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ある日のこと。私がいつものように、エルナとご飯を食べているときだった。


「何だか騒がしいですね」


食堂の入り口に人だかりが出来ていた。キャーキャーと女子達の黄色い声が聞こえる。


「ラインハルト王子が復学したらしいよ」


ラインハルト王子はこの国の王子で、最近まで隣国に留学していた。留学期間を終えて、先日、この国に戻ってきたらしい。


「ちょっといいかな?」


誰かが声をかけてきた。見上げるとそこには、銀髪に青い目をした美しい少年がいた。


「ああん? 何てめぇ俺のフィーナに軽々しく話しかけてんだよ?」


キースが立ち上がって、凄まじい形相でにらみつける。


「キース、落ち着いてください」


私が言うとキースは舌打ちをして椅子に座り直す。


「久しぶりだね、フィーナ」


「はい、お久しぶりです殿下」


彼は私の友人であるラインハルト王子だ。留学に出発する前は、よく一緒に遊んでいたのだが、隣国に留学して以来会えてなかった。久しぶりに会う彼はますます大人っぽくなっていた気がする。


「殿下は辞めてくれ。昔みたいに呼び捨てにしてよ」


「それはできません。殿下は殿下ですから」


「そっか……まぁいいや、髪型変えた?」


私たちが和やかに話してる一方で、友人達がそわそわしている。


「……あ、あの」


エルナが恐る恐る手を上げる。


「……あの……殿下と、フィーナさんとは、どういうご関係で?」


「フィーナは僕の幼馴染だよ」


ラインハルト王子は、笑顔で答えた。


「「「お、幼馴染みぃいいいいいいいいいいいいいいい!?」」」


友人達が声をそろえて叫んだ。


「ご一緒しても良いかな?」


「ええ、もちろん」


ややあって私たちは昼飯を一緒に食べることになった。


「フィーナとは、昔からよく一緒に遊んだ仲でね。彼女は僕のことを弟みたいに可愛がってくれていたんだよ」


ラインハルト王子は懐かしそうに言う。


「しかし甘えん坊で泣き虫の殿下が、今や立派な王太子なんて、時が経つのは早いものですね」


「まったくだ。君は立派に成長し、とても美しい淑女なった。時間の流れとは残酷なモノだ……」


ラインハルト王子はしみじみと言う。


「殿下も相変わらず素敵ですわ」


「ありがとう。フィーナは相変わらず、ちょっと軽いな」


そう言ってラインハルト王子は笑う。私もつられて笑った。


「そういえば、フィーナ君はフォスキーア家の長男と婚約したそうだね」


「はい、おかげさまで……」


私は頬を赤く染めながら答えた。すると友人達が興味津々といった様子で尋ねてくる。


「フォスキーア家は我が国にとって重要な戦力だ。君にふさわしい嫁ぎ先だと思うよ」


歯の浮くようなセリフを、ラインハルト王子はさらっと言う。


「重要だなんて、私なんか取るに足らない女ですよ」


「相変わらず謙虚だな。もっと自分を誇りに思っても良いのに」


「殿下も相変わらずお世辞がお上手ですね」


「本心なんだけどな……」


ラインハルト王子は苦笑しながら言った。


「あ、そういえば殿下も隣国の王女とご婚約なさったとうかがいましたが……」


「ああ……」


私の問いにさっきまで機嫌のよかった殿下が、一転、歯切れの悪い返事をする。


「何かあったのですか?」


「……まあ色々あってね。悪い子ではないんだけどね……」


殿下は歯切れ悪く答えた。どうやらあまり触れられたくない話題のようだ。


「何かお力になれることがあったら遠慮なくおっしゃってくださいね」


「ありがとう……でも大丈夫だよ」


殿下はそう言って微笑むと、トレーを持って立ち上がる。


「それじゃあ僕はこれで」


「はい、またお会いしましょう」


私が言うと殿下は微笑み返して去って行った。


「フィーナも罪な女よね……」


「どういうこと?」


エルナがため息混じりに呟く。私が聞き返すと彼女は答えた。


「あんなイケメンに言い寄られてるのに、それを鼻にかけずに、相手のことを思って手を差し伸べようとするなんて……」


「いや、別にそんなつもりは……」


私が戸惑っていると彼女は言った。


「無自覚なところが恐ろしいわ」


「私と彼はエルナが思っているような間柄ではありませんし、お互い婚約者がいるのに、どうこうなるわけないでしょ」


「「「…………」」」


私がそう言い切ると、エルナたちは呆れたような目を私に向けて、溜息をついたのだった。
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