13 / 30
13
しおりを挟む
街に戻ると、すっかり暗くなっていたので私たちは食堂で食事を摂ることにした。街で評判の美人女将であるアンジュさんの切り盛りする食堂『金のリンゴ亭』は、値段の割に美味しくてボリュームたっぷりなので冒険者たちに人気となっている。今日も店内は賑わっており、私たちは空いている席を探して座ると料理を注文した。
「まぁ、ノエルちゃんが彼氏を連れてくるだなんて初めてじゃない!」
いつもはカウンター席の一番端っこでもくもくとご飯を食べていたが、今日はカイトを連れてきたのでアンジュさんは元々大きな目をまん丸くして私を見つめた。
「ち、違いますよ! 彼氏じゃなくて私の従業員です!」
アンジュさんは二十代後半の女性で、さらさらとした黒い髪と少し垂れ目の大きな胸が特徴だ。アンジュさんは早くに旦那さんを亡くしてしまったらしく、所謂未亡人だ。そんなアンジュさんを王都中の男性たちが狙っているが、アンジュさんは誰の申し出も断っているそうだ。
「二人はどんな関係なんだい? もしかしてもう済ませたのかい!?」
アンジュさんは興奮気味に私に尋ねる。
「……アンジュさん、声が大きいです……」
食堂中にアンジュさんの声が響き渡り、店内にいる冒険者たちの視線が私とカイトに突き刺さった。私は恥ずかしくなって顔を赤くすると俯くことしかできなかった。
「そ、それはですね……」
私が口ごもっていると、注文した料理が運ばれてくる。私たちは慌てて料理を口に運んだのだった。
「相変わらずアンジュさんの料理は絶品ですね!」
『金のリンゴ亭』名物の子牛の香草焼きを食べながら私は顔をほころばせる。カイトも満足げに肉を頬張っていた。
「俺もここの料理は好きだ」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」
アンジュさんが嬉しそうな表情を浮かべると、他のお客さんたちからも注文が殺到した。彼女はそれを笑顔で受け流すとてきぱきと仕事をこなしていく。
(本当にすごいなあ……)
そんなことを考えているうちに食事は終わった。代金を支払ってお店を出ると私たちは家に向かうのであった。
「カイト、今日はありがとうございました」
私は隣を歩くカイトにお礼を言った。今日一日彼に付き合ってもらったおかげで新しい装備の具合を確かめることができたのだ。
「俺も楽しませてもらったからな」
そう言って微笑むと私の頭をぽんと叩いた。
「……後ろに隠れてろ」
突然、カイトが真剣な表情でそう言った。私は言われるままに彼の背後に回ると、そのまま歩き続けた。しばらく歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。振り返るとそこには真黒な衣装に身を包んだ数人の男たちがいた。
男たちは目の部分だけが空いている黒装束に身を包んでいて、それぞれ鋭いナイフを手にしている。
「……何者だ」
カイトの問いに男たちは無言で答えると、一斉に襲い掛かってきた。
「はあっ!」
襲い掛かってくる黒い影たちを、カイトは抜刀せずに鞘に入ったままの剣で黒装束をひとり、またひとりと地面へと沈めていく。
力の差は歴然で、黒装束たちはカイトにかすり傷一つもつけることができなかった。
地面に倒れている一人をカイトは足で蹴ってごろりと仰向けにさせる。それから顔に剣を突き付けた。
「誰からの命令だ?」
「……我が身を透過せよ」
暗殺者が短い詠唱を唱えると、その体は風景と同化するように消えていく。
「……ありがとうございました。怪我はないですか?」
カイトの後ろで見ているだけだった私は、遠慮がちに声をかける。
「問題ない。ただの盗賊だったようだ」
カイトは何事もなかったかのように剣を鞘に収めると、再び歩き始める。
「すごいですね……全然見えなかったです……」
「実戦で使う機会は少ないだろうな……。そのぶん実力は折り紙付きだ」
カイトは得意げに笑いながら言った。
(この人にとってはこれくらいのことは日常茶飯事なんだろうなあ)
私は彼の背中を見つめながら心の中で呟いた。その後、無事に帰宅した私たちは装備をいつもの場所に戻しておくと、今日の疲れを癒すためにお風呂に入ることにした。
「一緒に入るか?」
「入りませんよ! もう子供じゃないんですから!」
私は顔を赤くしながら答えると、お風呂場へと向かった。脱衣所で服を脱いでから浴場に入ると、湯気が立ち込めていて視界が少しぼやける。石鹸を使って全身を洗ってから湯船に浸かった。
(気持ちいい……)
疲れがじんわりと溶け出していくような感覚に身を委ねながら天井を見つめる。それからしばらくしてお風呂から出ると、髪の毛を乾かしてから部屋に戻った。それからベッドに入って眠りにつくのであった。
