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本編
キャサリンちゃん(後)①
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キャサリンちゃん襲撃事件から一夜明けた。
ポワソン少年に起こされて目覚めた俺はまた腰周りに違和感を覚える。
案の定布団を捲ってみれば、俺の腰に抱き着くように腕を回した綺麗な金髪王子が、スヤスヤと寝息を立てていた。
学習能力の高い俺は、昨日のポワソン少年の対応を思い出すと早速試みた。
「おい王子! 早く起きて布団から出ていかなかったら、もう口利かないからな!」
聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟くと、面白いくらいにガバッと跳ね起きた。
「くっ……お前、面白いな……」
あまりに分かりやすい慌てぶりに思わず笑ってしまう。
そんな俺の様子を見た王子は、顔を真っ赤にしてバツが悪そうにベッドから降りた。
どうにか平静を装った王子はいつものキラキラスマイルを取り繕っているが、さっきの激しい慌てぶりはしっかり見たしもう手遅れだぞ。
「姫、おはようございます。また朝食でお会いしましょう。では失礼します」
やっぱり恥ずかしいのか、早口でそう言うと足早に隣の自室に戻って行った。
朝の支度をしてくれているポワソン少年に、「俺にも追っ払えた」って嬉々として報告したら呆れた顔をされたんだが……。
それはどっちに対しての反応だ?
勿論王子だよな?
俺の今日の予定は、執事のロイさんにこの国について教えてもらうことになっている。
王子は何か色々やることがあるらしくて、夕食まで会わずに済むらしい。
「姫と離れて過ごさなければならないなんて、私には耐え難いことなのです……。ほんの一時でも離れ難いというのに、今日は夕食までお会いできそうにありません。ロイのことは信頼しています。しかし、他の男に姫を託さなければならない私の気持ちが、少しでも姫に伝わればいいのですが……。私はいつでも姫のお側に居たいのですから」
朝食を食べ終えたら、さっきのことはまるでなかったことのようにいつもの調子に戻っていて、くさいセリフを芝居がかった身振りでそう言った。
長いセリフをポカンと聞いていたから、油断していた!
素早い動きで手を握られて、手の甲にチューされてしまった……。
吃驚して慌てて振りほどいたけど、流れる様にそのまま頬っぺたにまでチュッと音を立ててキスをして去っていった。
「そういうの止めろよっ!」
男同士に偏見はないけど、俺の恋愛対象は女の子なんだからそんなにグイグイ来られても拒絶の気持ちしか湧かないぞ!
それに、俺は受け入るなんて一言も言ってないし、王子とは何の関係でもないんだから止めろっ!
咄嗟に文句を言ったけど、足早に食堂を後にする王子には聞こえなかったかもしれない。
クソッ! すっかり油断していた!
それに二日連続で布団に潜り込まれていたことも腹が立つ!
隣の部屋と繋がってるドアから王子は入って来てるんだよな?
そうだなそれなら、今日の夜はドアが開かないように塞いでみるか。
決意を固めると、俺も部屋に戻ってロイさんが来るのを待つことにした。
ポワソン少年と雑談をしてロイさんが来るのを待つ。
すると10才位だと思ってたポワソン少年が実は16才で、俺と2才しか変わらないということが分かった。
彼が言うには家系的に成長期が遅いらしく、まだ小さいんだって。
それから、貴族の三男だと教えてくれた。
お城の身分の高い人に付く専属侍従は、ある程度しっかりした身分の人じゃないとなれないらしい。
だからちょこちょこ所作が綺麗で、品があるんだなと一人納得。
でも、折角貴族の家に生まれたのに、こんなところで何でメイドみたいなことしてるんだろう?
