を浮かべた白髭の老人と若い女性。
「はい、俺──私がフェンスです。」
「普段通りで構いませんよ。儂は、加護の儀式の立合いをさせて頂く司祭のケルナーと申します。こちらは──」
と、ケルナー司祭は後ろに控える女性に目をやる。
「宜しくお願い致します。僧侶のマリアと申します」
二人揃えて丁寧に頭を下げる。
俺も慌てて姿勢を正し、頭を下げる。
「こ、こちらこそ!よ、宜しくお願いします!」
「こちらのマリアは僧侶に成り立てでしてな。加護の儀式に立ち合うのも今日が初めてでして。フェンスさんを練習台にするようにして申し訳ありませんが、何卒宜しくお願い致します」
再度、二人共に頭を下げる。
「い、いえっ!俺も似たようなものですからっ」
「そうですかな?既にもう、一端の戦士の様ではありますが」
「師匠達が素晴らしいんです」
「ほっほっ。それは良いことですな」
ケルナー司祭はカラカラとひとしきり笑った後、
「さて、では早速ではありますが儀式場へと向かいましょう」
と、微笑んだ。
儀式場は中央の祭壇と比べるとかなり簡素な作りであった。中央に神像がひとつ置かれ、その前にひとつの水晶が置かれているだけ。
聞くと、ここは農民からお城の一般騎士くらいまでが使う部屋らしく、王公貴族用には別に本祭壇と変わらぬほどのきらびやかな部屋があるらしい。
俺は、ケルナー司祭に促され、中央に置かれた水晶にそっと右手を乗せる。
「では、これよりマリアが祝詞を唱えます。始まりましたら、目を閉じ、なりたい職業ではなく自分がどうありたいか、信念は何かを強く念じてくだされ。それをお聞きになられた神の一柱が加護を与えて下さる。」
俺は──
使えない今でも、魔法への憧れがある
まだ何も出来なかった子供だった頃に見た、拙いながらも友の手に輝いた魔法の光
唄うように奏でるように煌めくヨルニール先生の魔法
それまで知らなかった知識と世界に触れた、興奮と喜び
確実に成長していく友を眺める複雑な想い
圧倒的な恐怖に立ち向かい、勇敢に戦ったであろう友の背中
そして、周囲から期待されていながらも、叶えることの出来なかった友の夢、願い──
与えられる神の加護は12柱
剣の神 槍の神 弓の神 拳闘の神 槌の神 盾の神
聖杖の神 火の神 水の神 風の神 地の神
そして、通常人間では加護を得られない、無の神
出来れば、魔法との繋がりが深い神の加護を得たいとは思う。しかし、魔力の無い俺がその加護を得て何が出来る?何も出来ないのではという怖さもある。
いや、魔法への憧れはあるが大事なのはその力で何をしたいのかだ。
俺が望むもの──
弱かった俺では出来なかったこと
弱かった俺では追い付けなかった背中
弱かった俺が求めたもの──力
力があれば出来たこと…、大切なものを守ること…。
守る力があれば救えたかもしれない、家族、友の命、その夢
俺が望むもの──力 守る力 家族を 友を 命を 夢を
大切なものを守る力!
意識の外から、僧侶マリアだろう唄うような祈りが聴こえる。
その更に奥の方から、上手く聞き取れないが、声のようで、壮大な音楽のようで、大自然の囁きのようなものが聴こえてくる。
急に、瞼を閉じていても眼球を貫くような眩しい光が迸る。ゆっくりと光が消えていく。
後ろからケルナー司祭の声が聞こえる。
「おめでとうございます。
あなたは、盾の神の加護を授かりましたな。」
俺は、盾の神の加護を受けた──
ゆっくりと目を開いた俺は、そのときどんな表情をしていたのだろうか。
隣に居た僧侶マリアの顔が、心配するような、申し訳ないような、何とも居たたまれない表情をしていた。
「あ、あの・・・申し訳ありません。フェンスさんが望まれたものではなかったでしょうか・・・」
どの神の加護を授かるかは誰にもわからない。僧侶や司祭がそれを導くことも出来ない。あくまでも、本人の願い想い希望が標になるから。
「そんなことはないですよ。俺は、誰かを、大切なものを守るために力を得た。盾の神の加護は、俺に打ってつけの加護でしょう?」
俺は、努めて明るく振る舞った。
魔法と繋がりの深い系統の神の加護ではなかったため、本心は残念でもあり、嬉しくもあり、何とも複雑な気分だった。
俺は、二人に丁重にお礼を述べ大神殿を後にした。
僧侶マリアは最後まで居たたまれない表情をしていた。
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