盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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火の竜の王との邂逅

共闘

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 #フリオニール


  うむ、まいったな。

  火竜の峰という名前に捕らわれてそれ以外の魔物の存在を忘れてしまっていた。いや、火竜以外が出たとしてもなんとかなるだろうという甘い考えだったのは認めよう。

  しかし、エレメント系は遠慮したかったの。

  この系統の魔物は実体がないため剣では斬れぬ。基本的な対処法としては弱点属性の魔法か属性武器で倒すのだが、同属性やその魔物の属性に弱い魔法では効果は弱い。

  エダは風属性だから火の魔物相手には相性が悪い。ディーンは物理攻撃特化。騎士団の二人はフェンスの補助のために治癒魔法が使える者を選んでいるからな。

  私は剣の『スキル』を主軸に戦うから属性剣の魔法を使えない。いや、そもそも魔法は使えない。フェンスと違って魔力はあるがな。

  魔物が放つ火球を剣で捌きつつどうすべきか思案するが答えは出ない。周りの者も徐々に押され始めたようだ。

  ユリアに目をやると何をしているのだ?火球を防ごうともせず難しい顔をして何かを考えているようだ。あの娘なりにこの状況をどうにかしようと考えを巡らせているのだろうか。

  魔物に狙われておったがエダが見事に捌く。とある理由で私が近衛に抜擢したのだがこの娘は実に有用だ。兄のディーンも勿論腕は立つ。非常に真面目ではあるのだが少々不器用なのがの。

  まあそれは今はよい。あの魔物をどうにかせねば。
  ユリアは何か良い案でも思い付いたか?視線を送ると何やら魔法を唱えようとしている。

『ウォータエンハンスっ!』

  ほぉ!属性剣の魔法を使えるのか。しかしあの剣で魔物と戦うつもりなのか?剣はあまり得意ではないと聞いているが。

  ん?また何やら魔法を唱えようとしているの。
  どうするつもりだ?

『エンチャントウォータっ!!』

  不思議なことが起きた。

  その魔法を唱えるとユリアの持つ剣を覆っていた青い魔法の光が更に強く輝き私の剣へと移ったのだ。

「こ、これは、水の属性剣・・・、なのか?」
「や、やった!上手く出来た!」

  なるほど。これがユリアの加護、付与の魔法か。フェンスの話ではまだどういったものかの把握は出来ておらず、魔人との戦いではユリアの持つ魔力をフェンスに付与をしただけと聞いていたが・・・。この土壇場で魔法を自ら造り出したのか?

  ハッハッハ。流石はフェンスの孫。

  しかしこの属性剣、通常のものより力強く感じる。私が使えるわけではないので確かではないが、他の者が使う同系統の魔法より感じる力強さが違う。これが『付与の加護』の力なのか?
  この剣ならあの程度の魔物何も問題はない。

「フリオおじさん!その剣で魔物を・・・」
「うむ。任せておけ!」

  一気に魔物へ向けて駆ける。魔物を一凪ぎするとまるで実体があるかのような手応えを感じ、真っ二つに斬り裂いた。

  いかんな。

  これは気持ちよさ過ぎる。
  返す刀で2匹、3匹と斬り捨てる。

  あっという間に斬り終えてしまった。もの足りん。

「陛下!流石でございます。いつの間に属性剣の魔法を習得なされたのですか?」
「ディーンよ、これは私の魔法ではない。ユリアの魔法だ」

  皆がユリアに視線を送る。

「よくやった。ここにいる皆を守ったのはユリアだ。誇るが良い。さぞフェンスも喜ぶであろう」
「~~っ!やった、あたしやれた!」

  成人の歳にはなったがまだまだ少女であるな。その嬉しそうな姿が真に微笑ましい、が──

「さて、喜んでばかりはいられぬぞ。落ちてしまったルーテの安否もあるが・・・、下にいる脅威を確認せねばの」

  この下から感じる禍禍しい気配。

  何がいるといるのかは分からんが・・・。
 
  これは本気でいかねばなるまい──





 #フェンス


  走り出そうとした儂の横に落ちてきたルーテ。
  何故上から落ちてきた?まさかあの時落ちた先がこの上だったとは言うまい。だが今はそんなことを考えている場合ではない。

  地面に突っ伏しているルーテを小脇に抱え、盾を構え魔人に全力で突進する。それに合わせアベルとジョルジュも左右に別れ火竜の元へと走り出す。

  魔人はそちらには目もくれず真っ直ぐ儂を見ている。挑発は上手くいっているようだ。

  儂は腕に目一杯力を込めてルーテを空にほうり投げる。

「うえぇっ?!キ、キャアアアァァァァ!!」

  少しだけ魔人の興味を引けたようだ。一瞬視線を上に向けた。儂はその隙に全力で魔人に突っ込む。強く地面を踏みしめ盾を突き出す。

『シールドバッシュっ!!』

  だが魔人はもうそこにいない。一瞬で裏に回られてしまう。

「そんなんじゃ僕には当たらないよ?」

  魔人は儂の背中に鋭い手刀を繰り出すが、それは予想済みだ。儂は突進の勢いを殺さずにもう一度地面を強く踏みしめる。

『シールドバッシュっ!!』

  更にスキルを重ね再加速する。そのまま火竜王の前に滑り込んだ。ほうり投げたルーテはアベルがしっかりと受け止めてくれたようだ。

「へぇー、そんな方法で僕の突きを躱すだなんて。君、面白すぎてゾクゾクしちゃうよ♪」
「・・・当てるつもりだったんだがな。こちらはまったく面白くない」

  さぁて、無事にここには辿り着けた。ここからどうするか。

『神盾を持つ者よ。してどうするつもりだ。一斉に攻撃でもするのか』
「火竜の王よ。それは今考えているところだ・・・」
『無策だと?それでは共闘の意味などないではないか』
「まぁ待て。今なら奴はまだ油断している。少しだけ考える時間をくれ!」

