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再び手にした決意
未知の神とその加護2
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療養所に向かう道すがら通りに出ていた露店で、酒のつまみになりそうな貝の煮付けや揚げた小魚の酢漬けを買い、馴染みの酒屋で芋の蒸溜酒を買う。
本当は療養所なので酒類はダメなのだが、手ぶらで行くとあの人はいじけるからなぁ。
療養所の入口を入ったところで、入所当時からいる治癒士の女性と出くわす。あの頃は、美人な歳上の女性ということもあって会うたびにいつもドキドキしていたもんだが、今はすっかりおばあさんだ。
お互いに歳を取ったもんだ。
その治癒士メラリアさんは挨拶をしようとしたところで、儂が手に持つ袋の中の酒瓶を目敏く見つけチラッと視線を送る。
「こんにちは。フェンス。今週は随分と早めに来たのね?あまり間隔を短くすると、あの人は余計に欲しがって身体に良くないから、控えめにしてね」
「は、はは・・・こんにちは、メラリアさん。相変わらず鋭い観察眼ですね。まだまだお若くいらっしゃる」
「あら?そんな見え透いたお世辞はいらないわよ?
年相応に充実しているのが一番なのよ」
そう言ってメラリアさんはクスッと小さく微笑む。
お世辞ではなくその仕草は綺麗なあの頃のままだ。
「先生は部屋にいますか?」
「ええ。先程まで庭に出てましたけど、今は部屋にいるはずだわ」
「ありがとうございます。余り飲ませないようにしますので」
メラリアさんと別れ、目的の部屋に向かう。
こうやってここを訪れるようになってもう何年たつだろう。
儂が加護の儀式を受ける少し前だったはずだから、もう37年くらいか。
部屋は換気のためかドアは開いたままになっており、部屋の中から心地好い風が吹いてくる。
部屋の中を覗きながら開いたドアをコンコンとノックする。
「こんにちは先生。お邪魔しますよ」
返事を待たずに中に入る。
目当ての人物は窓際に置かれた椅子に座り外を眺めていた。クルッと首だけを回しこちらを見る。
「やぁ、フェンス。今週は随分と早いんだね?」
「メラリアさんにも同じことを言われましたよ。ヨルニール先生」
ここに来た理由、それはこの人に会うため。
儂の魔法の師匠ヨルニール先生に。
ヨルニール先生は、魔力を蝕む病に侵されてから療養所生活をしている。
最初はクラーゼル王国南方都市の療養所だったが、儂がこちらに住むようになったのと、薬の関係もありこちらに移っている。
魔力の過剰消費、徐々に魔力総量が減ってしまう病で、もう37年にもなるが治療法は見つかっていない。
生物は魔力が空になってしまうと、意識を保てなくなり、生命活動にも影響が出てしまうらしい。今は、ヨルニール先生の相棒であり、儂の盾の師匠でもあるギリアムが、身を削り探しだした古代民族の秘薬を用いなんとかギリギリの魔力量を保っている。
ギリアムはその薬の材料探しと完治を目指して、普段はずっとどこかを駆け回っている。
「ヨルニール先生。いつものこれ、持ってきましたよ」
手に下げた袋から芋の蒸留酒が入った酒瓶を、先生の座った椅子の横に置かれたテーブルに、グラスと一緒に乗せる。
「お!流石、フェンス♪いつも気が利くね」
先生はピュウっと口笛を吹く。
「メラリアさんにはいつも苦情を言われてますけどね」
「ははっ!それは災難だね。まぁ、フェンスも座って!一緒に飲もうよ」
苦情を言われてるのはあなたのせいだってのに、この人は。
「もちろん、頂きますよ」
なみなみと注がれたグラスを合わせる。
袋からつまみもテーブルに広げる。
しばらく、それらを愉しみながら何気ない会話をかわす。
「それで?今日は何の用事なんだい?」
唐突にヨルニール先生が尋ねてくる。用事があるとは言っていなかったが、流石に気付かれるか。
「ええ。実は今日、孫娘のユリアの加護の儀式だったんですが・・・」
「ほぉ!ユリアちゃん、もうそんな歳になったか!
最近は来てくれないからね。嫌われてるのかな?」
実際ユリアは、もう70歳になるというのに軽い感じの態度や話し方をするヨルニール先生が苦手らしい。絶対に本人には言えないが。
「はは。そんなことは・・・」
「で?どうだったんだい?予想外の結果だったのかい?」
「ええ。予想外と言いますか、何と言うか・・・」
「??」
儂は、加護の儀式で起こったことと、先程ミリアーナと話した内容を、ヨルニール先生に伝える。
「・・・・・・」
先生はしばらく、顎に手を当て窓の外をじっと見つめていた。
「付与の神の加護ね。それは確かに予想外過ぎるね」
ヨルニール先生はいつもと変わらない、愉しげな声を上げる。
「先生はご存知だったり」
「いや?まったく」
両手を広げ、ゆっくりと首を横に振るう。
「やはり、先生でも知らないですよね・・・」
「そうだね。僕は知らないかな?」
ん?今何と──
「僕は知らないと言うのは。どなたか知ってる人をご存知だと?」
まさか。そんな人がいるのか?
