【R18】101回目の転生~天然無自覚少女は溺愛に気付かない~

しろ

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106.【ミュラ11歳】~ロキside~

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王都の貴族街にある店から出たところ、待ち構えていたかのように伯爵家のご令嬢が男爵令嬢達を従えて声をかけてきた。
適当に話を切り上げようと思っていたのだが、かなりしつこいご令嬢でなかなか離してはもらえなかった。

「ところでロキ様、ご婚約者様はまだ決められていらっしゃらないんですよね?もしよろしければ父が是非お話したいと申しておりますの。」

ぜーんぜんよろしくないよ。とは思っても顔には出さず、いつもの笑みで返す。

「ごめんね、婚約者はいないけど、好きな子はいるんだ。」

これはいつも言ってるお断りの常套句。
僕の好きな子はミュラだって知れ渡っている。その為、家格も容姿も太刀打ちできないと諦める令嬢が多いのだ。
しかし、目の前のご令嬢には効かないらしい。


「まぁ…それはお噂にあるロレイル公爵家のミュラ様の事ですの?」

リーダー格の伯爵令嬢の言葉に続き、子分の男爵令嬢達が次々と喋り出す。

「ミュラ様が見目麗しいというお話はよく聞きますけれど…未だ私達のお茶会には参加いただけず、王家や公爵家の方々しかお相手をされないとか…。」

「そうですわ。わたくしたちはまだ一度もお会いしたことがございません。そのように交流を狭めている方ですと…ロキ様のお相手には相応しくないのではなくって?」

「そうよねぇ、ゆくゆくは公爵婦人となるお方には…ねぇ?」

「それに、様々な方を誑かしているなどというお噂も…」

「まぁ、怖い。そんな方が本当の意味で美しいと言えるのかしら…」

「黙れ。」
次々とミュラを貶すような言葉を垂れ流す彼女達に我慢できず、反論しようとした所…
スルリと左手の小指に細い指が絡みついた。

「ロキ様、ごきげんよう。お話の所申し訳ございません。馬車の中からお見かけしたものですから…」

ニコリと美しい笑みを浮かべたミュラが、僕の小指をキュッと握っていた。
ミュラに会えたのは嬉しいけど、今はまずい。この女達にミュラが傷つけられでもしたら、俺は絶対許せない。

「ミュラ…。今は…」
席を外してと言う前に、ミュラはスッと美しいカーテシーをした。

「皆様、お初にお目にかかります。ロレイル公爵家長女、ミュラ・ド・ロレイルと申します。」

王宮でのお茶会の帰りなのか、淡いブルーのドレスを身に纏ったミュラはとても美しかった。
彼女達より小柄で華奢なミュラだったが、その立ち振舞いは年下とは思えない程凛としている。

しばらく皆がミュラの美しさにポカンと口を開けていたが、リーダー格の伯爵令嬢が声を荒げる。

「あら、あなたが…。わたくしはモクロー伯爵家のカミラよ。」

おい、この馬鹿女マジかよ。
いくらミュラが年下だからって、家格の上の者に対する挨拶じゃないだろ。フルネームも名乗らず何様なんだ。
ミュラが下に扱われたことに苛々し、口を挟もうとするも、ミュラがニコッと笑顔でまた小指を握ってきた。

「カミラ様、お会い出来て光栄です。どうぞよろしくお願いいたします。」

ミュラが丁寧に対応する事に優越感を持ったのか、馬鹿女の口は止まらない。

「うふふ。そこまで言うのなら懇意にしてあげてもいいわ。なんならお姉様と呼ばせてあげてもよくってよ。」

なーにがお姉様だ?!殺すぞ馬鹿女。
フツフツと沸き上がる殺意を放つ俺に、ミュラは僕の小指をまたクイッと握り、ニコッと笑う。

「ありがとうございます、カミラお姉様。あぁ…でも大変申し訳ないのですが、ノキシーお姉様から他の方に対してお姉様呼びはして欲しくないと言われておりますの。」

「あ…あら、ロキ様の妹君であるノキシー様に?それは仕方ないですわね。いいわ、二人だけの時にだけ呼ばせてあげるわ。」

おい馬鹿女。
お前、何どさくさに紛れてミュラと二人きりになろうとしてんだ。さっきから鼻の下伸びてるぞ。

「まぁ、ありがとうございます。カミラ様はお優しいのですね。」

「ふ、ふん。わかればいいのよ。…で、いつ会えるのよ?」

はぁ?だから何で会う約束しようとしてんだよ…。なんなんだこの馬鹿女は…。

「お茶会や王宮での勉強会の予定は、父に管理してもらってますの。自分で管理できずお恥ずかしいかぎりですわ。」

「全くしょうがないわね!ロレイル公爵家宛に連絡してあげるわよ。わたくしがこれから手取り足取り色々と教えてさしあげるわ。感謝しなさい。」

手取り足取りって何するつもりだ馬鹿女。

「ありがとうございます、カミラ様。」

ニコリとミュラが微笑めば、馬鹿女は頬を染めてゴクリと息を飲んだのを僕は冷めた目で見ていた。周りにいた男爵令嬢達は一言も発する事が出来ずポーッとミュラを見つめているし…。
このままミュラをこいつらの前に置いておくのはマズイ!

「ミュラ、そろそろ失礼しよう。あまり遅くなると公爵様が心配する。送って行くよ。」

「はい。本日は皆様とお会いできて嬉しかったです。では皆様、ごきげんよう。」

綺麗な所作で礼をしたミュラの手を引き、さっさと馬車に乗り込む。

馬車が走り出してしばらくすると…
「はぁぁ~…怖かったです…。」とミュラは涙目になってプルプル震えだした。やっぱり無理してたんだな。

「あんな奴らに構う必要無かったのに。」

「でも…ロキ様が私のせいで困ってらしたように見えたので…。お節介でしたでしょうか?ごめんなさい。」
しょぼんと肩を落とすミュラを抱き締める。

「うんん、ありがとう。…話、どこから聞いてたの?」

「私が皆様のお茶会に参加していない…というお話くらいからですね。本当の事ですし…仕方ありません。でも、そのせいでロキ様が嫌な思いをしてしまうのは申し訳なくて…。それに、ロキ様が反論してしまったら、カミラ様方も悲しい思いをしてしまいますし…ロキ様も皆様と仲違いしたくはないでしょう?」

この子はなんて優しいんだろう。
誰も傷つけずに、ちゃんと場を納めてみせた。
しかも彼女達に新しい扉を開かせた気もするし…。あれ、絶対惚れてたよな。

僕の好きな女の子は、やっぱり最高の女の子だな。

「ミュラ、大好きだよ。」

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