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詩萊の歌と村を救う力
しおりを挟む「ルトのあざを、君が?……本当かい!? 」
詩萊の言葉を聞いたキールの顔が、ぱっと明るくなる。しかし。
「あざは黒い霧のせいでできたものだ。どうにかできるとしたら、聖女様しか居ないんじゃないか? 」
村人から、控えめな声が上がった。
なんとも言えなくなった部屋の空気に、やっぱり余計なことをしただろうか。そう詩萊が体をこわばらせた、その時。
「もし万一失敗しても、なにもしないよりずっと良いし、なによりシーラの気持ちが嬉しい。一度、シーラに任せてみないかい? 」
穏やかな顔のキールが、そう言葉を紡いだ。キールの言葉に、動けなくなっていた村人たちもそうだ、ルトになにもせず死なせるよりずっといい、と同意の声が上がる。
(私になにか出来るなら、今すべてを賭けたい! )
キールの言葉に覚悟を決めたシーラは、すう、と息を吸い、思いを込めて歌い始めた。
ふわふわ、さらさら。
心地いい感覚に、ルトは自然と自分が笑顔になるのを感じた。ずっと我慢していた痛みが引き、とても体が軽い。
いつまでもここで眠りたいくらいだ。そうルトが思っていると、女の人の優しい手が伸びてくる。
「ルトくん」
(この声、シーラねえちゃんだ!そうだ、僕シーラねえちゃんと遊びたいんだった! )
思い出したルトは、シーラだろう手を取る。そして、急いで駆け出した。
「う……?」
部屋が、夕日で赤い。
「あれ、僕シーラねえちゃんの手を、あれ、走って……? 」
寝ぼけた様子のルトの手に、もうあざはない。それに気付いた村人から、わあっ、と歓声が湧いた。
「本当に、本当にあざが消えた!ルト、ああルト! 」
「シーラ、君はまさか……本当の、聖女様? 」
「凄い、凄い! 」
奇跡を起こした詩萊を、笑顔の村人たちが取り囲む。
「凄いよシーラ!それに、なんて綺麗な歌だろう! 」
「シーラ、ありがとう、ありがとう! 」
かけられる礼の言葉に、村人たちの笑顔に。喜びと安堵が一緒になった詩萊は、にこりと微笑んだ。
「シーラ、実はお願いがあるんだ」
ルトが回復し、村人たちとひとしきり喜んだ後。ひとりの村人が、おずおずと切り出した。
「うちの女房にもあざができてるんだ。もう、もたないかもしれない。お願いだ、助けてくれ!なんでもする……! 」
「あなたの、奥さんも? 」
詩萊が驚いて聞き返すや否や、それまで喜んでいた村人たちも詩萊のもとへどっと押し寄せた。
「実は、うちのせがれも! 」
「わ、わたしの腕にも」
「うちの子も……! 」
一人を皮切りに一度に詩萊へと押し寄せた人の波に、キールが慌てて詩萊を守るように前へと立ちふさがる。
「落ち着くんだ、みんな! 」
にわかに騒がしくなった部屋の中、詩萊は考えていた。
(みんなこんなギリギリの状況の中、優しく私を助けてくれたんだ。恩返しが、したい……!今の私になら、それが出来るかもしれない! )
押し寄せる村人たちに潰されぬよう、必死で詩萊を守ってくれているキール。
キールにひとつ微笑んでから、詩萊はみんなが落ち着くようできるだけ穏やかに切り出した。
「みんな、大丈夫。あざのある人をひとつの場所に集めてください。そうすれば、みんなに歌が届くから」
そして、あっという間に夜。
村で一番の広場に集められたあざのある人たちは、期待半分、心配半分の表情で詩萊を今か今かと待っていた。
そこへ、夕方までとは違うドレスに身を包み、瞳と同じ青いリボンで髪を結い上げた詩萊が現れる。
(みんなが安心できるように聖女らしい服?に着替えさせて貰ったけど……大丈夫かな、みんなを助けられるかな)
先ほどルトを助けられたとはいえ、歌の力を人に使ったのはその一回きりなのだ。不安が頭をよぎるが、詩萊はそれを必死で打ち消した。
(駄目、駄目!私が弱気じゃあ、みんなが不安になっちゃう)
詩萊が村人たちに目をやると、祈るようにこちらを見ているのが分かった。キールもどこかつづるような銀の目で、こちらを見ている。
(私が、頑張るんだ。お母さん、力を貸して! )
お母さんとの思い出の歌に、ありったけの思いを込めて。
透き通った詩萊の歌声は、夜の村に優しく、力強く響いた。
(ああ、なんて穏やかで、美しい)
「あ……! 」
歌う詩萊に、キールも、村人たちも見惚れていく。そうしているうちに、村人たちの体からは綺麗にあざが無くなっていったのであった。
村のみんなのあざが消えてからは。正に夜を通してのお祭り騒ぎとなった。