疑問に思って聞いてみると、後取りになる長男とそのスペアの次男以降は行儀見習いとして格上の貴族の元に働きに行くことがあるんだと教えてくれた。
「ふ~ん。ポワソンは何かなりたいものとかなかったの?」
「なりたいものですか?」
「そう。家を継がなくていいならさ、好きな仕事選べば良いんじゃないかなって思って」
貴族の風習とか全然知らないから、純粋に折角家柄が良いのに勿体ないと思ってしまう。
「そうですね……。中にはそういう方もいらっしゃいますが、ワタクシは特にやりたいことなどがありませんでしたので、いつか見た王宮で働けたらと思っていました。そこで運良く侍従の募集がありましたので、この度は応募させていただきました」
「じゃあ元々ポワソンはお城で働きたかったの?」
「はい。そうなりますね。しかしまさか、畏れ多くも精霊姫様のお世話をさせていただく光栄な役を賜ることになるなど、大変恐縮しております」
「そんな畏まらなくていいって。俺こんなんだしポワソンとは仲良くやりたいしねww」
「有り難きお言葉です」
「本当は敬語とかもやめてもらいたいくらいだけど、そういう訳にはいかないだろ? だから、せめてもっと気軽に接して欲しいかな。例えば昨日の朝王子に「嫌われますよ」って言ったみたいにさ」
ポワソン少年をからかって遊んでいると、ドアをノックする音が聞こえてロイさんが部屋に入ってきた。
俺はこの世界のことを知らなすぎるから、色々と状況を把握するためにも知識を得る必要がある。
ロイさんはまず、精霊王のことを教えてくれた。
精霊王は沢山の世界にいる精霊たちの唯一の王であり、この精霊王のみが色々な世界を行き来出来るらしい。
その精霊王が愛し子の存在を見付けた時に加護を与えて、ある程度無事に育ったらこの国の王族に存在を知らせるんだって。
何である程度無事に育ってからかというと、お守りの精霊をつけているから大体の場合は問題なく育つんだけど、稀に病気なんかで亡くなることもあるかららしい。
それで召喚して王族の伴侶になるのが通例だとか……。
何故、数多くの世界と国がある中でこの国に精霊姫を召喚させるのという話を聞くと、やっぱり理不尽で気に入らないと思った。
元々精霊王が生まれたのがこの国がある場所だったから。
精霊王は、人間が生まれる遥か前から存在してたいたんだけど、この生まれた場所に思い入れがあった。
故にそこを豊かにするために王族に加護を与え、愛し子を授けて益々国が繁栄して魔力の強い子孫が残せるようにしたんだって。
自分の生まれ故郷を栄えさせるために精霊姫っていう道具を与えてるみたいでムカつく。
精霊姫って言ったって、それまでそれぞれの人生を歩んで来た訳だよ。
それがいきなり召喚と言う名の拉致をされた上に、勝手に嫁がされて子供生まされるとかさ、本当ヒトの人生何だと思ってるんだよ。
俺のこの考え方は、感覚の違う精霊のセインには勿論分かってもらえなかったんだけど、同じ人間であるポワソン少年やロイさんも分かってくれなかった。
彼らが言うには、精霊王に選ばれた精霊姫という立場は大変名誉なことで、更にエメラルド国の王族の伴侶になれるんだから、誇れることであって受け入れないとか怒るとかっていう気持ちが理解できないんだって。
これはある意味、この国の教育による洗脳だろう。
名誉なことなんだと教えられて育ってるから、何の疑問にも思わないし、逆に俺みたいに拒否っている方の考え方の方が信じられないんだろうな。
だからって、そんなの知らねぇよ。
そんなに名誉だとか言って羨まれることなんだったら、今すぐ希望者に譲ってやるよ!
俺がイライラしてるのが伝わったのか、ロイさんが休憩にすると言った。
ポワソン少年がお茶を用意してくれたから、少しささくれ立っていた気持ちを落ち着かせることが出来た。
休憩も終わり一息つくと、今度はこの国のほとんどの人たちが子供の頃に読むという精霊姫の絵本を見せてくれた。
そこには精霊王に愛された綺麗なお姫様が、素敵な王子様と結婚して沢山の魔力の強い子孫を残し、いかに国を豊かにすることに貢献したのかが描かれていた。
ロイさんが言うには、王子もこの絵本が大好きで、自分の代に精霊姫が現れるのを夢見ていたらしい。
それでまさかの精霊姫の存在を精霊王から聞いて、興奮してすぐに召喚しちゃったということだ。
でもさ、期待に胸を膨らませてそ召喚して出てきたのが、俺みたいな姫とは程遠い普通の男でガッカリしたんじゃね?
