そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜

文字の大きさ
50 / 365
第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~

48話

しおりを挟む








 小雨が止まずに降り続く中、ナスカたちは辿り着いたカラメル街道を歩いていた。
 かつて『スラム街道』として名を馳せていたこの道の店店は、新国家誕生を気に衰退の一途を辿った。
 争いによって焼け野原となった地を新たに開拓するため、貧民たちへ新国王が呼びかけたからだ。
 それも、国王直々に貧民たちのもとへ赴き、わざわざ願い出たのだという。
 更に開拓の助成もしてくれるとなれば多くの貧民たちは早速新天地へ向かい、この街道から去って行った。
 こうして客であった民たちが居なくなり、街道の店店は次々と閉店に追い込まれた。
 今でこそかつての賑やかさを取り戻しつつあるものの、未だに閉店した店舗が手つかずのまま廃墟と化しているのにはそう言った過程があったからだ。
 と、ハイリは以前目を通した資料の記述を思い出す。



 ナスカが目的地とする『ヴェムラ』も、元は集合住宅であったようだが、今はただの廃墟らしく。
 立ち入り禁止の立て札が立ててあるのみで、人が住んでいる様子は全く無い。

「こんなところに、ジャスさんが……」

 地図に目を通した時からハイリには一抹の不安があった。
 連日の火災事件同様、今回もまたカラメル街道の一角。なのだ。
 更には『ヴェムラ』という闇言順らしき単語。
 ここ最近目撃していたアーサガの言動、そしてジャスの正体。
 それらはもしかすると一本に繋がるのではと、ハイリは今更に推測する。

(やっぱりこんな場所に許可なく来るべきではなかった…軍に報告した方が良かったのかもしれない…でもそうしたら、この子は絶対一人で行ってしまう…)

 ナスカの手を強く握り締め、ハイリは意を決し、唇を堅く結びながら建物へと踏み込んでいく。
 ナスカも同じく、真剣な面持ちで彼女の隣を歩いていた。




 
 かつて“ヴェムラ”と呼ばれていた廃屋。
 そのいくつかある扉のうち、釘や木板が打ち付けられていない扉が一つだけあった。
 此処まで来て足が竦み始めるものの、ナスカとの約束がある。
 ハイリは勇気を振り絞ってドアノブを握った。
 冷たいと感じない金属製のドアノブはゆっくりと回り、扉が開かれていく。
 室内は薄暗く、廃屋らしい埃っぽい空気が広がっている。

「ナスカちゃんは此処で待って―――」
「ナスカも行く」

 そう言ってハイリを見つめる真剣な眼差し。
 駄目、と言っても引く様子を一切見せない少女に根負けし、ハイリはナスカの手を引きながら、更に奥へ進んだ。
 狭い廊下を抜けた先には、部屋が一室あるだけというシンプルな間取り。
 あちらこちらに使われなくなったものだろう廃品が並ばれている。
 だが、そのどれもこれもが整理され置かれているようにも見える。
 部屋の中央にはダブルベッドがドンと置かれており、そのベッドのみが唯一埃も煤も無く綺麗にされてあった。
 掛けられた布団もシーツも、真新しい鮮やかな色をしている。
 と、そんなベッドでは先客が二人を待ち構えていた。
 先客というよりは元々居座っていた住人という言葉が正しいかもしれない。
 ショートの金の髪に蒼い瞳。
 真紅の口紅に短めのタイトスカートが印象的な女。
 妙齢にも中年にも見え、かつ高圧的に見える容姿。
 それとは別に、数々の修羅場を潜って来たと言わんばかりの貫禄がその女にはあった。
 ハイリが声を出すよりも早く、その女が先に口を開く。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...