盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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再び手にした決意

ユリアが欲しいもの

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 少し寄り道しながら屋敷へと帰ると、入口に見慣れた人影が見える。

「ようやく帰ってきたね、父さん。もう準備出来てるよ」

  神殿騎士をしている、我が息子アルディだ。

「お前こそ早いじゃないか。仕事が終わってから来るって話だったろう?」
「・・・父さん、何言ってるんだい?もうとっくに夕刻だよ?」

  アルディが少し呆れたように俯く。
  50になった一昨年くらいから、急に年寄り扱いするようになった。まぁ、否定はしないが。

  儂は今の貴族という立場を自分の代で終わらそうと思っている。
  この環境を与えてくれたフリオニールには悪いと思うが、領地持ちでない法衣男爵であったのは幸いだった。貴族などガラではないし貴族間のギスギスしたしがらみも嫌いだし、何より面倒臭い。

  仕事として任せられている王都守護隊の総隊長の職務は、真面目に取り組んでいるつもりだが、それ以外の時間はヒルダの授業を受けたり、療養所に顔を出したり、冒険者ギルドの長をからかいに行ったり、警邏と称して適当に街をふらついて街人と話をしたりと。

  ん?身体の鍛練は毎朝やっているぞ?

  とまぁ、仕事以外は引退した老人の様なことをしているので、あながち間違いでもない。

  家族もとくに反対はせず、儂の考えを尊重してくれている。
  アルディに関しては、既に自分のいるべき道を見出だしているようなので心配はしていないが、親として子に道を譲れなかった分、出来ることは何でもするつもりだ。

  儂が若い頃に、魔王討伐などという大それたことをしたこともあってか、アルディは早くに儂を引退させてゆっくりと余暇を過ごさせたいそうだ。
  直接本人に言われたわけではないが、まえにユリアがポロっと洩らしていた。

  しかし、大分日が長くなったようだ。
  まだまだ夕刻には余裕があると思っていたが、時間を読み違えるとは。

  新しく魔法ギルドが開発した、時間の分かる小型の魔道具でも買った方が良いかな?

「ん?そうか・・・日が長くなったからか、時間を読み違えたようだな」
「大丈夫かい、父さん?無理せずそろそろゆっくりしたほうがいいんじゃないかい?」

  儂としても歳を取ったのは否定出来ないし、息子の発言の本心は分かっているのだが、あまりに年寄り扱いされると少し腹立たしい。

「ふんっ!まだまだ衰えてはおらん。
  今でも魔人のひとりやふたりくらい倒せるわ!」

  そう言って横を通り過ぎ、屋敷の入口に向かう。

「準備出来ているんだろう?中に入って早く始めようじゃないか」
「まったく、父さんは。こっちの気持ちも察してくれよ」

  ぶつぶつ言いながら、アルディも儂の後に続いた。


  何の準備かというと、孫娘ユリアの成人祝いの食事会を家族揃って行うのだ。と言っても、流石に遠方の領地にいる、ユリアの母コーネリアの両親などが来れるわけでもないし、もとより貴族を続ける気のなかった儂は、アルディ一人しか子供を作っていない。

  我が家の二人のメイドも参加して、今いる6人と一匹だけの会だ。

「母さんはやっぱり帰って来れなかったんだね・・・」

  乾杯用のグラスをメイドの一人が準備している間に、儂の横に居たアルディが尋ねてくる。

「そうだな。あいつは聖杖教会の重鎮の一人だからなぁ。隣のマルセーヌであった魔人騒ぎの調査がまだまだ忙しいらしい。
  その辺りは教会勤めのお前のほうが詳しいんじゃないか?」

