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再び手にした決意
東側の懸念とギルド
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翌朝、日課の身体の鍛練を終え、一人で早めの朝食を食べる。
我が家のメイド二人は、昨晩はかなり遅くまでコーネリアと贔屓の役者談義に熱中していたようだが、普段と変わらずに朝早くから動いている。
立派なものだ。街に買い物に出ることだし、たまには何か喜ぶようなものでも買ってきてやろう。
食事を終えた後は、これも日課となっているが庭に出てハリルに朝食をあげ、紅茶を飲みながら守護隊からの昨日の報告書と王都の事件や出来事をまとめた週に一度発行される情報紙に目を通す。
昨日も王都は特に事件もなく平和だったようだ。
ひとつ、『東側の外壁が崩れていた』という報告が気になるが。こちらもついでに見に行くとしよう。
一通り目を通したあとは、ひそかに楽しみにしている、王都在住の作家が情報紙に連載している作り物の英雄譚を読む。
前回は、最強の剣を作るために必要な鉱石を、南の島国に探しに行った勇者が、たまたまバカンスに来ていた女魔王と互いにそうとは知らずに出くわして、一緒に鉱石探しをするところだった。
「鉱石のある洞窟に、古龍が住み着いているのか・・・」
今回もなかなか奇想天外な展開だ。
そうしていると、屋敷のほうから声が聞こえた。
ようやく、ユリアが起きて来たようだ。
ユリアが食事を食べている間に英雄譚を読み終える。
また、次回が楽しみな終わりとなった。来週が待ち遠しい。
これを書いている作家は、どんな人なんだろうか。叶うならお会いしてみたい。応援の手紙でもしたためようか。
「おじいちゃん。すぐ出かける?」
食事を食べ終わったらしいユリアが、屋敷の窓から庭にいる儂に聞こえるよう大きな声で呼びかける。
「ああ。そのつもりだが。ユリアの用意が出来たらで構わないよ」
「わかった。ちょっと待っててね!」
こちらも食べ終わったらしいハリルが、自分も連れてけと尻尾をブンブン振り回す。
「わかった、わかった。お前も散歩に行こうな」
ハリルの頭をクシャクシャと撫でる。見かけはほとんど犬と変わらないので街中でも問題なく連れて歩けるのが、こいつの利点だな。
さて、ユリアの準備を待つ間にもう一度読み直そうか。
街に繰り出した儂とユリアとハリルは、まず守護隊の報告書にあった東側の壁を確認しにいく。
まだこの時間だと、今日の依頼を探す冒険者や野良のパーティ待ちの冒険者で賑わっているため、ギルドはもう少し後がいい。
壁を確認したあとに、メイド用のお土産を買って、ギルドに寄って、最後にユリアの盾を見にいくつもりだ。
目的の壁は、街の東門を出て少し北よりに進んだところにあった。ちょうど東の森に一番近い辺りだ。
「・・・これは、何かがぶつかった痕か?」
壁には、円形にへこみ、その回りがひび割れているような痕があった。
なんだろうか?破城槌で叩いた様な痕に見える。
守衛は気付かなかったのだろうか?