詩萊が歌った広場ではみんなが大きな焚き火を囲って踊り、屋台がずらりと軒を連ねる。
「シーラ、ありがとう! 」
「シーラちゃん、みんな君のおかげだ」
「うちの料理、ぜひ食べていっとくれ!もちろん、お代なんて頂かないよ! 」
詩萊を見かけた村の人はみんな、口々に感謝の言葉を述べた。そして思い思いのプレゼントを渡しては踊りの輪へと入っていく。
今まで感謝などされたこともなかった詩萊はそれをくすぐったく感じつつも、村人たちの幸せそうな様子にこの上ない幸せを感じていた。
そんな中、臨時で出た屋台の串焼きを持ったキールが隣へと腰掛ける。
「隣、いいかな」
「はい、もちろん! 」
詩萊と同じく嬉しそうに笑うキールに、詩萊はぺこりと頭を下げた。
「キールさん、先ほどはありがとうございました」
「え? 」
不思議がるキールに、詩萊は言葉を続ける。
「私を守って、広場のセッティングもして下さいました。なんとお礼を言ったらいいか」
詩萊の言葉に、キールは慌てたように首を振った。
「とんでもない!こちらこそ、本当にありがとう。みんなを救ってくれて」
にこりと詩萊に微笑んだキールの美しさに、詩萊はどきりとする。
「歌っている君は、とても穏やかで――美しかった」
「げほっ!? 」
まさか今まさに美しいと思っていた相手にそんな言葉をかけられるとは思っていなくて、詩萊は持っていた飲み物で盛大にむせてしまった。
「済まない、大丈夫かい?驚かせるつもりは無かったんだ」
そう言って、触っても大丈夫?と聞いたあと背中をさすってくれたキールのおかげで、詩萊は人心地つく。
「こちらこそごめんなさい。キールさんみたいな綺麗な人にそう言ってもらえるなんて思ってもみなくて」
「えっ」
お互いに、綺麗だ、美しいと言い合って。暖かくも恥ずかしいような空気に詩萊とキールが頬を赤らめていると、どん!と後ろから可愛らしい衝撃が響いた。
「キールにいちゃん、シーラねえちゃんと仲良くしててずるい! 」
「ルトくん!体はもう大丈夫? 」
そう聞いた詩萊に、ルトはぴょんぴょんと飛び跳ねて応えた。いつの間にかルトの頭に収まっていたぴいちゃんも、どこか誇らしげに見える。
「ぴいちゃんと遊んでいてくれたのね、ありがとう」
「ぴいちゃん?この子ぴいちゃんって言うんだね!おーい!ぴいちゃん、ぴいちゃん! 」
突然始まったルトのぴいちゃんコールに応えるように、ぴいちゃんがちち、ぴぴぴと嬉しそうに鳴いた。
(ああ、幸せ)
それは、詩萊にとってお母さんがいなくなって初めての、幸せな幸せな一日だった。
夜も更けてなお、しずまらないお祭り。それを横目に、詩萊は少し静かな村の外れで腰掛ける。
(いろいろあったけど、みんなが助かって良かった)
その目には、眠気が既に色濃い。ふあ、と軽いあくびをした後に、少しだけ、と目を閉じていると、どこかからきれいな音が聞こえてきた。
「なんの音だろう。……ハープかな? 」
不思議がって詩萊が音を辿っていくと、たくさん建てられた石の前でハープを弾くキールが目に入った。
(キールさん、なんだか寂しそう。そっとしておいた方が良いかな)
離れよう。そう決めて踏み出した足が、石を踏んでじゃり、と鳴る。
「誰かいるのかい? 」
穏やかに問う声に、しまった!と思いつつも、詩萊は大人しくキールの前へと姿を現した。
「シーラ! 」
詩萊を見つけたキールが嬉しそうに微笑む。それだけで、詩萊の胸はどきりと高鳴る。
(な、なにこれ……? )
芽生えた不思議な気持ちを悟られないように、詩萊は平静を装ってキールへ話しかけた。
「キールさん、ここは? 」
「……村の人たちのお墓だよ」
そう言って、キールは更に言葉を続けた。
「私の友人の墓もある。……みんな、黒い霧で」
寂しそうに語るキールに、詩萊もきゅっと胸が痛くなる。
「だから、みんなにあざが消えた報告を兼ねて……鎮魂の曲を弾いていたんだ」
「そうか、だからさっきの曲は優しくて……少し悲しかったんですね」
詩萊は、キールの言葉に先ほどまでの旋律を思い出す。そして、聞いていた旋律に乗せて歌い始めた。
「!凄いな、もう覚えたのかい? 」
「少しだけ、ですけど。キールさん、良かったら」
一緒に歌わせてくれませんか。詩萊の言葉に、キールは笑顔で頷く。
「ありがとう。きっと、みんな喜ぶよ」
静寂に包まれた夜の中、二人の旋律だけが響く。それを聞いたのは、墓に眠る人々と夜の優しい闇だけだった。
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