俺の意見を正直に言うと、二人してもげそうなくらいブンブン首を振って否定するからちょっと笑えた。
俺からしたらポワソン少年やロイさんの方が綺麗な顔してるって思うんだけど、この世界の人にとっては俺みたいな顔付きの方が広く好まれるらしい。
それに黒髪茶目も|貴(とうと)ばれる色なんだって。
日本にいたらゴロゴロいるけどな(笑)
そういえば王子も、キャサリンちゃんに向かって、俺のこの色味を黒曜石やらブラウンダイヤモンドやらって恥ずかしい例えを出して誉めていたな……。
思わず遠い目をして現実逃避したくなるな。
しかし、ああいう口説き文句みたいなキザなやつをスラスラ言えるのは真剣に凄いと思う。
日本人は奥ゆかしい人種だから、そんなの身近になかったし居た堪れない気持ちになるし恥ずかしいだけだから今後はやめてほしいけどな。
海外ドラマなんか見てたら息を吸うようにスラスラとキザったらしいセリフで口説いているから、外国の人なら普通なのかもしれないけど、耐性のない俺には難易度が高い。
話がそれちゃったけど、この世界では俺は美形に当たるらしいんだ。
俺から言わせれば、ただの童顔なだけの日本人なんだけどね。
昼食を食べ終わった後、体を動かしたいから散歩に行きたいって言ったんだけど、昨日のことがあるから今日は部屋にいて欲しいとお願いされてしまった……。
でも俺は18才の健全な男子なんだから、じっとしてるのも苦痛なんだよ。
暇をつぶせるようなゲームもテレビも漫画もないし!
娯楽がなさ過ぎる!
しばらくはぼんやりしていたんだけど、すぐに飽きてしまった。
体が鈍るのも嫌だし、ラジオ体操でもやろうかと何となくの鼻歌を歌いながらやり始めた。
俺の突然の行動に、ロイさんとポワソン少年は変なものを見るような目で見てきたから、元の世界の体操だと説明して取り合えず一緒にやってもらうことにした。
口で説明するだけじゃ、しっかりと理解は出来ないだろうから、やってみるのが一番!
百聞は一見に如かず?
習うより慣れろ?
まあことわざは良く分からないけど、取り合えずやれば分かるってことだ。
一回やったくらいじゃ全然疲れないし、体力が有り余ってるから続けて三回やった。
そしたらだいぶ体が温まってきて良い感じの疲労感だ。
体操を終えたら、二人が俺のいた世界のことを教えて欲しいって言うから色々なことを教えた。
室内でも出来る体を動かすことを考えていたら、ボーリングを思い出す。
ボーリングならここでも出来そうじゃね? ってことで、ボールとピンになりそうなビンを用意してもらう。
早速やってみると、ポワソン少年が以外と上手くてなかなかに盛り上がって面白かった。
点数の付け方なんて細かいルールは分からないから、取り合えず倒したピンの数の合計で競い合った。
夕食で一緒になった王子が「今日はどの様に過ごされたのですか?」って聞くから、ロイさんと勉強してからポワソンと三人で体操したり遊んだりしたって言った。
そしたら引くぐらい物凄い食い付いてきて、「次回は是非私もご一緒させてください!」だって!
その後ロイさんに狡い的なことをブツブツ言って絡んでたのは何か気の毒だったな。
色々済ませてからさあ寝るぞって時に、隣室と繋がるドアを塞ぐことを思い出して、ポワソン少年の手伝いを借りて、ソファーやテーブルなど動かしてドアが開かないようにした。
ここまでやれば王子は入ってこれないだろっ!