少し嫌な感じがする。
あとでギルド長に報告しておこう。
外に出たからか、本格的に散歩に行くと思ったらしいハリルがやたら興奮気味だ。今日はその予定はない。すまんがまた今度な。
街中に戻り、冒険者ギルドに向かう道すがらにユリアに事情を話しメイド用のお土産を購入する。
なんでも最近出来たばかりの菓子店の人気の品だそうだ。
普段は行列が出来るほどらしいが、たまたまかそこまで並ばずに買うことが出来た。今度、ヨルニール先生にも買っていってやろう。
冒険者ギルドに着いた儂は、顔馴染みの受付嬢に声をかける。
「やあ、エナ。グストフはいるかい?」
グストフは冒険者ギルドの長ギルドマスターのことだ。
奴とは、フリオニールに出会う前、儂が冒険者をしていたころからの顔見知りだ。
フリオニールに、儂が強いと言い放った奴だ。
「こんにちは、フェンスさん。ええ、居ますよ。今日はユリアちゃんも一緒なんですね? こんにちは、ユリアちゃん」
「こんにちは、エナさん!今度、冒険者登録に来るね!」
「あ!そういえば、昨日はユリアちゃんの誕生日でしたね!おめでとう。加護の儀式はもうしたの?どうだった?」
「・・・え~っとそれはその、なんと言うか・・・」
ユリアは、どう言ったものかと困惑顔だ。
「エナすまんな。このあとも用事があるんでな。
いつもの部屋でいいか?」
「え?ああ、すみません。でしゃばり過ぎました。
はい。マスターはいつもの部屋で溜まった書類に埋もれているかと」
「ユリアのことは落ち着いたらいずれな。ありがとう」
そう言って受付の奥にある、扉へと向かう。
今は、こちらもまだ理解出来ていない話なので、ある程度分かったらエナには伝えるつもりだ。
ユリアが今後、冒険者として活動するのであれば、ギルド側に事情を知っている人間がいるほうが安心だろう。
エナであれば、ユリアも仲が良く姉のように想っている節もあるから適任だろう。
「グストフ、入るぞ!」
一番奥のドアをノックもせずにそのまま入る。
中央に置かれた事務机は大量の書類に、正に文字通り埋もれている。その中からくたびれた男の声が聞こえる。
「フェンスか・・・相変わらずノックを出来ない奴だな」
「俺がノックをしないのはここだけだぞ」
「で、どうした?何かやっかいごとか?」
グストフはやれやれといった感じで書類の海を抜け出てくると、机の前に置かれているソファーに座るよう促さす。
ちょうどそのタイミングでエナが人数分のお茶と、ハリル用の水を持ってきた。
「やっかいごとかどうかは、まだわからんが。気になったことと、少し報告だな。」
「報告ね」
グストフはどかっと正面のソファーに腰を下ろし、目の前のお茶を一気に飲み干す。熱くないのか?
ふと、隣に座ったユリアに顔を向ける。
「ユリア。少し仕事の話をするから、退屈だったらギルド内を見ていても構わんぞ?」
「ううん。大丈夫。ここで聞いてる」
「そうか」
儂も話す前にお茶で喉を濡らしておく。
「まず、気になることだが。最近、東の森の方でゴブリン関係の依頼が多く出てるそうだな?棲みかでもあるのか?」
「そいつはまだわからん。調査に出ている冒険者からの連絡だと、昨日東の森の奥にある山岳の山肌に、棲みかになりそうな洞窟を見つけたとの報告があった。今朝あった連絡では、今日少し中を調査すると言っていたようだ」
調査の冒険者。ルシオスが手伝っているところか?