  火竜王の力無くしてはどうすることも出来ない。ただ、そのままブレスを奴に浴びせても効果はないだろう……。奴はどうやってブレスを防いだ?服が煤けていたのを見ると何もしなかったということは無い。それなら服が全て燃えている筈だ。盾で防いだのではないということは、あの一瞬で魔法の障壁を造り防いだという証拠。
  それならその障壁をどうにか出来れば奴に火竜王の強力なブレスを浴びせることが出来る!

  ではどうやって障壁を破壊するか。通常、火を防ぐには火に強い水属性の障壁を用いる。その場合障壁は青い色を伴う。
  しかし先程火のブレスに包まれた一瞬で青い色を見た覚えはない。ということは奴は属性を持たないただの魔力障壁で受けたはず。

  奴の態度を見るに儂らを逃がすつもりはないがまだ遊んでいるのだろう。きっとまたブレスを食らったとしても水の障壁ではなく魔力障壁で防ぐはず。
  魔力障壁は簡単に言えば魔力でガラスの様な盾を造る魔法だ。物理的な性質を持っているため強く叩けば破壊出来る。ただし強度はその者の魔力に比例するため生半可な攻撃では意味がない。

  今ある手駒で最大級の攻撃をするためには──
 
「火竜の王よ。先程のブレスより溜めが少なく且つ超高温を伴う攻撃が出来るか?」

『・・・人の子よ。我を何と心得る。火竜の王であるぞ、侮辱するつもりか?』
「ああいや、そういったつもりはない。奴に一泡吹かすための手段を確認をしただけだ」

  まず一手目はいける。次は──

「ルーテ!聞こえてるか?」
「ふぇっ?!はは、はいぃぃっ!!ななな、なんでございますかっ?!!」

  この状況で自分に話しかけられるとは思ってなかったのか、えらく慌てふためいている。

「まだ魔力は残っているな?水属性の上位、氷属性の魔法は使えるか?」
「えっ!?は、はい。上級の『アイシクルエッジ』くらいでしたら・・・」

  水属性上位、その上級の魔法を使えるとはなかなか優秀な魔法使いのようだな。せめて中級の『アイスバレット』でもとは思ったが。

  しかし、火竜王と同等の威力には遠く及ばないだろう。

  どうする?先程の火竜との戦いでジョルジュが氷属性の攻撃を使っているのは見た。同時に放てば威力は足りるか?

  いや。そうすると最後の一手が足りなくなる。アベルの剣では威力の面もあるが奴に接近をするリスクが伴う。あと一駒、高火力の一点攻撃か、高威力の水か氷属性の攻撃が必要だ。

  どうする──

「ねぇ?竜と人間が仲良く手を繋いで何が出来るのかは知らないけど、何もしてこないなら僕が先手を貰っていいかなぁ?」
「!!?」

  魔人の手のひらにこぶし大の漆黒の球体が浮かぶ。それは徐々に膨らみ魔人の頭と同じ程の大きさになる。それほど大きくはないがとてつもない禍禍しさと威圧を感じる。マズイ!

「チッ!  
『オーラシールドっ!』『フォートレスっ!』『ガーディアンフォースっ!』『イージスシールドっ!』『ファランクスっ!』

  ありったけのスキルを重ねがける。

「一発で終わったらつまらないから頑張って耐えてね?」

  構えた盾に凶悪な衝撃がぶつかる。これは無属性魔法か?!スキルの効果が無へと還され薄れていく。

「くそっ!アイギスっ!!」

(我が持ち手よ まだ魔人は余力を残している 我の力は 温存するべきだ)

  最後の手段はあるがアイギスの言う通りか。自力で耐えるしかない。

  しばらくして無の暴威は治まる。
  これを何発も防ぐのは厳しい・・・。早く手を考えなければ。

「おめでとう♪よく耐えれたね。さぁ次はそっちの番だよ?受けてあげるから精一杯頑張ってね」

  完全に遊ばれているようだが・・・、助かる。時間を稼げるのもあるがこれを何度か繰り返せば反撃のスキルも使える。

  だが、こちらの攻撃は何度も試せるものではない。一度失敗してしまえば対策をされてしまうだろう。・・・一回で決めなければ・・・。

「フェンス!!困っているようだな!」
「!?」

  どこからか聞きなれた声が響く。この声は──

  先程ルーテが落ちてきたであろう崖の上から、白いマントを翻し金色の長髪をなびかせた一人の男が華麗に飛び降りてきた。

  その手に青い光を纏った剣を握りしめて──
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