迷子の僕の異世界生活

クローナ

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前夜の出来事

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華やかなデザートプレートのうち「好きなだけ」とクラウスは言ってくれたけど可愛くても量が多いから調子に乗ればせっかくの夕飯が食べられなくなってしまう。
でもやっぱり誘惑には勝てず甘い物担当は俺でそれ以外はクラウスに。膝の上でおもてなししてもらいながらお皿が空になったのを見計らうように再び侍従さんが現れたのだけど宰相首席補佐官のリシュリューさんも一緒だった。

「失礼いたします。御寛ぎの所私室に押し掛けてしまい申し訳ありません。トウヤ様に於かれましては体調はいかがでございますか?ご覧になられたかと存じますが本日も城門前が大変混み合っているため午後よりの登城となるからには騎馬でのお迎えしか出来ず誠に申し訳ありませんでした。もう少し遅くであれば馬車でもお越しいただけたのですが国王陛下との謁見のみの予定が夕食会に変更になった結果この様な選択しかなかったことご了承頂けたらと思います。」

久しぶりに会ったリシュリューさんは立ったままひと息に話すと俺に向かって会釈をした姿勢でピタリと止まった。

ノートンさんがいないから話を聞き洩らさないように身構えていたけれど短くて良かった。
でもそっか、王様と夕飯なんて緊張するかもって思ったけどそのお陰で馬車じゃなかったんだ。

「こ、こんにちは。えと…元気です。ひとりでは乗れませんが乗せてもらうのは好きなので馬車じゃなくても平気です。」

クラウス限定だけど。

「お心遣い痛み入ります。それではトウヤ様にお伝えすべき事がひとつふたつございますので続けさせて頂きます。」

「あのっ!」

思わず手を挙げてしまった俺を見てリシュリューさんが眼鏡を僅かに押し上げる。

「リシュリュー様も座って下さい。」

侍従さん達がテーブルをきれいに片付けて花まで飾ってくれたソファーセットへリシュリューさんを誘った。部屋を訪れてすぐに話し始めてしまったので俺だけが座っているのは気が引ける。でもリシュリューさんはその場を動かなかった。

「トウヤ様、私の事はリシュリューと呼び捨て下さいもしくはブランジェでも構いません。ご配慮は有り難いのですが時間がないのでこのままご説明させていただきます。先日こちらに滞在なされた際に用意が間に合っておらずご不便をおかけいたしましたが今現在クローゼットの中にトウヤ様のお衣装と致しまして外出着からハンカチ、装飾品等一通り整えてございます。お召し替えが必要でしたらどうぞご自由になさって下さい。もちろんそれらをお召になったままお帰りになられても構いませんが本日中にはあちらの邸宅も清掃が完了しクローゼットの中に同じ様に揃えておりますのでどちらも気兼ねなくお使い下さい。それからお帰りになるまでにはそちらの護衛騎士に邸宅の『鍵』を渡しておきます。最初にその鍵を使って入室いただければ魔法錠が作動するそうなので必ずトウヤ様が行って下さい。入室許可をされるならその者に同じ様にさせて下さい。トマスから初日に報告が上がっておりましたバスタブですがこちらの物も変更致しておりますのでご安心下さい。ご希望とあれば寝具やソファーその他家具諸々をトウヤ様のご身体に合うものに変更いたしますので遠慮なく申し付けください。それから明日なのですがトウヤ様のお披露目式のお支度がありますので少々お早めに起床頂かねばなりません。起床時間は後ほど護衛騎士に申し伝えておきます。───以上でございます。」

綺麗な営業スマイルをキープして伝えられた長い業務連絡がようやく締めくくられた言葉に止めてしまっていた息をほっと吐いた。だけどさっきと違って服に部屋にと情報量が多すぎる。最初に『ひとつふたつ』って言わなかったっけ。

「──すみません。さして重要な事でもないのですが何分先程報告の上がって来た件も含んでおりまして他者を介すと時間を取られますので直接お伝えしてしまいました。それではこれ以降お帰りになられるまでの間にはお会いする機会がないと思われますので何かご不便があれば護衛騎士にお伝え下さい。では失礼いたします。」

頭が追いつかなくて相槌ひとつ打たず挙げ句に息を吐いたのを溜め息と勘違いしたのかリシュリューさんは申し訳無さそうに一礼すると踵を返した。

「あ、あの!」

リシュリューさんにとっては重要でないかも知れないけれど俺には簡単に流せない話ばかりで戻ってしまうのならせめて一言お礼が言いたかった。

「なにかご不明な点が?」

「あ、いえ。お忙しいのにありがとうございますリシュリューさ…ん。」

「トウヤ様私はただの下っ端の官職敬称は不要です。なにかご質問はございますか?」

『様』と言おうとした時その視線が咎めるように向けられた気がして慌てて言い換えたけれどそれさえも注意されてしまった。『さん』付けも駄目だなんて難しい。だけどそのままもう少し居てくれるのか俺に向き直り立ち止まったままのリシュリューさんに聞きたい事ならある。