そう勝利を確信して安心した俺は眠りに就いた。
ポワソン少年に起こされて目覚めた俺はまた腰周りに違和感を覚える。
案の定布団を捲ってみれば、俺の腰に抱き着くように腕を回した綺麗な金髪王子が、スヤスヤと寝息を立てていた。
学習能力の高い俺は、昨日のポワソン少年の対応を思い出すと早速試みた。
「おい王子! 早く起きて布団から出ていかなかったら、もう口利かないからな!」
聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟くと、面白いくらいにガバッと跳ね起きた。
「くっ……お前、面白いな……」
あまりに分かりやすい慌てぶりに思わず笑ってしまう。
そんな俺の様子を見た王子は、顔を真っ赤にしてバツが悪そうにベッドから降りた。
どうにか平静を装った王子はいつものキラキラスマイルを取り繕っているが、さっきの激しい慌てぶりはしっかり見たしもう手遅れだぞ。
「姫、おはようございます。また朝食でお会いしましょう。では失礼します」
やっぱり恥ずかしいのか、早口でそう言うと足早に隣の自室に戻って行った。
朝の支度をしてくれているポワソン少年に、「俺にも追っ払えた」って嬉々として報告したら呆れた顔をされたんだが……。
それはどっちに対しての反応だ?
勿論王子だよな?
俺の今日の予定は、執事のロイさんにこの国について教えてもらうことになっている。
王子は何か色々やることがあるらしくて、夕食まで会わずに済むらしい。
「姫と離れて過ごさなければならないなんて、私には耐え難いことなのです……。ほんの一時でも離れ難いというのに、今日は夕食までお会いできそうにありません。ロイのことは信頼しています。しかし、他の男に姫を託さなければならない私の気持ちが、少しでも姫に伝わればいいのですが……。私はいつでも姫のお側に居たいのですから」
朝食を食べ終えたら、さっきのことはまるでなかったことのようにいつもの調子に戻っていて、くさいセリフを芝居がかった身振りでそう言った。
長いセリフをポカンと聞いていたから、油断していた!
素早い動きで手を握られて、手の甲にチューされてしまった……。
吃驚して慌てて振りほどいたけど、流れる様にそのまま頬っぺたにまでチュッと音を立ててキスをして去っていった。
「そういうの止めろよっ!」
男同士に偏見はないけど、俺の恋愛対象は女の子なんだからそんなにグイグイ来られても拒絶の気持ちしか湧かないぞ!
それに、俺は受け入るなんて一言も言ってないし、王子とは何の関係でもないんだから止めろっ!
咄嗟に文句を言ったけど、足早に食堂を後にする王子には聞こえなかったかもしれない。
クソッ! すっかり油断していた!
それに二日連続で布団に潜り込まれていたことも腹が立つ!
隣の部屋と繋がってるドアから王子は入って来てるんだよな?
そうだなそれなら、今日の夜はドアが開かないように塞いでみるか。
決意を固めると、俺も部屋に戻ってロイさんが来るのを待つことにした。
ポワソン少年と雑談をしてロイさんが来るのを待つ。
すると10才位だと思ってたポワソン少年が実は16才で、俺と2才しか変わらないということが分かった。
彼が言うには家系的に成長期が遅いらしく、まだ小さいんだって。
それから、貴族の三男だと教えてくれた。
お城の身分の高い人に付く専属侍従は、ある程度しっかりした身分の人じゃないとなれないらしい。
だからちょこちょこ所作が綺麗で、品があるんだなと一人納得。
でも、折角貴族の家に生まれたのに、こんなところで何でメイドみたいなことしてるんだろう?
