蒼き狼の愛慕【完結】

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Ⅴリンの章【共生】

02.

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ミイナに連れられて入った部屋は、窓から明るい光が漏れ広がっていて、色とりどりの小瓶や球が所狭しと並べられていた。あらゆる形態の草や葉っぱなどの植物も置かれており、独特の薬のような、お香のような匂いがする。

「ここは、宮廷の薬品庫です。私のような巫女が治療に使う薬品を管理しています。先ほど乗って頂いたトロッコは薬品を運ぶためのものです。元帥の目を逸らすためとはいえ、失礼しました」

人狼社会の巫女は、祈祷師というより、薬師のような存在らしいが、ミイナはどこか品があり、巫女と呼ばれるのにふさわしい気がする。

「リン様はお声を患われていらっしゃるとか。私は巫女の中でも声を操る能があります。よろしければ、治療に協力させていただけないかと」

ミイナはリンを窓際のソファに座らせるとその前にひざまずき、金色の目でじっと見上げた。

治療、…

久我宮伯爵家で池に落ちた時でさえ、屋敷の離れで寝かせてもらってはいたが、治療と呼べるような扱いは受けなかった。今まで、リンを癒してくれたのはユキだけだ。

ミイナの申し出は有難い限りだったが、治療行為になじみのないリンは返事に窮した。

急にユキに黙って部屋を抜け出してきたことが心配になってきた。今やリンはユキの一部で、ユキはリンの全てだ。

「突然の申し出に驚かれるのも無理はありません。それに、…このようなところにお呼び立てしたりして、ご不審に思ってらっしゃるでしょうね。ユキ様に伝えるのが一番いいのは分かっているのですが、ユキ様は私をリン様にお近づけになりたくないかと、…」

リンの胸中は、ミイナに筒抜けらしかった。
雌の人狼は、金色の瞳を揺らすと、困ったように微笑んだ。

「私は、ユキ様のつがい候補なのです」

番、…?

「ユキ様は絶対的なボスですから、次期リーダーを産む資質のある雌を伴侶にお迎えになります。群れの中でユキ様の伴侶としてふさわしいと選定された者が番候補としてユキ様にお仕えしているのです」

人狼社会の仕組みについて、リンは全く分かっていなかった。

ユキが人狼の中でも珍しい白い毛並みを持つことや、ボスと呼ばれてかしずかれていることはなんとなく感じ取ってはいたが、それが人狼社会においてどういう存在なのか考えていなかった。

ユキはひたすらに甘く優しくリンを包んでくれて、一切の不安を与えない。ユキといれば、そこは楽園で、悲しみも苦しみもなく、夢のような幸福で満たされる。

しかし。

ユキにはリンの知らない立場があるらしい。
人狼社会はボスを中心に、元帥や巫女が存在し、元老院と呼ばれる機関などもあるらしい。
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