「お前のような奴と結婚できない」と婚約破棄された公爵令嬢は、獣人の王に拾われて溺愛されます

9

翌日、目が覚めると隣にはヴォルフがいた。彼はまだ眠っているようだ。私は起こさないようにそっと起き上がると台所へと向かうことにした。朝食の準備を始めるためである。


「よし、がんばるぞ！」


気合いを入れて腕まくりをすると料理に取りかかった。今日はパンと目玉焼きを作ることにする。材料を用意していると、背後から声が聞こえてきた。


「おはよう……」


振り返ると眠たそうな顔をしたヴォルフが立っているではないか！私は驚いて目を丸くしてしまった。すると彼は苦笑する。


「すまない……驚かせてしまったね」


私は首を横に振ると笑顔で言った。


「いいえ、気にしないでください」


ヴォルフはホッとしたような表情を浮かべると私に話しかけてくる。


「何か手伝うことはあるかい？」


私は考えた後、あるお願いをすることにした。それは洗濯物を干してもらおうと思ったのだ。いつもは自分でやっているのだが、今日は彼の手伝いがほしかったのである。


「じゃあ、お願いします！」


私が頼むと彼は快く了承してくれた。洗濯物の入った籠を持って庭に出ると手際よく干していく。その手際の良さに感心しながら眺めていた。あっという間に終わらせると次の仕事に取りかかろうとする。


「あの、もう少しゆっくりしても大丈夫ですよ」


私が言うとヴォルフは首を振った。


「いや、君一人に任せるのは悪いし……」


そこまで言ってくれるとは思いませんでした。私は嬉しくなって彼を抱きしめます。


「ありがとうございます！」


彼は照れ臭そうにしながらも微笑んでくれた。そんなヴォルフを見ながら思うのです。


（やっぱりこの人は素敵だな……）


私は心の底からそう思った。ヴォルフと一緒に朝食を食べ終えると、彼は立ち上がりました。「さて」と言うと私に微笑みかける。


「今日は市場に買い物に行かないかい？」


「行きたいです！」


私が即答すると彼は苦笑した。どうやら驚かせてしまったようです。私は申し訳なくなって俯いてしまいました。すると、ヴォルフは私の頭を撫でると優しく言うのです。


「大丈夫だよ、行こうか」


そう言って手を差し出してくれました。その手を取ると私たちは仲良く出かけることにしたのです。市場に着くとたくさんの人で賑わっていた。私はキョロキョロと見回しながら歩いていく。すると、ヴォルフが話しかけてきた。


「何か欲しいものはある？」


そう訊かれて私は考える。特にこれといって必要な物はないように思えたので首を横に振った。するとヴォルフは少し残念そうな顔をしているように見えたのです。どうしたのだろうかと思っていると、彼は私の手を引きながら歩き出しました。


「こっちに行ってみようか」


そう言われて連れて行かれたのはアクセサリーが売っているお店でした。可愛らしい小物がたくさんある。その中でも特に目を引いたのは綺麗な髪飾りだった。私は目を輝かせながらそれを手に取るとじっくりと眺める。ヴォルフに買ってもらいたいなあ、と思っていると不意に声をかけられたのです。


「それが欲しいのかい？」


振り返るとそこにいたのは若い男性でした。身なりが良くて爽やかな印象を受ける青年である。私は緊張しながらも頷いた。すると彼は笑顔になって言うのです。


「じゃあ、プレゼントしてあげるよ」


思わぬ言葉に私は驚いてしまいました。しかし、彼は気にせずにお金を払ってしまうと、そのまま私の手に髪飾りを握らせてくれたのです。


「あ、ありがとうございます！」


私がお礼を言うと彼は笑顔で答えてくれました。そして私の頭を優しく撫でてくれるのです。それがとても心地よくて私は自然と笑顔になっていました。それから彼と別れてからも上機嫌で買い物を楽しんだのでした。

家に戻ってくるとヴォルフが出迎えてくれます。私は買ってきたものを彼に見せました。彼はそれを受け取ると優しく微笑んでくれます。


「ありがとう」


その一言がすごく嬉しかったです。私は笑顔で頷くと自分の部屋に駆け上がると、もらった髪飾りを眺めました。さっそく身につけてみます。鏡を見ると自分でも驚くほど似合っているように見えました。


「ふふ」


自然と笑みがこぼれます。私はヴォルフに見せたくて玄関に向かいました。そして扉を開けると、ちょうどヴォルフが入ってくるところでした。彼は私を見ると驚いた顔をしています。


「その髪飾り……」


彼の言葉を聞いた瞬間、私の胸が高鳴りました。思わず笑顔が浮かんでしまうのを抑えられません。


「似合うかな？」


私が尋ねるとヴォルフは少し考えた後に頷いてくれました。その一言で胸が温かくなりました。嬉しくて駆け出すと彼に抱きつきます。彼は驚きながらも優しく受け止めてくれました。


「ありがとうございます！」


私は笑顔でお礼を言うと、ヴォルフも微笑み返してくれました。その笑顔がとても素敵だったので思わず見惚れてしまいます。そんな私を不思議そうに見つめると、ヴォルフは頭を撫でてくれました。私は幸せな気分に浸りながらずっと抱きついていたのです。