そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜

文字の大きさ
222 / 365
第三篇 ~漆黒しか映らない復讐の瞳~

44案

しおりを挟む
  






 ―――小雨が降り続く早朝。
 広大な草原地帯を進む、荷馬車の列。
 それは王都エクソルティスへと続く路だった。
 ゆっくりと進む荷馬車はやがて、王都出入り口である門の前へと辿り着いた。

「通行許可証を」
「はい」

 そう言って先頭馬車の御者は番兵である人物へと通行許可証を見せる。
 判の捺された証を確認した番兵は敬礼した後、その手を奥の方へ向ける。

「どうぞ、お通りください」

 番兵の言葉を聞いた御者は軽く会釈し、手綱を叩こうとした。

「待て」

 しかし、先へ進もうとする馬車を止める声が何処からか聞こえてきた。
 それは門の向こうから姿を見せた―――別の兵士だった。
 馬に跨り急ぎやって来た様子の兵士は槍を構え、馬車の行く手を塞いだ。

「随分な大所帯だな」

 そう言うと兵士は先頭馬車の更に後方の馬車へと視線を移していく。
 確かに、大きな荷馬車の列は6台に渡っており、まるで一つの村が丸ごと移動しているかのようにも見える。
 兵士が疑うのも尤もと言えばそうだった。

「で、ですが隊長…この通り通行証は持っておりましたし……」

 しかし通行証がある以上、その疑念はあくまでもその兵士の偏見とも直感とも言える。
 そんな上官の行動に、明らかな動揺を見せ制止する部下の番兵。
 だが彼は部下の言葉に聞く耳も持たず。馬を降り、馬車へ近付く。

「僕らは旅の商い一座でして…国王様の嫡男様生誕祭に肖ろうと思いまして、遠路遥々足を運んだ次第です」
「商売をしにか? だとしてもこの人数でこの馬車の数…怪しいもんだ」

 御者である青年にそう返すと、兵士は疑いの眼差しを馬車の中へと向ける。
 と、兵士は半ば強引に馬車へ乗り込もうと幌を掴んだ。

「悪いが中を調べさせてもらう」

 そう言うと彼は荷馬車の中を覗き込む。
 だが、確認することなく、兵士はその手を止めた。

「動くな、喚くな。余計なことをしなければ命は取らん」

 幌の隙間から現れたもの―――それは鋭く輝く刃だった。
 剣先を喉元へと突き付けられた兵士は、静かに息を呑む。

「悪いけど…全てが終わるまでは拘束させて貰うわね」

 その言葉が耳に入ってきた直後、兵士の視界がぐにゃりと歪んだ。
 兵士の男は、一瞬にして力無く崩れ落ちた。

「凄い麻酔の効き目だね…」
「チェン=タンが用意してくれたものだけど…ちゃんと後で起きる…のよね…?」

 そう言いながら不安そうに倒れた兵士を覗き込む女性―――リデ。
 彼女に寄り添い、御者の男―――もといヤヲは眼鏡の蔓を押し上げながら言った。

「問題ない…とは断言出来ないけれど、こんなところで躓くわけにはいかないし…余計な犠牲者を出すよりはマシだよ」
「そう、よね」

 そう話す合間にも、気を失った兵士はレグによって手早く門の隅へと運ばれていく。
 少々乱雑に扱われているが、それでも目を覚まさないところを見るに、効き目は相当なもののようだった。

「…この兵士の後のことは頼んだわよ」
「はい」

 リデに言われ、返事をする番兵の男。
 彼は実は反乱組織ゾォバの人間で。この『革命』に向けて予め潜入していた内通者の一人だった。
 上官の暴走がなければ、今頃はすんなりと仲間たちを通過させていたところであった。

「とても勘の働く男で…なるべく此処の任には当たらないよう策は練っておいたのですが…」
「不測の事態は望まないときほど起こるものよ、仕方がないわ」

 リデの言葉にもう一度頭を下げた後、男は敬礼をした。

「痛み入ります。そちらこそお気を付けて」

 そうして、男の見送りを受けながら、馬車の列は再度進み始めた。
 向かうは王都エクソルティスの更に奥部。






    
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編) 王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編) 平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)

処理中です...