疑問に思って聞いてみると、後取りになる長男とそのスペアの次男以降は行儀見習いとして格上の貴族の元に働きに行くことがあるんだと教えてくれた。
「ふ~ん。ポワソンは何かなりたいものとかなかったの?」
「なりたいものですか?」
「そう。家を継がなくていいならさ、好きな仕事選べば良いんじゃないかなって思って」
貴族の風習とか全然知らないから、純粋に折角家柄が良いのに勿体ないと思ってしまう。
「そうですね……。中にはそういう方もいらっしゃいますが、ワタクシは特にやりたいことなどがありませんでしたので、いつか見た王宮で働けたらと思っていました。そこで運良く侍従の募集がありましたので、この度は応募させていただきました」
「じゃあ元々ポワソンはお城で働きたかったの?」
「はい。そうなりますね。しかしまさか、畏れ多くも精霊姫様のお世話をさせていただく光栄な役を賜ることになるなど、大変恐縮しております」
「そんな畏まらなくていいって。俺こんなんだしポワソンとは仲良くやりたいしねww」
「有り難きお言葉です」
「本当は敬語とかもやめてもらいたいくらいだけど、そういう訳にはいかないだろ? だから、せめてもっと気軽に接して欲しいかな。例えば昨日の朝王子に「嫌われますよ」って言ったみたいにさ」
ポワソン少年をからかって遊んでいると、ドアをノックする音が聞こえてロイさんが部屋に入ってきた。
俺はこの世界のことを知らなすぎるから、色々と状況を把握するためにも知識を得る必要がある。
ロイさんはまず、精霊王のことを教えてくれた。
精霊王は沢山の世界にいる精霊たちの唯一の王であり、この精霊王のみが色々な世界を行き来出来るらしい。
その精霊王が愛し子の存在を見付けた時に加護を与えて、ある程度無事に育ったらこの国の王族に存在を知らせるんだって。
何である程度無事に育ってからかというと、お守りの精霊をつけているから大体の場合は問題なく育つんだけど、稀に病気なんかで亡くなることもあるかららしい。
それで召喚して王族の伴侶になるのが通例だとか……。
何故、数多くの世界と国がある中でこの国に精霊姫を召喚させるのという話を聞くと、やっぱり理不尽で気に入らないと思った。
元々精霊王が生まれたのがこの国がある場所だったから。
精霊王は、人間が生まれる遥か前から存在してたいたんだけど、この生まれた場所に思い入れがあった。
故にそこを豊かにするために王族に加護を与え、愛し子を授けて益々国が繁栄して魔力の強い子孫が残せるようにしたんだって。
自分の生まれ故郷を栄えさせるために精霊姫っていう道具を与えてるみたいでムカつく。
精霊姫って言ったって、それまでそれぞれの人生を歩んで来た訳だよ。
それがいきなり召喚と言う名の拉致をされた上に、勝手に嫁がされて子供生まされるとかさ、本当ヒトの人生何だと思ってるんだよ。
俺のこの考え方は、感覚の違う精霊のセインには勿論分かってもらえなかったんだけど、同じ人間であるポワソン少年やロイさんも分かってくれなかった。
彼らが言うには、精霊王に選ばれた精霊姫という立場は大変名誉なことで、更にエメラルド国の王族の伴侶になれるんだから、誇れることであって受け入れないとか怒るとかっていう気持ちが理解できないんだって。
これはある意味、この国の教育による洗脳だろう。
名誉なことなんだと教えられて育ってるから、何の疑問にも思わないし、逆に俺みたいに拒否っている方の考え方の方が信じられないんだろうな。
だからって、そんなの知らねぇよ。
そんなに名誉だとか言って羨まれることなんだったら、今すぐ希望者に譲ってやるよ!
俺がイライラしてるのが伝わったのか、ロイさんが休憩にすると言った。
ポワソン少年がお茶を用意してくれたから、少しささくれ立っていた気持ちを落ち着かせることが出来た。
休憩も終わり一息つくと、今度はこの国のほとんどの人たちが子供の頃に読むという精霊姫の絵本を見せてくれた。
そこには精霊王に愛された綺麗なお姫様が、素敵な王子様と結婚して沢山の魔力の強い子孫を残し、いかに国を豊かにすることに貢献したのかが描かれていた。
ロイさんが言うには、王子もこの絵本が大好きで、自分の代に精霊姫が現れるのを夢見ていたらしい。
それでまさかの精霊姫の存在を精霊王から聞いて、興奮してすぐに召喚しちゃったということだ。
でもさ、期待に胸を膨らませてそ召喚して出てきたのが、俺みたいな姫とは程遠い普通の男でガッカリしたんじゃね?
