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iiyori.04

05.

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「慰めたげる」

油断も隙もない鷹峰くんの顔が間近に迫ってくるので、

「いりませんっ!!」

気合を入れて押し退けた。

ら、鷹峰くんは素直に退いてくれたけど、気合を入れた両腕を引っ張られたので、そのまま鷹峰くんにダイブする形になってしまった。

「ちょ、…っ!?」
「し―――っ」

慌てて離れようとするも、鷹峰くんの両腕に囲まれてなだめられた。

「なんもないから。弱ってるなえちゃんに励ましのハグ」

きゅうっと緩く、男子高校生の広い胸に受け止められる。
若くて溌剌はつらつとしていて広くて大きい。ちょっとしたことで暴走するくせに、繊細で鋭くて、弱ったところに手を伸ばしてくれる。常々思うけど、高校生って驚くほど大人だ。

「いやいや、なんもなくないから。問題だから」

なんて、授業中に学校で男子高校生にハグで慰めを請うとかありえない。

「気持ちだけ有難くもらっとくね。気持ちだけ。…って、別に弱ってないし? 健全なばばあ以外に何にもないし??」

鷹峰くんを押し返して体勢を立て直すと、開いた距離の隙間から窓の外の光景が見えて、バッと窓枠に張り付いた。

校門を入って校庭脇の通りを校舎に向かって歩いてくる。
すらりと背が高く長い手足の凛々しい立ち姿。

どうして。
こんなに離れてるのに、ほんの一瞬で分かるんだろう。

「あーあ、…」

鷹峰くんの諦めたようなため息が落ちた。
それで悟った。鷹峰くんは私より先に気づいてたんだ。それで多分、見せないようにしてくれたんだ。

「…まあ、なえちゃん。女は顔じゃないから」

窓の上枠に手をかけて、鷹峰くんが気だるそうに私の後ろに立つ。ものすごく絶妙なフォローをしてくれているのは分かるけど、返事が出来ない。

目の前の光景から目が離せない。声が出ない。動けない。

穂月がいる。
立って動いて歩いて、そこにいる。無事でいてくれて、本当に嬉しい。

だけど。

何か言いながら歩いてくる制服姿の穂月の右腕に、モデルさんみたいにスタイルが良くて顔が小さくて小柄で色白な女の子の腕が絡まっていた。制服同士で並んで歩いてくる。

それはあまりにもお似合いで、眩しくて、圧倒される青春の光景。制服の恋。憧れの恋愛リアリティ。

私はその中に入れない。

「…行こ」

立ち尽くしている私の肩を抱いて、鷹峰くんが促した。

「…行く?」

おうむ返しに聞き返す。壊れた機械のような声音が自分の声とは思えない。何かを取り繕う余裕もない。

「親戚としても担当教諭としても、遅刻を問いただす権利はあるでしょ」

鷹峰くんが、出来の悪い生徒に言い聞かせるように、私を窓から引きはがすけど、足がすくんで動けない。

だって。
だって、…

「…無事ならいい」

額田王から出来る女の心得を享受しないと、取り乱す自信しかない。
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