「その報告待ちだが、いてもそう規模は大きくないと見ている」
そうであればいいが。
「で、報告てのは何だ?」
「ん?ああ。同じく東側になるんだが、昨日守護隊からの報告書に東外壁に崩れている箇所があると書いてあってな」
散歩も出来ずいじけてしまったか、ハリルが小さく鳴いて床に伏せた。
「さっき直接見てきたんだが、どうにも破城槌のようなもので叩いた痕跡があってな。報告書には守衛がその様な音を聞いた等の報告は上がっていないんだ」
「ふむ・・・」
グストフは片眉を吊り上げて考え込む。
「ゴブリンについては大したことはないと俺は見ているが、念のため追加の依頼を出してもうひとパーティくらい派遣してみるか」
「ああ。そうしてくれると助かる。こちらも、しばらくは東側を重点的に見回る様にしよう」
「何も無いとは思いたいな・・・」
さて、これでギルドの用事は済んだ。
ユリアもここまでで退屈しているだろうし、早く連れていってやらねば。
「では、これで。邪魔するよ」
「ああ。何か分かったら連絡するよ」
「頼む」
そう言って立ち上り、ユリアに手を差し出す。
「さて、待たせたな。ユリア!行こうか」
「うん!」
ユリアは儂の手を取って元気良く立ち上がった。
我が家のメイド二人は、昨晩はかなり遅くまでコーネリアと贔屓の役者談義に熱中していたようだが、普段と変わらずに朝早くから動いている。
立派なものだ。街に買い物に出ることだし、たまには何か喜ぶようなものでも買ってきてやろう。
食事を終えた後は、これも日課となっているが庭に出てハリルに朝食をあげ、紅茶を飲みながら守護隊からの昨日の報告書と王都の事件や出来事をまとめた週に一度発行される情報紙に目を通す。
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ひとつ、『東側の外壁が崩れていた』という報告が気になるが。こちらもついでに見に行くとしよう。
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前回は、最強の剣を作るために必要な鉱石を、南の島国に探しに行った勇者が、たまたまバカンスに来ていた女魔王と互いにそうとは知らずに出くわして、一緒に鉱石探しをするところだった。
「鉱石のある洞窟に、古龍が住み着いているのか・・・」
今回もなかなか奇想天外な展開だ。
そうしていると、屋敷のほうから声が聞こえた。
ようやく、ユリアが起きて来たようだ。
ユリアが食事を食べている間に英雄譚を読み終える。
また、次回が楽しみな終わりとなった。来週が待ち遠しい。
これを書いている作家は、どんな人なんだろうか。叶うならお会いしてみたい。応援の手紙でもしたためようか。
「おじいちゃん。すぐ出かける?」
食事を食べ終わったらしいユリアが、屋敷の窓から庭にいる儂に聞こえるよう大きな声で呼びかける。
「ああ。そのつもりだが。ユリアの用意が出来たらで構わないよ」
「わかった。ちょっと待っててね!」
こちらも食べ終わったらしいハリルが、自分も連れてけと尻尾をブンブン振り回す。
「わかった、わかった。お前も散歩に行こうな」
ハリルの頭をクシャクシャと撫でる。見かけはほとんど犬と変わらないので街中でも問題なく連れて歩けるのが、こいつの利点だな。
さて、ユリアの準備を待つ間にもう一度読み直そうか。
街に繰り出した儂とユリアとハリルは、まず守護隊の報告書にあった東側の壁を確認しにいく。
まだこの時間だと、今日の依頼を探す冒険者や野良のパーティ待ちの冒険者で賑わっているため、ギルドはもう少し後がいい。
壁を確認したあとに、メイド用のお土産を買って、ギルドに寄って、最後にユリアの盾を見にいくつもりだ。
目的の壁は、街の東門を出て少し北よりに進んだところにあった。ちょうど東の森に一番近い辺りだ。
「・・・これは、何かがぶつかった痕か?」
壁には、円形にへこみ、その回りがひび割れているような痕があった。
なんだろうか?破城槌で叩いた様な痕に見える。
守衛は気付かなかったのだろうか?
