盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

文字の大きさ
31 / 91
火の竜の王との邂逅

火竜との戦い

しおりを挟む
 #フェンス


  火竜の峰の中腹にぽっかりと口を開く暗闇。

  その奥に広がる大空洞。

  それは火山の名残とも 古代民族の遺跡に繋がる道とも
  魔性の棲みかとも言われている。

  実際のところ真実は誰にも解らないが火山活動と地殻変動により自然に造られたものという説が濃厚である。

  そこは連なる山々の名前の由来となったように火竜の棲みかとなっている。同時に空気中の魔力の素となる魔素の濃度が濃い場所となっており、大小多数の魔結晶の産地にもなっている。

  内部は大空洞の名に相応しくかなり広い空洞であり、ところどころに火山であることを感じさせる蒸気の噴出孔や赤熱した溶岩が顔を覗かせている。

  目的は聖大結界の触媒となる大きな魔結晶の採取。岩陰に隠れ余計な戦闘を避けつつ奥へと進む。

「この先はレッサードラゴンがいますね。倒すかひとつ前の分岐まで戻るかですが」

  索敵を行っていたジョルジュが戻る。なるべく戦闘は避けたいがこの暑さだ。あまり長時間の探索も避けたい。

「数は?」
「1頭だけです。周りに他の個体はいないようです」

  少ない数なら問題なく倒せるが、広い場所で仲間を呼ばれると厄介である。状況を見ながらの対処が肝心になる。

「よし。ではルーテ、『サイレンス』で奴の声を封じてくれ。その後はジョルジュの弓で注意を引きこちらに引き寄せ仕留める」
「は、はいっ!お任せ下さい。フェンス様♪」
「あ、ああ・・・。宜しく頼むよ」

  ルーテの持つ杖に術式の環が灯る。レッサードラゴンは急に音が無くなったことに戸惑っている。間髪いれずにジョルジュの矢がドラゴンの片眼を穿つ。やはり良い腕を持っているようだ。

  叫び声を上げる仕草をしたが残念ながらサイレンスの効果で声を出ていない。そのまま襲いかかってきたドラゴンを危なげなくアベルと二人の騎士が仕留める。派手さは無いが最初の印象通りバランス良いパーティのようだ。
  儂の出番はほとんど無さそうだ。

「流石はフェンス様。参考になります・・・」

  ルーテは肩に下げた鞄から紙束を取り出し何やら書き込んでいる。王都を出てからことあるごとに何かを書いているようだが何をしているのだろうか。

「ルーテ。いったい何を書いているんだ?」
「ふへっ?!わ!わ!わっ!ななな!な、何でもありません!」

  書くことに集中していたようで急に声をかけたからかかなり慌てている。う~ん、怪しい。

「今回の任務上必要なことであれば止めんが、危険な場所にいることを忘れるな。書きながらも周囲への注意を怠らないようにな」
「は、はいぃ!も、申し訳ありませんっ」

   おかしな声を出しながら紙束を鞄に詰め込む。俄然気になるな。帰りの馬車で見せてくれるようお願いでもしてみるかな。

 「さて、先に進もうか」


  その後は何度かレッサードラゴンと遭遇するが、方針は変えず極力戦闘を避けつつ進む。火竜の棲みかとは言うが出くわすのはほとんど劣化種のレッサードラゴンのみで大きな危険は今のところない。

「レッサーばかりで飽きてきたな。火竜の棲みかというのは偽りか?」
「ルーク気を抜くな。我らは回復要員も兼ねているんだ。騎士として戦うことも大事ではあるが、我らが傷を負ってしまっては役割を全う出来なくなる。どんな相手であれ油断せず注意を怠るな」
 「分かってるよ。ロディは相変わらず真面目だな。ちょっとは気を抜かないと疲れて役割を全う出来なくなるぜ」

  騎士の二人が倒したばかりのレッサードラゴンの死骸を片付けながら話をしている。時間が鍵となる強行軍であれば倒した魔物はそのままでも構わないが、極力戦闘を避けたい調査などの場合は魔物の血の匂いが他の魔物をおびき寄せてしまうため重要な作業になる。

  出てくる魔物がレッサードラゴンばかりであるため二人の処理速度は会話をしながらでもまったく問題ないほど向上している。二人は普段からも同じ小隊であるためか気の置けない間柄のようだ。

  真面目だが少々固そうなロディと柔軟だが飽き性なルーク。良いコンビだな。将来性のある若者を見るのはなんとも喜ばしいことだ。

  少々爺臭いか。

「アベル隊長が戻ったようです」

  ジョルジュと交替で偵察を行っていたアベルの姿が前方に見える。

  守護隊の面々にはどのような状況にも対応出来るよう戦闘訓練以外にも様々な訓練を行っている。隊長の三人は専門職には劣るが偵察や罠解除などもある程度こなせる。最初は儂の持つ知識と技術を教えていたが、隊内には元冒険者の者も多く今では隊員通しで役立ちそうな技術を教えあっている。