「知ってるかどうかは分からないけど、昔、フェンスと出会う前に知り合った魔族の友人がいてね。彼女は今はもう三百歳を越えていると思うんだけど、その彼女の故郷に12柱の神々以外にも神がいたという伝承が残っているって話を聞いたことがあるんだ」
まさか、本当にそんなことが。
「その彼女に聞けば何かしらは知ってると思うんだけど」
「その方は今どちらに?」
「クラーゼル王国領だね。変わってなければだけど」
クラーゼル王国領か。
気軽に行ける距離でもないし、どうしたものか。
まぁ、加護が何であれ日常生活に影響はないだろうから機会があればで良いのかもしれないが。
「そうですか。ありがとうございます。助かりました」
立ち上り、軽く頭を下げる。
「いやいや、僕は何もしてないよ。正確な居場所が分かるわけでもないし。もしかしたら、ギリアムなら知ってるかも知れないけど」
「ギリアムは、次いつ頃戻りそうですか?」
「ん~、どうだろうね?前回来たときに次はいつもより遠出するからと、薬の材料を多めに置いていったくらいだから。まだ、しばらくはかかるかもね」
「そうですか・・・」
ヨルニール先生は、グラス半分ほどの酒を一気に飲みほすと、窓の外に遠い目を向ける。
「・・・あいつには、本当に頭が上がらないよ」
ヨルニール先生とギリアムの間には、どれだけ深い絆があるのだろうか。
儂と出会う前の二人のことは分からない。聞こうと思ったこともあったが、子供ながらに無粋な気がして聞くことは出来なかった。
冒険者には、触れてはいけない過去のひとつやふたつはあるものだ。
「僕ももう、こんな歳だ。ギリアムが戻ったら、もう終わりにするよう伝えるつもりなんだよね・・・」
「・・・先生」
儂は両方の気持ちを知っているし、理解も出来る。先生の決めたことに何かを言える気はしない。ギリアムも先生と同じ歳だということを考えると、むしろ先生よりの考えかもしれない。
しばらく沈黙が流れたあと、儂はグラスに残っていた酒を一気に飲みほした。
「では、ヨルニール先生。今日はこのあたりで帰ります」
「ん?ああ。今日も差し入れありがとう。
メラリアさんに没収されないように気を付けるよ」
一度飲みほしたが、再度なみなみと酒を注いだグラスを掲げ、いたずらげに笑う。
「ははっ。それは強敵ですね。健闘を祈ります」
少ししんみりした雰囲気を笑い飛ばす。
「では、先生。ありがとうございました」
「ああ、また来週待ってるよ。それまでにギリアムが戻るようなら使いを出すから」
「はい。ありがとうございます。来週はエール酒でも持ってきますよ」
頭を下げて部屋を出る。
開いたままのドアはそのままにしておいた──
本当は療養所なので酒類はダメなのだが、手ぶらで行くとあの人はいじけるからなぁ。
療養所の入口を入ったところで、入所当時からいる治癒士の女性と出くわす。あの頃は、美人な歳上の女性ということもあって会うたびにいつもドキドキしていたもんだが、今はすっかりおばあさんだ。
お互いに歳を取ったもんだ。
その治癒士メラリアさんは挨拶をしようとしたところで、儂が手に持つ袋の中の酒瓶を目敏く見つけチラッと視線を送る。
「こんにちは。フェンス。今週は随分と早めに来たのね?あまり間隔を短くすると、あの人は余計に欲しがって身体に良くないから、控えめにしてね」
「は、はは・・・こんにちは、メラリアさん。相変わらず鋭い観察眼ですね。まだまだお若くいらっしゃる」
「あら?そんな見え透いたお世辞はいらないわよ?