少し嫌な感じがする。
あとでギルド長に報告しておこう。
外に出たからか、本格的に散歩に行くと思ったらしいハリルがやたら興奮気味だ。今日はその予定はない。すまんがまた今度な。
街中に戻り、冒険者ギルドに向かう道すがらにユリアに事情を話しメイド用のお土産を購入する。
なんでも最近出来たばかりの菓子店の人気の品だそうだ。
普段は行列が出来るほどらしいが、たまたまかそこまで並ばずに買うことが出来た。今度、ヨルニール先生にも買っていってやろう。
冒険者ギルドに着いた儂は、顔馴染みの受付嬢に声をかける。
「やあ、エナ。グストフはいるかい?」
グストフは冒険者ギルドの長ギルドマスターのことだ。
奴とは、フリオニールに出会う前、儂が冒険者をしていたころからの顔見知りだ。
フリオニールに、儂が強いと言い放った奴だ。
「こんにちは、フェンスさん。ええ、居ますよ。今日はユリアちゃんも一緒なんですね? こんにちは、ユリアちゃん」
「こんにちは、エナさん!今度、冒険者登録に来るね!」
「あ!そういえば、昨日はユリアちゃんの誕生日でしたね!おめでとう。加護の儀式はもうしたの?どうだった?」
「・・・え~っとそれはその、なんと言うか・・・」
ユリアは、どう言ったものかと困惑顔だ。
「エナすまんな。このあとも用事があるんでな。
いつもの部屋でいいか?」
「え?ああ、すみません。でしゃばり過ぎました。
はい。マスターはいつもの部屋で溜まった書類に埋もれているかと」
「ユリアのことは落ち着いたらいずれな。ありがとう」
そう言って受付の奥にある、扉へと向かう。
今は、こちらもまだ理解出来ていない話なので、ある程度分かったらエナには伝えるつもりだ。
ユリアが今後、冒険者として活動するのであれば、ギルド側に事情を知っている人間がいるほうが安心だろう。
エナであれば、ユリアも仲が良く姉のように想っている節もあるから適任だろう。
「グストフ、入るぞ!」
一番奥のドアをノックもせずにそのまま入る。
中央に置かれた事務机は大量の書類に、正に文字通り埋もれている。その中からくたびれた男の声が聞こえる。
「フェンスか・・・相変わらずノックを出来ない奴だな」
「俺がノックをしないのはここだけだぞ」
「で、どうした?何かやっかいごとか?」
グストフはやれやれといった感じで書類の海を抜け出てくると、机の前に置かれているソファーに座るよう促さす。
ちょうどそのタイミングでエナが人数分のお茶と、ハリル用の水を持ってきた。
「やっかいごとかどうかは、まだわからんが。気になったことと、少し報告だな。」
「報告ね」
グストフはどかっと正面のソファーに腰を下ろし、目の前のお茶を一気に飲み干す。熱くないのか?
ふと、隣に座ったユリアに顔を向ける。
「ユリア。少し仕事の話をするから、退屈だったらギルド内を見ていても構わんぞ?」
「ううん。大丈夫。ここで聞いてる」
「そうか」
儂も話す前にお茶で喉を濡らしておく。
「まず、気になることだが。最近、東の森の方でゴブリン関係の依頼が多く出てるそうだな?棲みかでもあるのか?」
「そいつはまだわからん。調査に出ている冒険者からの連絡だと、昨日東の森の奥にある山岳の山肌に、棲みかになりそうな洞窟を見つけたとの報告があった。今朝あった連絡では、今日少し中を調査すると言っていたようだ」
調査の冒険者。ルシオスが手伝っているところか?
「その報告待ちだが、いてもそう規模は大きくないと見ている」
そうであればいいが。
「で、報告てのは何だ?」
「ん?ああ。同じく東側になるんだが、昨日守護隊からの報告書に東外壁に崩れている箇所があると書いてあってな」
散歩も出来ずいじけてしまったか、ハリルが小さく鳴いて床に伏せた。
「さっき直接見てきたんだが、どうにも破城槌のようなもので叩いた痕跡があってな。報告書には守衛がその様な音を聞いた等の報告は上がっていないんだ」
「ふむ・・・」
グストフは片眉を吊り上げて考え込む。
「ゴブリンについては大したことはないと俺は見ているが、念のため追加の依頼を出してもうひとパーティくらい派遣してみるか」
「ああ。そうしてくれると助かる。こちらも、しばらくは東側を重点的に見回る様にしよう」
「何も無いとは思いたいな・・・」
さて、これでギルドの用事は済んだ。
ユリアもここまでで退屈しているだろうし、早く連れていってやらねば。
「では、これで。邪魔するよ」
「ああ。何か分かったら連絡するよ」
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