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加護の儀式と少女の願い
ジュリエット誘拐事件1
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あたしは今、おじいちゃんに言われるがまま治療院に来ている。おじいちゃんは先にダンダルさんへの用事を済ませてくるからって歩いていってしまった。
そんなあたしが今いるのはルシオス──の病室ではない。ルシオスは怪我の治りもよく、つい二日前に退院しているから。
あたしの目の前にいるのは、おじいちゃんの魔法の先生だっていうヨルニールさんと、おじいちゃんの盾の師匠だっていうギリアムさん。ギリアムさんは普段はこの街にはいなくてずっとどこかを旅してるらしいんだけど、昨日の夜に戻ってきていたみたい。
こうして治療院に来るのは久しぶりでヨルニールさんと会うのも二年ぶり?くらいなんだけど、ギリアムさんとはあたしがまだ小さかった頃に何度か会っただけだったけど、その姿は強く記憶に残っている。
おじいちゃんのと同じくらい大きくて長く使っている感じがよくわかる大盾と、あたしなんかよりかなり大きいおじいちゃんよりも大きな身体つき、なんと言っても珍しくて特徴的な黒い髪の色が十年くらい前から何も変わってないように見えた。
「お茶のお代りいるかい?」
「あっ、はい・・・。いただきます」
病人?らしいヨルニールさんが普通に動いてあたしのカップにお茶を注いでくれる。ヨルニールさんはあたしが知る前からこの治療院に入院しているみたいなんだけど、おじいちゃんはお見舞いにくる度にお酒とおつまみを持ってきて、平気で飲み食いしている。その姿を見てるととても病人には見えなくて、怪我した人や病気の人を一生懸命治しているおばあ様やこの治療院の治癒士さんたちを見てると、複雑な気持ちになって正直あまり会いたい人ではなかった。
注いでもらったお茶をひと口飲みカップを下げると同時に、視線を目の前のベッドに座っているもうひとりに向けた。
そこには、おじいちゃんより年上の二人がいるような病室には全然似合っていない"キレイなドレスを着た、キレイな金色のふわふわの髪のお人形さんみたいな女の子"が座っていた。
「ジュリエット王女もお代りいかがですか?」
「・・・いただきます」
すっと差し出されたカップにヨルニールさんはお茶を注ぐ。手元に引き寄せるとフーフーと軽く冷ましてからカップに口をつけた。
「──って、いやいやいや待って!ど、どうしてジュリちゃんがここにいて、どうして皆で普通にお茶を飲んでるのっ!?ジュリちゃんが連れ去られたって皆大騒ぎで、ってあれ?連れ去った大男ってやっぱりギリアムさんなの?そのわりにのんきにお茶を飲んでるけど・・・、ていうかどうして連れ去って・・・え?あれ?」
どうなってるのか全然理解が出来なくて、頭の中がこんがらがってきた。魔法の術式を組み立てるよりわけが分からない。
「・・・ユリアちゃん。お茶を飲んでまずは落ち着きなさい。もう一度説明してあげるから。ほら、お菓子もあるから。これなんて美味しいよ?」
あたしのカップにヨルニールさんがまたお茶を注いでくれる。どこからかお菓子の乗ったお皿も出てきて、焼き菓子をひとつ手に乗せてくれた。
あ・・・、ホントだ。美味しい──
「・・・っじゃなくて!ジュリちゃんが連れ去られそうだったから助けたって、逆じゃないの?それじゃエダさんが悪者みたいじゃない」
「・・・あの女騎士はエダという名前なのか。なかなか良い筋をしていたな。磨けば更に輝くだろう」
「お?ギリアムがそんなこと言うなんて珍しいね。そんなに有望株だったのかい?」
ヨルニールさんとギリアムさんはあたしの言葉なんて聞こえてないみたいに、楽しそうにお茶を飲み交わしていた。実は二人のカップの中身だけお酒なんじゃない?
