盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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再び手にした決意

ダンダルの武具店

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 冒険者ギルドを出た儂とユリア、それとハリルは、金物街に向かう。

  王都の南にある炭鉱街との交流をしやすくするために、王都の南側にいくつもの関連の店や作業場などが集中している。
  この一角は常に、鉄を叩く音、金属の焼ける匂い、窯からの熱気が街に充満している。

  ハリルはこの音や匂いが苦手そうだ。

  先に帰すべきかと考えていると、器用に魔力で起こした風を、鼻と耳回りに纏わせていた。流石は風の名前を冠する魔物である。

  ただ、匂いと音を遮るのは犬科の生物としては如何なものだろう。

  この金物街では、剣や鎧などの武具はもちろん、生活品の包丁や鍋などの製品、陶器などの焼物から、魔道具の部品なんかも作られている。
 
  その中の一軒、守護隊の武具の新調や修理をいつも頼んでいる、ダンダルが営む鍛冶屋兼武具店に向かう。少し盛り上がった丘状の土地を掘り、半地下風の洞穴にドアが付いている風変りな店構えで、土竜族のダンダルらしい佇まいだ。
  店内は、薄暗いながらも所々に窓が付けられ、外の明かりが差し込んでいる。壁やカウンターの上にも魔道具のランプが置かれており、暖色の灯に照らされた剣や鎧がまるで伝説の武具の様な雰囲気を醸し出している。

  奥の方から、ハンマーで金属を叩く音が絶え間なく聴こえてくる。音に負けないよう、ここ以外では普段なかなか出さない大声で名を呼ぶ。

「ダンダル!!いるかい?邪魔するよ!!」

  直後、目の前のカウンターの陰からむくりと人影が起き上がる。
  てっきり奥に居るかと思ったが、ここに居たようだ。

「・・・誰だい?そんな大声出して・・・ん?なんだぃ、フェンスの旦那かぃ。修理ですかぃ?」
「やあ、ダンダル。今日は修理ではないんだ。」

  ユリアに目をやる。少し後ろにいたユリアがダンダルの前にスッと歩みでる。

「ダンダルさん、初めまして。ユリアと申します」

  昨夜着ていたようなドレス姿ではないが、スカートの端を摘まむ振りをして、丁寧に挨拶をする。昨夜は思わず吹いてしまったが、外でもちゃんとこうやって挨拶が出来るんだな。成長を感じて染々と嬉しさが込み上げる。

「あん?旦那の孫の嬢ちゃんかぃ?産まれてすぐに顔を見たきりだが、大きくなったもんだ」
「はい。昨日、無事に成人の儀を迎えました。今後は祖父共々、宜しくお願い致します」

  ユリアは、もう一度ペコリと頭を下げる。
  こんな返答も出来るようになって・・・更にじ~~んとくる。

「堅苦しくせんで、楽にしてくださぃ。あっしはどうにも、そういったのが苦手でねぇ。で、旦那。今日はどうしたんですかぃ?」
「ん?あ、ああ。実はな、このユリアの成人祝いの品を探しにな」

  もう少し感動に浸っていたい気分だが、ここに来た目的を忘れてはいけない。

「祝いの品ですかぃ?では、短剣ですかね。それでしたら、今だとこんなのですとか、こんなの──」

  女性に贈る成人の祝いの品と言えば、短剣と相場が決まっている。
  言いもしないうちに、ダンダルはいくつもの短剣をカウンターの上に並べていく。

「ダンダル。すまんが、見たいのは短剣ではないんだ」

  短剣はもう、ユリアの父アルディが贈っている。

  店中の短剣を持ってくる勢いだったダンダルがピタッと止まる。

「短剣ではないんですかぃ。では、ロッドか杖ですかね?それでしたら──」
「待て待て!ロッドでも杖でもなくてな」

「あたしっ──盾が欲しいんです!!」

  ユリアが目を輝かせてそう答えた。





  それならと、地下の倉庫に案内してもらった。
  地下は、地上?半地下?部分の何倍も広く、ランプに照らされたそこら中に色々な武具が並べられている。

  ダンダルが奥の一角のランプを灯すと、壁一面に大小様々な形の盾がびっしりと並んでいた。

「わぁ・・・すごい」

  壮観な光景に、ユリアは更に目を輝かせる。

「嬢ちゃんの体型だと、軽い素材のものが良いだろうから・・・これとか、これとか、あれも良いですかね」

  真ん中に置かれたテーブルの上に、今度は盾がどんどんと並べられていく。ユリアはひとつひとつを興味深く見つめている。

  そう言えば、ユリアはどうして盾が欲しいのだろう?
  どういった用途でどういった盾が欲しいのだろうか?

  ユリアが冒険者をやるならば、覚えた魔法を活かした魔法剣士か純粋に魔法使いが良いと思うのだが。そのどちらも盾は必要な物ではない。

  持ってはいけないというわけではないが、一般的ではない。

「ユリアはどんな盾が欲しいんだ?」
「ん~~。本当はおじいちゃんの盾みたいのが良いんだけど、さすがに重くて持てないだろうからなぁ・・・」

  儂の盾?

  ユリアはいったいどうしたいのだろうか。

  どんどんとテーブルの上は、盾で埋まっていく。レザーシルードにバックラー、カイトシールド。中にはちゃんと守れるのか?と、疑いたくなるようなものや、呪われているのではといった物まである。

  隅々まで目を凝らしていたユリアは、急にピタッと動きを止める。
  その前にはひとつの盾。

「ダンダルさん・・・この盾は?」
「あん?ああ、それかぃ。嬢ちゃんにはちょっと重いかもしれんが、そいつぁ良い盾だよ」

  ダンダルは、飾り棚から盾を下ろし、ユリアに手渡す。

「希少種のブルーリザードの皮革と、白鉄を合わせたバックラーだね。防御力も十分あるし、冷気を防ぐ効果もある盾だね」

  青と白のコントラストが美しい盾──

  儂の盾だった、あの盾と同じ色。

「あたし・・・これがいいっ!!この盾が欲しい!!」

  しばらく、持ち手の掴み心地を確かめたり無言で盾を見つめていたユリアがより一層目を輝かせて儂を見る。

「嬢ちゃん、なかなかの目利きだねぇ。
 旦那もこの盾で大丈夫かぃ?」

「ん?あ、ああ。ユリアが気に入ったのならそれにしよう」
「まいどっ!!」

  店内に戻り、会計を済ませる。
  この盾を買うと言ってから、やけにダンダルが機嫌良さそうにニタニタしていると思ったら、かなりの値段だった。

「・・・ダンダル。これはちょっと」
「あん?旦那ともあろう人が、孫娘の成人祝いの品を値切ろうってのかぃ?」
「い、いや。はぁ・・・代金は後で届けるよ」

  持ち手をユリアが掴みやすいように調整してもらい、店を出る。

  ユリアは、ご機嫌に盾を胸に抱いて歩いている。

  ユリアはどんな冒険者になりたいのだろうか?

  その辺りもちゃんと話さないとな──
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