「シャルマート教会神殿騎士団のたかが副団長に、そんな情報は流れてこないよ。父さんのほうがよっぽど事情通だよ。」
「そうか」

  話している間にグラスの準備が終わり、後は主役の登場を待つ。

  すぐに扉が開き、コーネリアともう一人のメイドが部屋に入ってくる。

「お待たせ致しました。主役の登場です」

  開いた両開きの扉の向こう、ドレスアップしたユリアが可憐な貴族令嬢然として、スカートの端を両手で摘まみ優雅に礼をする。

「み、皆様。本日はわたくしの成人のお祝いの会にお集まり頂き、誠にありがとうございます」

  これが、コーネリアの教育の成果か?
  一応、様にはなっていると思うが、普段とのギャップが凄すぎてこみ上げるものがある。

「・・・ぷっ!」

  堪えきれず少しだけ吹いてしまった。

  女性陣、メイドも含めた4人に睨まれる。

  アルディは娘の晴れ姿に目を輝かせている。

「~~っ!お・じ・い・さ・ま?何か?」

  しまったな。


  乾杯を済ませた後は、それぞれからお祝いの品の贈呈。

  アルディは白銀の短剣を。コーネリアは成人として様々な場面で必要になるであろう、ドレス何着かを。メイドの二人は花束を。
 
  愛犬ハリルの前に置かれた骨は、祝いの品なのだろうか。

  儂は特別に用意はしていないが、そこはもうユリアと話して決めている。

「さて、お姫様。この爺めは何を差し上げれば宜しいのでしょうか?」
「・・・おじいさま?先程のことは、後でゆっくり聞かせてもらいますわね?」

  どうにか忘れてくれないものか。

「おじいちゃ、おじいさまに頂きたいもの。それは──」

  何をせがまれるのだろうか?あまり日頃何かが欲しいとは言わない娘だ。さっぱり検討がつかない。

「あ、私にピッタリの盾を、おじいさまに選んで欲しいの」

  ・・・・・・

  何と言った?

  盾?

  儂に盾を選んで欲しいと言ったのか?

  ・・・この儂に?

  あまりにも想像外のお願いだったためか、何も考えられず呆っとしてしまう。周りを見ると、アルディは驚いた顔をしコーネリアは何事もなかったような顔をしている。メイド二人はいつの間にか姿が見当たらない。

  目の前には、勝ち気に目を輝かせたユリアがいる。

  盾か──

  ユリアがどういった思惑でそれを願ったのかは分からないが、まぁ──

「いいぞ。では、ちょうどギルドに用もあるし、明日にでも見に行こうか」
「えっ?!い、いいの!?」
「ん?いいぞ?盾が欲しいんだろう?約束は約束だ」

「う、うん・・・ありがと」



  その後は各々自由に食事と会話を楽しみ、アルディは明日は朝が早いと早めに床についた。
  コーネリアはメイド二人と、今王都で流行っているらしい演劇の役者について語り合っている。

「おじいちゃん。ちょっといい?」

  酔い醒ましにと、芋の蒸留酒を舐めながらバルコニーで夜風に当たっていると、ユリアがやってくる。

「ん?ああ、構わないよ」

  儂の横で夜風を全身に浴びて伸びをする。もう、お嬢様ごっこは終わったようだ。いつものユリアに戻っている。

「療養所・・・ヨルニールさんのところに行ったんでしょ?」
「ああ」
「あたしの加護の話?ヨルニールさん、何か知ってたの?」
「いや、流石のヨルニール先生でも知らないようだ」

「そう・・・」

  ユリアは少し残念そうに俯く。

  ユリアが儀式で何を願ったのか、何を望んだのかはわからないが、今後のことや将来を考えると、何だか分からない神の加護では不安に思って当然だろう。

  儂はユリアの頭に軽く手を乗せる。

「だが先生は、知っているかもしれない人を知っているそうだ」
「!ほ、ホント?」

  くるっと儂の方を向いたユリアの目が、小さな光を見つけた喜びに輝く。

「ああ。ただ、その人はクラーゼル王国領に居るらしくてな、今度ギリアムが戻ったら話を聞いてみるつもりだ」

「・・・そっか」

  儂の手を頭から降ろすと、ユリアは屋敷の中に駆け入る。

「あたし、そろそろ部屋に戻るね」
「ん?ああ」
「おじいちゃん。色々とありがと。
 明日、お買い物楽しみにしてるね。おやすみ!」

「ああ、おやすみ」

  少しドレスが邪魔そうにユリアは部屋に駆けていった。
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