「二人ともふざけないでくれませんっ?こんなとこで笑いながら話すようなことじゃないんですよ!」
バンッと机を叩き勢いよく立ち上がる。座っていた椅子も大きな音を立てて後ろに倒れた。
「っ!?・・・ユ、ユリアちゃん・・・。お二人の言ってることは本当なの・・・。私が、そう、言ったから。ギリアムさんは私を助けてくれただけなの・・・」
ジュリちゃんはあたしの立てた大きな音に驚きながらも、お茶の入ったカップを両手でギュッと掴み、なんとか聞こえるくらいの震えた声でそう言った。
「・・・えっ?じ、じゃあ、ジュリちゃんがそう言ったから、ギリアムさんはジュリちゃんを守ってここに連れて来たって言うの?!それで、エダさんがケガしたっていうの?!」
あたしは何だか我慢が出来なくなって、思わずそう叫んでしまった。別に攻めるつもりはなかったのに、あたしの言葉はきっとジュリちゃんを傷つけた──それは、ジュリちゃんの表情を見ただけで何となく分かった。
しばらくのあいだ、それまでヨルニールさん達の明るい声が聞こえていた病室の中は急に静かになって、あたしはこの部屋から逃げ出したい気持ちでいっぱいになって、でもジュリちゃんのことが気になって、さっきよりも頭の中がグチャグチャになっていった──
「・・・いや。悪いのは俺だ。何となく事情は分かっていたからな」
──んだけど、ギリアムさんの一言が頭のモヤモヤを吹き飛ばした。
「・・・え?どうゆうこと・・・?」
「言葉のままだ。この娘が本当は連れ去られそうになっていないことも、エダという女騎士が人攫いをするようなチンケな賊には見えなかったことも分かっていた。そうと分かっていて敢えて危害を加えたことも、娘をここに連れて来たことも、全部俺がやったことだ。この娘はただ言っただけだ」
ギリアムさんはジュリちゃんがウソを言ってるのが分かってて、それなのにエダさんにケガをさせたっていうの?なんでそんな──
「ちっ、違いますっ!?そ、それは、私がそうお願いしたから──」
「それが願いだったとしても、弱きものを、苦しんでいのものを、助けを求めているものを守るのが盾騎士だ。俺はその信念に従ったに過ぎない」
ギリアムさんのその言葉が、あたしの心と身体を強く揺さぶった──
あたしが憧れたおじいちゃんの冒険。あたしが守りたいと思ったおじいちゃんの弱さ。あたしを守ってくれたおじいちゃんの姿。なりたいと憧れた盾騎士の姿が──そこにあった。
ジュリちゃんは決してエダさんを傷つけたかったわけじゃない。ジュリちゃんこそが傷ついていたんだ。
「ま、まあ、少しやり過ぎたかもしれないが、あの騎士なら大丈夫だろうと感じたのでな。痕が残るような傷も付かないように配慮もしたつもりだが・・・、大丈夫だったか?」
「え?あ、それは、大丈夫だったみたいです・・・」
「そうか。それを聞いて安心した」
ギリアムさんの陰に隠れるようにしていたジュリちゃんもそれを聞いてか、少しだけ強張っていた身体が緩んだように見えた。
「いや~、相変わらずギリアムは格好良いねぇ。『信念に従ったに過ぎない』なんて、そうそう言える台詞じゃないのにねぇ~」
「・・・ヨルニール。言葉には気を付けろよ」
「おっと!恐い恐い。二人とも騙されちゃ駄目だよ。こいつは本当はムッツリなんだから」
「む・・・むっつり??」
「・・・ヨルニールっ」
「ちょっ、じ、冗談だよ。冗談」
「・・・ぷっ」
そんな二人のやりとりに思わず吹き出してしまった。目の前のジュリちゃんにも少し笑顔が戻っていた。
「本当、ギリアムは冗談が通じないんだから。さぁて、緊張も解れたところで、ユリアちゃんもジュリエット王女も、仲直りしようか?誰も悪くなんかないんだからね」
ヨルニールさんはあたしとジュリちゃんの間に立つとそれぞれの手を掴み付き合わせた。あたしはその手を恐々と開きジュリちゃんに向けた。
「・・・ジ、ジュリちゃん。ご、ごめんね。・・・あたし、ジュリちゃんの気持ちを考えてなかった。ジュリちゃんがそんなことするはずないのにね?」
「・・・わ、私こそごめんなさい。ユリアちゃんにも嫌な思いをさせちゃったよね・・・。エダさんにも謝らなきゃね」
ジュリちゃんはその手をしっかりと掴んでくれた。その手は何も変わらず、柔らかくて気持ちの良い手だった。