「その…お部屋の改装もう終わったんですか?」

「ええ、予定では登城前に内部を確認していただきこの場で直接不具合等をお聞きしたかったのですが遅れてしまいました。申し訳ございません。」

「いえ、遅れたなんてそんな…思ったより早くて驚きました。と言うか工事してるの全然気付かなくてもっとずっと先になると思っていました。」

なぜそう思ったのかと言えば俺はあれ以来トマスさんにも他の工事関係者にも会ってない。見かけたらお茶の差し入れくらいしようと思っていたのに別棟はいつも静まり返っていた。

「トウヤ様にそう仰られては仕方ありません工期遅延に依るランクの降格は見送りましょう。他にはございますか?」

「え!あ、はい、服もありがとうございます。でもその…私はサイズがちょっと……もしも無駄にしてしまったらすみません。」

市販の物は身丈に合わせると肩や腕が大きくウエストに合わせると丈が短くて『桜の庭』では贅沢にもテーラーさんが型紙を起こして作ってくれた物を作業服代わりに着回している。丈夫で動きやすくてもうそればかりだ。

「サイズはひと月前の物ではございますがご心配になるほどご成長なさいましたか?それはいけませんね。10日前にお会いしたので気が付きませんでした。「任せろ」と言うのを信用すべきではありませんね。そうなれば変更が必要ですがとりあえず明日のご衣装だけでも今から呼び出して───」

「ひと月前?」

手にしていた分厚い本はスケジュール帳らしくページを捲り何やら思案し始めた。

「ええ、王室御用達の仕立て屋に依頼したところ偶然そちらへ出入りしている者がおりましてそれならばトウヤ様にお似合いになる物もわかるだろうと任せました。ちなみに『桜の庭』のクローゼットには普段遣いのできるものを多目にご用意してあるはずです。」

「それなら全然大丈夫です!」

まさかそんな風にしてくれているとは思わなくて慌てて訂正すればリシュリューさんはにっこり笑ってパタンと音のする分厚い手帳を閉じまた俺に「他にないか」と訪ねてくれた。
本音を言えば降格になりそうだったと言うトマスさんの事が少し気になるけれどなぜか回避されたみたいだし忙しいと言った割には丁寧に返事をくれたリシュリューさんの時間をこれ以上取らせるのは申し訳ない。

「ありません。いろいろとありがとうございました。」

「私は上司から指示を受けすべき事をしたまでです。お礼でしたら国王陛下か第一皇子様になさって下さい。」

「もちろんお二人にもお礼は言います。でも私の為に動いてくれたのはリシュリュー様も同じですよね?服もお部屋もありがとうございます。それと遅くなりましたが今日の為に『桜の庭』へジェシカさんとハンナさんを派遣してくださってありがとうございました。二人共とても良くして下さいます。子供たちも懐いていて今日も安心して出かけることができました。本当にありがとうございました。」

立ち上がりお礼を言うとリシュリューさんは驚いた顔をしてほんの一瞬固まってしまった。それからそれを誤魔化すように眼鏡を中指でくいっと押し上げると俺を見据えた。

「過分な評価を頂き光栄です。──しかし、私のことは呼び捨てるように最初にお願い致しました。それに敬語も不要です。私は下っ端の管理職トウヤ様の人となりは聞き及んでおりますがそのような者に敬語を使われてはトウヤ様のお立場を軽んじるアホが出でまいります。そしてそのアホは引いてはトウヤ様を取り巻く全てを軽んじる事になりかねません。すぐには無理でしょうが大事なことですのでなるべく早めに馴れて下さい。ですが───」

言われた事を忘れてしまったのは確かに俺が悪いのだけど宰相と言う役職は王様の次に重要でリシュリューさんはその人の補佐の中でも一番仕事ができる人だと聞いていた。しかも絶対にクラウスよりも年上の人にタメ口なんてハードルが高すぎる。でもそうしないと俺の周りの人に迷惑になると言われているのかな。
だけどいくらそれが正しいのだと言われても日本社会で育った常識が染み付いてしまった俺にはやっぱり難しい。

「堅いなリシュリュー、トウヤが困ってるではないか。」

不意に頭の上から聞こえた声が困惑していた俺を庇ってくれた。それはいつの間にかクラウスが招き入れたアルフ様だった。



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