年相応に充実しているのが一番なのよ」
そう言ってメラリアさんはクスッと小さく微笑む。
お世辞ではなくその仕草は綺麗なあの頃のままだ。
「先生は部屋にいますか?」
「ええ。先程まで庭に出てましたけど、今は部屋にいるはずだわ」
「ありがとうございます。余り飲ませないようにしますので」
メラリアさんと別れ、目的の部屋に向かう。
こうやってここを訪れるようになってもう何年たつだろう。
儂が加護の儀式を受ける少し前だったはずだから、もう37年くらいか。
部屋は換気のためかドアは開いたままになっており、部屋の中から心地好い風が吹いてくる。
部屋の中を覗きながら開いたドアをコンコンとノックする。
「こんにちは先生。お邪魔しますよ」
返事を待たずに中に入る。
目当ての人物は窓際に置かれた椅子に座り外を眺めていた。クルッと首だけを回しこちらを見る。
「やぁ、フェンス。今週は随分と早いんだね?」
「メラリアさんにも同じことを言われましたよ。ヨルニール先生」
ここに来た理由、それはこの人に会うため。
儂の魔法の師匠ヨルニール先生に。
ヨルニール先生は、魔力を蝕む病に侵されてから療養所生活をしている。
最初はクラーゼル王国南方都市の療養所だったが、儂がこちらに住むようになったのと、薬の関係もありこちらに移っている。
魔力の過剰消費、徐々に魔力総量が減ってしまう病で、もう37年にもなるが治療法は見つかっていない。
生物は魔力が空になってしまうと、意識を保てなくなり、生命活動にも影響が出てしまうらしい。今は、ヨルニール先生の相棒であり、儂の盾の師匠でもあるギリアムが、身を削り探しだした古代民族の秘薬を用いなんとかギリギリの魔力量を保っている。
ギリアムはその薬の材料探しと完治を目指して、普段はずっとどこかを駆け回っている。
「ヨルニール先生。いつものこれ、持ってきましたよ」
手に下げた袋から芋の蒸留酒が入った酒瓶を、先生の座った椅子の横に置かれたテーブルに、グラスと一緒に乗せる。
「お!流石、フェンス♪いつも気が利くね」
先生はピュウっと口笛を吹く。
「メラリアさんにはいつも苦情を言われてますけどね」
「ははっ!それは災難だね。まぁ、フェンスも座って!一緒に飲もうよ」
苦情を言われてるのはあなたのせいだってのに、この人は。
「もちろん、頂きますよ」
なみなみと注がれたグラスを合わせる。
袋からつまみもテーブルに広げる。
しばらく、それらを愉しみながら何気ない会話をかわす。
「それで?今日は何の用事なんだい?」
唐突にヨルニール先生が尋ねてくる。用事があるとは言っていなかったが、流石に気付かれるか。
「ええ。実は今日、孫娘のユリアの加護の儀式だったんですが・・・」
「ほぉ!ユリアちゃん、もうそんな歳になったか!
最近は来てくれないからね。嫌われてるのかな?」
実際ユリアは、もう70歳になるというのに軽い感じの態度や話し方をするヨルニール先生が苦手らしい。絶対に本人には言えないが。
「はは。そんなことは・・・」
「で?どうだったんだい?予想外の結果だったのかい?」
「ええ。予想外と言いますか、何と言うか・・・」
「??」
儂は、加護の儀式で起こったことと、先程ミリアーナと話した内容を、ヨルニール先生に伝える。
「・・・・・・」
先生はしばらく、顎に手を当て窓の外をじっと見つめていた。
「付与の神の加護ね。それは確かに予想外過ぎるね」
ヨルニール先生はいつもと変わらない、愉しげな声を上げる。
「先生はご存知だったり」
「いや?まったく」
両手を広げ、ゆっくりと首を横に振るう。
「やはり、先生でも知らないですよね・・・」
「そうだね。僕は知らないかな?」
ん?今何と──
「僕は知らないと言うのは。どなたか知ってる人をご存知だと?」
まさか。そんな人がいるのか?
「知ってるかどうかは分からないけど、昔、フェンスと出会う前に知り合った魔族の友人がいてね。彼女は今はもう三百歳を越えていると思うんだけど、その彼女の故郷に12柱の神々以外にも神がいたという伝承が残っているって話を聞いたことがあるんだ」
まさか、本当にそんなことが。
「その彼女に聞けば何かしらは知ってると思うんだけど」
「その方は今どちらに?」
「クラーゼル王国領だね。変わってなければだけど」
クラーゼル王国領か。
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まぁ、加護が何であれ日常生活に影響はないだろうから機会があればで良いのかもしれないが。
「そうですか。ありがとうございます。助かりました」
立ち上り、軽く頭を下げる。
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「ギリアムは、次いつ頃戻りそうですか?」
「ん~、どうだろうね?前回来たときに次はいつもより遠出するからと、薬の材料を多めに置いていったくらいだから。まだ、しばらくはかかるかもね」
「そうですか・・・」
ヨルニール先生は、グラス半分ほどの酒を一気に飲みほすと、窓の外に遠い目を向ける。
「・・・あいつには、本当に頭が上がらないよ」
ヨルニール先生とギリアムの間には、どれだけ深い絆があるのだろうか。
儂と出会う前の二人のことは分からない。聞こうと思ったこともあったが、子供ながらに無粋な気がして聞くことは出来なかった。
冒険者には、触れてはいけない過去のひとつやふたつはあるものだ。
「僕ももう、こんな歳だ。ギリアムが戻ったら、もう終わりにするよう伝えるつもりなんだよね・・・」
「・・・先生」
儂は両方の気持ちを知っているし、理解も出来る。先生の決めたことに何かを言える気はしない。ギリアムも先生と同じ歳だということを考えると、むしろ先生よりの考えかもしれない。
しばらく沈黙が流れたあと、儂はグラスに残っていた酒を一気に飲みほした。
「では、ヨルニール先生。今日はこのあたりで帰ります」
「ん?ああ。今日も差し入れありがとう。
メラリアさんに没収されないように気を付けるよ」
一度飲みほしたが、再度なみなみと酒を注いだグラスを掲げ、いたずらげに笑う。
「ははっ。それは強敵ですね。健闘を祈ります」
少ししんみりした雰囲気を笑い飛ばす。
「では、先生。ありがとうございました」
「ああ、また来週待ってるよ。それまでにギリアムが戻るようなら使いを出すから」
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