「その感じだと互いに事情を分かりあえたようだな。ジュリエットを連れ去ったのも、思った通りギリアムだったか。相変わらず無茶をするもんだ」
あたしの後ろ、開いたままになっていた部屋の入口からそんな声が聞こえた。
「無茶はお前の専売特許だろう?これが無茶だと言うならば、お前のそれは無茶苦茶だな」
「ははっ!ギリアム、上手いこと言うね」
「・・・ヨルニール先生も似たようなものですよ」
そこには、おじいちゃんが立っていた。この三人の関係は、フリオおじさんとはまた違った安心感が溢れていた。
「ふふっ」
ジュリちゃんもそのやりとりに笑顔をこぼしていた。
「さて。これからどうするか。ジュリエットはどうしたい?フリオニールを思い切り驚かせてやるか?安心しろ。ここにいる皆は、お前の味方だからな──
そんなあたしが今いるのはルシオス──の病室ではない。ルシオスは怪我の治りもよく、つい二日前に退院しているから。
あたしの目の前にいるのは、おじいちゃんの魔法の先生だっていうヨルニールさんと、おじいちゃんの盾の師匠だっていうギリアムさん。ギリアムさんは普段はこの街にはいなくてずっとどこかを旅してるらしいんだけど、昨日の夜に戻ってきていたみたい。
こうして治療院に来るのは久しぶりでヨルニールさんと会うのも二年ぶり?くらいなんだけど、ギリアムさんとはあたしがまだ小さかった頃に何度か会っただけだったけど、その姿は強く記憶に残っている。
おじいちゃんのと同じくらい大きくて長く使っている感じがよくわかる大盾と、あたしなんかよりかなり大きいおじいちゃんよりも大きな身体つき、なんと言っても珍しくて特徴的な黒い髪の色が十年くらい前から何も変わってないように見えた。
「お茶のお代りいるかい?」
「あっ、はい・・・。いただきます」
病人?らしいヨルニールさんが普通に動いてあたしのカップにお茶を注いでくれる。ヨルニールさんはあたしが知る前からこの治療院に入院しているみたいなんだけど、おじいちゃんはお見舞いにくる度にお酒とおつまみを持ってきて、平気で飲み食いしている。その姿を見てるととても病人には見えなくて、怪我した人や病気の人を一生懸命治しているおばあ様やこの治療院の治癒士さんたちを見てると、複雑な気持ちになって正直あまり会いたい人ではなかった。
注いでもらったお茶をひと口飲みカップを下げると同時に、視線を目の前のベッドに座っているもうひとりに向けた。
そこには、おじいちゃんより年上の二人がいるような病室には全然似合っていない"キレイなドレスを着た、キレイな金色のふわふわの髪のお人形さんみたいな女の子"が座っていた。
「ジュリエット王女もお代りいかがですか?」
「・・・いただきます」
すっと差し出されたカップにヨルニールさんはお茶を注ぐ。手元に引き寄せるとフーフーと軽く冷ましてからカップに口をつけた。
「──って、いやいやいや待って!ど、どうしてジュリちゃんがここにいて、どうして皆で普通にお茶を飲んでるのっ!?ジュリちゃんが連れ去られたって皆大騒ぎで、ってあれ?連れ去った大男ってやっぱりギリアムさんなの?そのわりにのんきにお茶を飲んでるけど・・・、ていうかどうして連れ去って・・・え?あれ?」
どうなってるのか全然理解が出来なくて、頭の中がこんがらがってきた。魔法の術式を組み立てるよりわけが分からない。
「・・・ユリアちゃん。お茶を飲んでまずは落ち着きなさい。もう一度説明してあげるから。ほら、お菓子もあるから。これなんて美味しいよ?」
あたしのカップにヨルニールさんがまたお茶を注いでくれる。どこからかお菓子の乗ったお皿も出てきて、焼き菓子をひとつ手に乗せてくれた。
あ・・・、ホントだ。美味しい──
「・・・っじゃなくて!ジュリちゃんが連れ去られそうだったから助けたって、逆じゃないの?それじゃエダさんが悪者みたいじゃない」
「・・・あの女騎士はエダという名前なのか。なかなか良い筋をしていたな。磨けば更に輝くだろう」
「お?ギリアムがそんなこと言うなんて珍しいね。そんなに有望株だったのかい?」
ヨルニールさんとギリアムさんはあたしの言葉なんて聞こえてないみたいに、楽しそうにお茶を飲み交わしていた。実は二人のカップの中身だけお酒なんじゃない?