俺の意見を正直に言うと、二人してもげそうなくらいブンブン首を振って否定するからちょっと笑えた。
俺からしたらポワソン少年やロイさんの方が綺麗な顔してるって思うんだけど、この世界の人にとっては俺みたいな顔付きの方が広く好まれるらしい。
それに黒髪茶目も|貴(とうと)ばれる色なんだって。
日本にいたらゴロゴロいるけどな(笑)
そういえば王子も、キャサリンちゃんに向かって、俺のこの色味を黒曜石やらブラウンダイヤモンドやらって恥ずかしい例えを出して誉めていたな……。
思わず遠い目をして現実逃避したくなるな。
しかし、ああいう口説き文句みたいなキザなやつをスラスラ言えるのは真剣に凄いと思う。
日本人は奥ゆかしい人種だから、そんなの身近になかったし居た堪れない気持ちになるし恥ずかしいだけだから今後はやめてほしいけどな。
海外ドラマなんか見てたら息を吸うようにスラスラとキザったらしいセリフで口説いているから、外国の人なら普通なのかもしれないけど、耐性のない俺には難易度が高い。
話がそれちゃったけど、この世界では俺は美形に当たるらしいんだ。
俺から言わせれば、ただの童顔なだけの日本人なんだけどね。
昼食を食べ終わった後、体を動かしたいから散歩に行きたいって言ったんだけど、昨日のことがあるから今日は部屋にいて欲しいとお願いされてしまった……。
でも俺は18才の健全な男子なんだから、じっとしてるのも苦痛なんだよ。
暇をつぶせるようなゲームもテレビも漫画もないし!
娯楽がなさ過ぎる!
しばらくはぼんやりしていたんだけど、すぐに飽きてしまった。
体が鈍るのも嫌だし、ラジオ体操でもやろうかと何となくの鼻歌を歌いながらやり始めた。
俺の突然の行動に、ロイさんとポワソン少年は変なものを見るような目で見てきたから、元の世界の体操だと説明して取り合えず一緒にやってもらうことにした。
口で説明するだけじゃ、しっかりと理解は出来ないだろうから、やってみるのが一番!
百聞は一見に如かず?
習うより慣れろ?
まあことわざは良く分からないけど、取り合えずやれば分かるってことだ。
一回やったくらいじゃ全然疲れないし、体力が有り余ってるから続けて三回やった。
そしたらだいぶ体が温まってきて良い感じの疲労感だ。
体操を終えたら、二人が俺のいた世界のことを教えて欲しいって言うから色々なことを教えた。
室内でも出来る体を動かすことを考えていたら、ボーリングを思い出す。
ボーリングならここでも出来そうじゃね? ってことで、ボールとピンになりそうなビンを用意してもらう。
早速やってみると、ポワソン少年が以外と上手くてなかなかに盛り上がって面白かった。
点数の付け方なんて細かいルールは分からないから、取り合えず倒したピンの数の合計で競い合った。
夕食で一緒になった王子が「今日はどの様に過ごされたのですか?」って聞くから、ロイさんと勉強してからポワソンと三人で体操したり遊んだりしたって言った。
そしたら引くぐらい物凄い食い付いてきて、「次回は是非私もご一緒させてください!」だって!
その後ロイさんに狡い的なことをブツブツ言って絡んでたのは何か気の毒だったな。
色々済ませてからさあ寝るぞって時に、隣室と繋がるドアを塞ぐことを思い出して、ポワソン少年の手伝いを借りて、ソファーやテーブルなど動かしてドアが開かないようにした。
ここまでやれば王子は入ってこれないだろっ!
そう勝利を確信して安心した俺は眠りに就いた。
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