「まぁ、ノエルちゃんが彼氏を連れてくるだなんて初めてじゃない!」
いつもはカウンター席の一番端っこでもくもくとご飯を食べていたが、今日はカイトを連れてきたのでアンジュさんは元々大きな目をまん丸くして私を見つめた。
「ち、違いますよ! 彼氏じゃなくて私の従業員です!」
アンジュさんは二十代後半の女性で、さらさらとした黒い髪と少し垂れ目の大きな胸が特徴だ。アンジュさんは早くに旦那さんを亡くしてしまったらしく、所謂未亡人だ。そんなアンジュさんを王都中の男性たちが狙っているが、アンジュさんは誰の申し出も断っているそうだ。
「二人はどんな関係なんだい? もしかしてもう済ませたのかい!?」
アンジュさんは興奮気味に私に尋ねる。
「……アンジュさん、声が大きいです……」
食堂中にアンジュさんの声が響き渡り、店内にいる冒険者たちの視線が私とカイトに突き刺さった。私は恥ずかしくなって顔を赤くすると俯くことしかできなかった。
「そ、それはですね……」
私が口ごもっていると、注文した料理が運ばれてくる。私たちは慌てて料理を口に運んだのだった。
「相変わらずアンジュさんの料理は絶品ですね!」
『金のリンゴ亭』名物の子牛の香草焼きを食べながら私は顔をほころばせる。カイトも満足げに肉を頬張っていた。
「俺もここの料理は好きだ」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」
アンジュさんが嬉しそうな表情を浮かべると、他のお客さんたちからも注文が殺到した。彼女はそれを笑顔で受け流すとてきぱきと仕事をこなしていく。
(本当にすごいなあ……)
そんなことを考えているうちに食事は終わった。代金を支払ってお店を出ると私たちは家に向かうのであった。
「カイト、今日はありがとうございました」
私は隣を歩くカイトにお礼を言った。今日一日彼に付き合ってもらったおかげで新しい装備の具合を確かめることができたのだ。
「俺も楽しませてもらったからな」
そう言って微笑むと私の頭をぽんと叩いた。
「……後ろに隠れてろ」
突然、カイトが真剣な表情でそう言った。私は言われるままに彼の背後に回ると、そのまま歩き続けた。しばらく歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。振り返るとそこには真黒な衣装に身を包んだ数人の男たちがいた。
男たちは目の部分だけが空いている黒装束に身を包んでいて、それぞれ鋭いナイフを手にしている。
「……何者だ」
カイトの問いに男たちは無言で答えると、一斉に襲い掛かってきた。
「はあっ!」
襲い掛かってくる黒い影たちを、カイトは抜刀せずに鞘に入ったままの剣で黒装束をひとり、またひとりと地面へと沈めていく。
力の差は歴然で、黒装束たちはカイトにかすり傷一つもつけることができなかった。
地面に倒れている一人をカイトは足で蹴ってごろりと仰向けにさせる。それから顔に剣を突き付けた。
「誰からの命令だ?」
「……我が身を透過せよ」
暗殺者が短い詠唱を唱えると、その体は風景と同化するように消えていく。
「……ありがとうございました。怪我はないですか?」
カイトの後ろで見ているだけだった私は、遠慮がちに声をかける。
「問題ない。ただの盗賊だったようだ」
カイトは何事もなかったかのように剣を鞘に収めると、再び歩き始める。
「すごいですね……全然見えなかったです……」
「実戦で使う機会は少ないだろうな……。そのぶん実力は折り紙付きだ」
カイトは得意げに笑いながら言った。
(この人にとってはこれくらいのことは日常茶飯事なんだろうなあ)
私は彼の背中を見つめながら心の中で呟いた。その後、無事に帰宅した私たちは装備をいつもの場所に戻しておくと、今日の疲れを癒すためにお風呂に入ることにした。
「一緒に入るか?」
「入りませんよ! もう子供じゃないんですから!」
私は顔を赤くしながら答えると、お風呂場へと向かった。脱衣所で服を脱いでから浴場に入ると、湯気が立ち込めていて視界が少しぼやける。石鹸を使って全身を洗ってから湯船に浸かった。
(気持ちいい……)
疲れがじんわりと溶け出していくような感覚に身を委ねながら天井を見つめる。それからしばらくしてお風呂から出ると、髪の毛を乾かしてから部屋に戻った。それからベッドに入って眠りにつくのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
158
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる