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終. 可愛くて愛しい人よ

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 ソフィアがラインハルトの元に訪れると、彼はベッドで横になって寝ていた。浅いとはいえお腹を刺されたのだ。安静にしなければならない。ソフィアは起きてから出直そうと思ったが、その前に息をしているかどうかを確かめようとして、ラインハルトの口元に手をかざした。
「……狸寝入りかな、ハル」
 呼吸の仕方が起きている時と同じだとソフィアは続けた。ラインハルトはバレてきまりが悪そうにした。
「おかえりなさい、ソフィア」
「ただいま、身体はどう?」
「大丈夫です。それより、何ですぐ来てくれないんですか?」
「先にマリアナの顔を見に行こうと思ってね」
「マリアナ優先ですか?」
「……この後に用事があった状態で会った方がよかったかな」
 それは嫌だとラインハルトは思った。そして、そもそもマリアナに会いに行く必要があるのかと感じた。
「なぜ会ったんですか?」
「私にはその必要があったんだ」
 ソフィアはハルに有無を言わせないように、話を変えた。
「刺されたと聞いて驚いたよ」
「心配しましたか?」
「した、めっちゃした」
 ソフィアは知らせを聞いて、なるべく急いで帰ってきた。その間、生きた心地がしなかった。
「あなたが倒れていた時、私はそのような気持ちでしたよ」
 ラインハルトはラーラに呪われた時など、ソフィアが怪我や体調を崩してベッドに伏せっていた時のことを思い返した。
「あまり無茶はしないでくださいね」
「まぁ、わかったよ」
 ソフィアはちょっとは気をつけようと思った。そして、本題を切り出した。
「あの時に聞かれたことなんだけれどね」
「はい」
 ラインハルトは健気にソフィアの答えを待った。
「ハルは、私の一番可愛い後輩だよ」
「そうですか……」
「でもね、それだけではないんだ」
 ソフィアは後輩と言われ、少ししょげているラインハルトの頭を撫でた。
「私はね、今も昔も結構身勝手なことしていたと思うんだ」
「自覚あったんですね」
「さすがにね」
 学生時代、ソフィアはラインハルトにいろいろやらかしてブンブン振り回した。そして、側室になってからも、仕事第一で側室を放棄していた。ソフィアには、理由はなんであれ、身勝手な自覚だけはあった。
「そのままでいてくださいね」
 ラインハルトは愛おしそうに笑った。
「そうやってね、私のことを受け止めてくれるハルが好きだよ」
「本当ですか?」
「うん、好きじゃなかったら、側室にされた時に大暴れしてたよ」
「え、あれ以上に?」
「避けるよりももっと効率よく会わずに済む方法はいくらでもあるよ」
 うんうんの当然のように頷いているソフィアを見て、ラインハルトは避けられるだけで済んでよかったと心底思った。
「他に好きなところありますか」
「ほか?」
「はい」
「……私に言わせるだけかな」
「それもそうですね」
 ソフィアはこちらだけ言うのは不公平だと思った。私は側室までされているんだぞという怒りのようなものを感じた。
「私はあなたの身勝手なところが気に入ってますよ」
 救われさえしましたとラインハルトは心の中で続けた。
「それは、あばたもえくぼってやつかな」
 ソフィアは褒められた気がしないと不満に思った。
「あとは、私に優しいところが好きです」
「そう」
 ソフィアは気に入った人間には優しくしている。ラインハルトも大のお気に入りであり、超絶最高に優しくしていたため、伝わっていてよかったと思った。
「ソフィアは私のどこがいい?他は?」
「そうだねー」
 ラインハルトはうきうきでソフィアに聞いた。
「可愛いところかなぁ」
「……え」
「素直なところ、意地っ張りなところはとても可愛らしい」
 ソフィアは今も昔もラインハルトのそういうところは変わっていないと思っている。たしかに、ちょっと狡猾になったり、強かさが増したりして、変わってしまったところもあるが、それもまた愛しいとソフィアは感じていた。
「かっこいいところは?」
「……え?」
「かっこいいと思うところはありませんか」
 ソフィアはゆっくり考え、口を開いた。
「ハル、それはこれから見せてほしい。ずっと一緒にいるからね」
 ソフィアは笑ってラインハルトを抱きしめた。ラインハルトは不満気だったが、抱きしめられて、まあいっかという気持ちに落ち着いた。
 それから、ラインハルトがソフィアにかっこいいところを見せられたのか、どのような道を歩むのか、それは彼次第だ。しかし、かっこ悪くても、どんなに険しい道を選んでも、ラインハルトの隣には一風変わった側室がいることは確かだろう。











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