  アベルは少し難しい表情をしているが、何かあったのだろうか。

「アベル。どうかしたのか?」
「・・・ええ、見て頂きたいものが・・・」
「ん?」

  アベルの先導で先に進むと少し開けた足場のある場所に出た。そこにはこれまで一度も姿を見せなかった火竜が3頭。

「!?」

「なっ?!こ、これはいったい・・・」

  そこには異様な光景が広がっていた。

  3頭とも首をはねられ絶命している。それ以外の外傷は見当たらないため一撃で倒されたようだ。竜は他の魔物と比べ知能が高く一定の大きさ以上になると意思を持ち言葉をも操るようになるが、この3頭はまだ小型のようだ。

「どの個体も胸部にある魔石を抜かれています。爪や牙など素材として使えるものはそのままになっていますので、明らかに冒険者等の仕業ではなく火竜の魔石のみを何かしらの用途で狙ったものがいるのかと」

  火竜の死骸を調べていたジョルジュがナイフに付いた血を拭いながら報告をする。元冒険者だということは知っているが弓の腕前にしろスカウトとしての技術の高さにしろ、おまけに解体技術にも秀でているようだ。どういった冒険者だったのだろうか。
  今度酒にでも誘って話を聞いてみたいものだ。

「何の目的で魔石を狙ったのだと思う?」
「それは分かりません。火竜の魔石ともなればそれだけで武具にも魔道具にも使える価値のあるものですが、素材を残していることを考えるとそういった目的ではないと思われます」

  何にせよ火竜をこのように一撃で仕留められる相手だ。目的が不明なので必ずしも敵性があるとは言えないが、油断は出来ないな。
 
「ギャオオオオオオォォォッ!!!」
「?!しまった!!」

  死骸の血の匂いを嗅ぎ付けたか魔物の咆哮が響く。

  開けた大空洞の空間を見上げるとレッサードラゴン数頭とここにいる個体よりふたまわりほど大型の火竜がもうすぐの距離に近づいていた。

「チッ!回避は出来んな。迎撃する!」

  全員に緊張が走る。皆瞬時に体勢を整える。

「ルーテ!水属性魔法は得意か?」
「はぇ?!は、はいぃ!私の加護は水の神なので、上級魔法までなら一通りだ、大丈夫ですぅ!」
「上出来だっ」

「総隊長!ブレスがきますっ!!」

  アベルが叫ぶ!
  目をやると大きく開いた火竜の咥内に猛々しい炎が渦巻いている。          
  吐き出されるまでもうあまり時間はない。

「ルーテっ!ウォーターレギオンを!」
「は、ふぁいっ!
            ウ、『ウォーターレギオンッ!!』

  この魔法は周囲の魔素を水属性に変換し、水属性魔法の威力を高めたり火属性への耐性を高めるための魔法だ。
  儂に魔力があれば盾騎士のスキル『アイスシルト』が使えるんだがな。無いものは仕方ない。何事も創意工夫だ。

『オーラシールドっ!』『イージスシールドっ!』

  広範囲防御と魔法耐性強化のスキルを使う。魔人の魔法ほどの威力はないと思うが長いこと盾を手放していたものだから加減がまだ掴めていない。念のためだ。

(我が持ち手よ これしき 我だけでも問題ない)
「ああ。自分でもそう思うよっ!」

  火竜の口から吐き出された炎が盾と衝突する。アイギスの言う通り『オーラシールド』だけでもよかったな。
  ルーテの唱えた魔法の効果もあって熱気もほとんど感じない。しばらくしてブレスは何の被害も出さずに掻き消える。

   上空の火竜はまたブレスを吐こうというのか大きく口を開けている。そうはさせんがな。

「ジョルジュ!」
「分かってます!」

  儂が言うと同時に既に矢をつがえていたジョルジュの弓から甲高い音を立てて矢が放たれる。周到に矢には水属性の魔力を纏わせている。

  矢は真っ直ぐに火竜の咥内を貫く。間違いなく儂などより弓の腕は上だろう。

  バランスを崩した火竜は落ちるように墜落する。それと同時に4頭のレッサードラゴンも勢いよく足場に降り立つ。あまりの衝撃に足場に亀裂が走った。
 
「ふえぇっ?!キ、キャアアアァァァッ!!」

  !? ルーテの悲鳴!

  後ろを振り返ると今の衝撃のせいでルーテが居た辺りの足場が崩れてしまったようだ。マズイ!落下する!

「ロディッ!ルークッ!彼女を頼む!」
「「は、はいっ!!」」

  ルーテの近くにいた二人に救出を託す。儂は今はこいつらの相手だ。

「アベルッ!ジョルジュッ!三人でやるぞ」
「はっ!了解しました」
「俺は援護に回ります」

  落下した痛みでもがいていた火竜が頭を振りながら起き上がる。

  さて、時間はない。速攻で片付ける──
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...