盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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火の竜の王との邂逅

悪巧み2

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 #フリオニール


 フェンスの屋敷を後にした私は少し遠回りし城下の賑わいを確認しながら城へと戻る。共は近衛騎士のディーンとエダの二人。
 正式な外出ではないので目立たぬ格好をしているため、二人も鎧姿ではなく軽装をしている。

「陛下。危のうございます。早く城に戻られますよう」

 小声でディーンが話しかけてくるがまだ戻る気はない。私は今非常に機嫌が良いのだ。五月蠅い大臣の居る城になど早々戻ってたまるか。

「・・・兄さん。お忍びなのですからその様な態度では周囲に気付かれてしまいます」

「し、しかし・・・」

 この二人は兄妹である。まだ20と19と若いが武芸大会や魔物討伐の実績を評価され若くして近衛騎士に任命されている。何を隠そう私が任命したのだが。

「ディーン。エダの言う通りだ。今の私は陛下ではなく、一介の剣士フリオだ。間違えるでない」

「陛下・・・いえ、フ、フリオ様・・・。その設定はともかく今は状況が状況ですので・・・」

 ディーンの言わんとすることは分かる。つい昨日魔人の襲撃があったばかりだ。近衛騎士として警戒をするのが当然である。

 しかし!!

 それ以上に今は私は非常に機嫌が良いのだ。
 あのフェンスがまた盾を手に取ったのだぞ!魔人など恐るるに足らんではないか。

 ああ。あの日のことは今でも鮮明に思い出せる。

 魔王を倒したあと痛みで気を失ってしまった私は、10日もの間眠り続けていたという。あらゆる手を尽くしてくれたらしいが私の右目と右腕は治らなかったそうだ。
 確かに絶望はしたがそれほど深くは悩まなかった。それ以上に仲間が皆無事だったことが素直に嬉しかった。

 ただ、フェンスが盾を手放したことだけがやるせなく哀しい記憶だったが、フェンスはまた盾を持つと決めた。

 会議のあとフェンスと話をした。盾をもう一度手にした経緯とどうやって魔人を倒したのかの詳細を聞いた。それ以外にも昔のことや他愛のない話もした。また今度ゆっくり酒でも飲み交わしながら語らうとしよう。

 フェンスのことだけでも十分に喜ばしいことだ。祝いの祝宴でも開きたいところだがそれはフェンスに否定されてしまった。まぁそれはよい。もっと面白いのはフェンスの孫娘ユリアのことだ。
『付与の神の加護』に『付与魔法』か・・・。実に面白い!
 あれだけ魔法に焦がれながらも魔力が無く魔法を使うことの出来なかったフェンスが、その力で魔法を行使したというのだ。しかもフェンスの奴、術式の多重展開だと?いつまでも愉しませてくれるものだ。こちらもじっくり検証したい。

「ハッハッハッ!実に愉快だ。ディーン。エダ。腹が空いたな、何か食べて行くか?」

「「フ、フリオ様?!」」

 ちょうど、すぐそこの店から良い匂いがしてくるではないか。



 #ユリア


 思い付いたら即行動。遅くても2日後にはおじいちゃんは火竜の住む山に行ってしまうみたい。それまでにどうにかしなければ!

 家を出たあたしは目的の場所へ急ぐ。怪しまれないように散歩に連れていく体でハリルも連れてきた。魔人に襲われたことなど忘れちゃったのかな?ハリルはもう元気いっぱいだ。

 あたしが思い付いたアイディア。それは至極簡単だ。

 おじいちゃんが連れてってくれないなら他の誰かに連れてってもらおうっていうただそれだけ。誰にお願いするかはもう決まっている。あとは会ってお願いするだけ。

 あー。そういえばお腹空いたな。さっきまでは全然食べる気しなかったのに急にお腹が空いてきた。食べてから出てくれば良かったかな?通りの先に何度かおじいちゃんと入ったことのある食堂が見えた。あの店の煮込シチューと焼きたてのパンが最高に美味しいんだよなぁ。考えたら余計にお腹空いてきちゃった。お金持ってくれば良かった・・・。

 店の前に三人連れが立っている。ひとりはどこかで見たような服装をしているが似たような格好の人は冒険者ギルドにたくさんいそうだ。遠目に顔に眼帯をしているのが見える。あれ?腕が無い──

 あっ?!

「ワンッ!」

 ハリルも気付いたのか嬉しそうにその人のところに駆けていく。

「おお!お前はフェンスのとこの番犬ではないか」

 その人はしゃがみこむとハリルの頭をわしわしと撫でる。後ろの二人は今にも剣を抜きそうな勢いだったが困り顔で手を下ろした。
 あたしはもう完全に犬だと思ってるけど一応ハリルは魔物だからね。警戒されてもしょうがない。

「フリオおじさん!」

 やっぱりフリオおじさんだった。家を出てからもう大分時間が立ってるけどずっと街にいたのかな?城まで行く手間が省けて助かったけど。あたしの声に気付き顔を上げると驚いた様な嬉しそうな表情をしている。

「おお、ユリアではないか。私の念が通じたか?」

「?」

「いや。何でもない。どうしたのだ?こんなところに。ハリルの散歩でもしているのか?」

「えっと、その・・・。フリオおじさんのところに行こうと思って」

「私の?城に行こうとしていたのか?では、ここで会えたのは僥倖だったな。謁見手続きなど面倒なだけだからな。で、何か用があるのか?」

 確かにここで会えたのは良かった。フリオおじさんの言う通り、手続きのことなんか全然考えてなかったけど助かった。

「フリオおじさんこそこんなとこで何してるの?」

「ん?ああ、少し城下の様子を視察していたのだかな。この店から良い匂いがするものだから何か食べていこうと思ってな」

「陛──フ、フリオ様。やはりそれはさすがに・・・」

 後ろにいた男の人が慌ててフリオおじさんを止めている。まぁ確かに王様がこんなとこで食事をするのはあたしでも変だと思う。

「私は腹が空いているのだ。ディーンよ。駄目と申すなら私が食べたいと思うものを替わりに用意するがよい」

「ええっ?!そ、それは──」

 フリオおじさんはイタズラする子供みたいな顔をしている。言われたディーンさんは可哀想なくらい困ってるみたい。もうひとりの女の人がディーンさんの肩にポンと手を置く。

「兄さん・・・。ここは諦めましょう。きっと城に戻ったら大臣様に怒られますけどね・・・」

「う、ううっ・・・」

 ちょっと可哀想かな?王様の護衛は大変そうだ。

 あたしはフリオおじさん本人の希望でもあるんだけど、そう呼んでいる。「フェンスの孫なら私の孫みたいなもの。畏まった呼び方などせずに、そうだな・・・、フリオおじさんとでも呼んでくれないか?」と言われたからだ。
 おじいちゃんと同い年だからフリオおじいちゃんでは?と思ったけどそこは譲れないらしい。そんな経緯もあって王様って感じがあまりしない。でも、あたしももう成人したわけだしそろそろ改めたほうが良いかな?

「ユリアはもう昼食は食べたのか?私に用があるのなら食べながらで良ければここで聞くぞ」

 グ~~~

 店の中から漂ってくる美味しそうな匂いにあたしのお腹の虫はガマン出来なかったみたい。音が辺りに響く。恥ずかしい~っ!

「ハッハッハッ!ユリアも腹が空いているようだな。さぁさっさと入るとしよう。ディーンとエダも好きなものを頼むと良い」

 そう言うと先頭で店に入っていった。




「──なるほどの。まぁ反対するフェンスの気も分からぬではないが。それでも火竜の峰に行きたいと言うのだな?」

 ハリルが一緒だったもので店内ではなく店横のテラスで頼んだ食事を食べながら、火竜のところに行きたいということを話した。
 なぜフリオおじさんにこんな話をしたのかというと──



 あたしは聞いた。
 おじいちゃんが火竜の住む山に行くことが決まったときフリオおじさんも行くと言っていたけど皆に反対されて残念そうな顔をしてた。そのときボソッと「後ろからコッソリ着いていってしまおう」と言っていたのを。

 フリオおじさんはしばらく食べる手を止めて考えごとをしていたが、ニヤッと微笑むと愉しそうに口を開いた。

「よし。ではユリアよ。私と一緒に行くとしようか」

 ?!ヤッタ!思いのほか上手くいったけど──

 護衛の二人ディーンさんとエダさんは相当に困った顔をして今にも泣き出しそうだった。

    ごめんなさい!あたしが無理言ったせいで。

 でも、これであたしも行ける!
 何が出来るかは分からないけどきっとおじいちゃんを助けることが出来る──
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