「二人ともふざけないでくれませんっ?こんなとこで笑いながら話すようなことじゃないんですよ!」
バンッと机を叩き勢いよく立ち上がる。座っていた椅子も大きな音を立てて後ろに倒れた。
「っ!?・・・ユ、ユリアちゃん・・・。お二人の言ってることは本当なの・・・。私が、そう、言ったから。ギリアムさんは私を助けてくれただけなの・・・」
ジュリちゃんはあたしの立てた大きな音に驚きながらも、お茶の入ったカップを両手でギュッと掴み、なんとか聞こえるくらいの震えた声でそう言った。
「・・・えっ?じ、じゃあ、ジュリちゃんがそう言ったから、ギリアムさんはジュリちゃんを守ってここに連れて来たって言うの?!それで、エダさんがケガしたっていうの?!」
あたしは何だか我慢が出来なくなって、思わずそう叫んでしまった。別に攻めるつもりはなかったのに、あたしの言葉はきっとジュリちゃんを傷つけた──それは、ジュリちゃんの表情を見ただけで何となく分かった。
しばらくのあいだ、それまでヨルニールさん達の明るい声が聞こえていた病室の中は急に静かになって、あたしはこの部屋から逃げ出したい気持ちでいっぱいになって、でもジュリちゃんのことが気になって、さっきよりも頭の中がグチャグチャになっていった──
「・・・いや。悪いのは俺だ。何となく事情は分かっていたからな」
──んだけど、ギリアムさんの一言が頭のモヤモヤを吹き飛ばした。
「・・・え?どうゆうこと・・・?」
「言葉のままだ。この娘が本当は連れ去られそうになっていないことも、エダという女騎士が人攫いをするようなチンケな賊には見えなかったことも分かっていた。そうと分かっていて敢えて危害を加えたことも、娘をここに連れて来たことも、全部俺がやったことだ。この娘はただ言っただけだ」
ギリアムさんはジュリちゃんがウソを言ってるのが分かってて、それなのにエダさんにケガをさせたっていうの?なんでそんな──
「ちっ、違いますっ!?そ、それは、私がそうお願いしたから──」
「それが願いだったとしても、弱きものを、苦しんでいのものを、助けを求めているものを守るのが盾騎士だ。俺はその信念に従ったに過ぎない」
ギリアムさんのその言葉が、あたしの心と身体を強く揺さぶった──
あたしが憧れたおじいちゃんの冒険。あたしが守りたいと思ったおじいちゃんの弱さ。あたしを守ってくれたおじいちゃんの姿。なりたいと憧れた盾騎士の姿が──そこにあった。
ジュリちゃんは決してエダさんを傷つけたかったわけじゃない。ジュリちゃんこそが傷ついていたんだ。
「ま、まあ、少しやり過ぎたかもしれないが、あの騎士なら大丈夫だろうと感じたのでな。痕が残るような傷も付かないように配慮もしたつもりだが・・・、大丈夫だったか?」
「え?あ、それは、大丈夫だったみたいです・・・」
「そうか。それを聞いて安心した」
ギリアムさんの陰に隠れるようにしていたジュリちゃんもそれを聞いてか、少しだけ強張っていた身体が緩んだように見えた。
「いや~、相変わらずギリアムは格好良いねぇ。『信念に従ったに過ぎない』なんて、そうそう言える台詞じゃないのにねぇ~」
「・・・ヨルニール。言葉には気を付けろよ」
「おっと!恐い恐い。二人とも騙されちゃ駄目だよ。こいつは本当はムッツリなんだから」
「む・・・むっつり??」
「・・・ヨルニールっ」
「ちょっ、じ、冗談だよ。冗談」
「・・・ぷっ」
そんな二人のやりとりに思わず吹き出してしまった。目の前のジュリちゃんにも少し笑顔が戻っていた。
「本当、ギリアムは冗談が通じないんだから。さぁて、緊張も解れたところで、ユリアちゃんもジュリエット王女も、仲直りしようか?誰も悪くなんかないんだからね」
ヨルニールさんはあたしとジュリちゃんの間に立つとそれぞれの手を掴み付き合わせた。あたしはその手を恐々と開きジュリちゃんに向けた。
「・・・ジ、ジュリちゃん。ご、ごめんね。・・・あたし、ジュリちゃんの気持ちを考えてなかった。ジュリちゃんがそんなことするはずないのにね?」
「・・・わ、私こそごめんなさい。ユリアちゃんにも嫌な思いをさせちゃったよね・・・。エダさんにも謝らなきゃね」
ジュリちゃんはその手をしっかりと掴んでくれた。その手は何も変わらず、柔らかくて気持ちの良い手だった。
「その感じだと互いに事情を分かりあえたようだな。ジュリエットを連れ去ったのも、思った通りギリアムだったか。相変わらず無茶をするもんだ」
あたしの後ろ、開いたままになっていた部屋の入口からそんな声が聞こえた。
「無茶はお前の専売特許だろう?これが無茶だと言うならば、お前のそれは無茶苦茶だな」
「ははっ!ギリアム、上手いこと言うね」
「・・・ヨルニール先生も似たようなものですよ」
そこには、おじいちゃんが立っていた。この三人の関係は、フリオおじさんとはまた違った安心感が溢れていた。
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